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日が沈み、行動を開始した。オーガの集落の谷を抜け、森を抜けてラッグス達がいた集落跡を目指した。

渓谷を下り、オーガの集落を遠くに見える場所に来たときに、動く松明がいくつもあることに気付いた。人間達がオーガの集落を包囲しているようだった。

ロンは怒りの目で松明を睨んでいた。

「ロン、今はボク達に力を貸して」

フロガはそういってロンの足に触れた。

ただ、問題があった。

フロガ達コブリンは小柄で物陰に隠れれば見つかりにくいが、ロンは大きく目立ちすぎた。

暗がりでも隠れようがなかった。

少数の人間の部隊ならクラやラッグスもいるので勝てるだろう。

だが、人間の数は多かった。すぐに仲間を呼んで大勢に取り囲まれてしまう。

オーガの集落周辺は赤い岩が転がる谷あいで、木もすくなく、オーガが隠れる場所はほとんどなかった。


ジリジリと進んでいるフロガ一向はオーガ集落の近くに来た。

「止まってくれ」

オーガに担がれたグラッツィがひび割れた声で言った。

「父さん、大丈夫?」

フロガは心配になり声をかけたが、グラッツィは燃えるような瞳をしていた。

「俺が足止めをする」

「え!?ダメだよ父さん」

「フロガ。お前を守る為だ。これが最善だ。わかるだろう」

「で、でも・・・」

「罠を張るからみんな手伝ってくれるか?」

「お、俺、戦ウ」

ロンは遠くで揺れる松明を睨みながら言った。

グラッツィはロンを見上げ

「お前の命、俺にくれるか?多くの敵を倒せるぞ?だから少し待ってくれ」

「アア」

クラはグラッツィに近寄り小さな声で

「老いぼれの命もくれてやる。準備が出来たら人間をつれてきてやる」

そういって楽しそうに笑った。

グラッツィは低い位置に紐縄や棒をしかけ、人間達を転ばせる作戦を伝えた。

手分けしてつる草や木の枝を岩に結びつけ罠を作り、ロンは投げられる岩や石を集め積み上げた。

グラッツィは少し離れた場所に隠れ、ロンの援護の準備をしていた。


「そろそろ準備はよさそうじゃな。人間を呼んできたら後ろから襲うか。いや、呼ばれてないヤツらのところへ遊びにいくかの」

クラは楽しそうにニコニコしながら言った。

「それとラッグスよ。フロガを頼むぞ」

ラッグスは無言で頷いた。

「フロガよ。おぬしは生きなければならん。ワシらはここで死ぬ。わかるな?」

フロガはクラに抱きついて泣いた。

本当はクラにも父にも死んでほしくなんてない。

しかし、フロガは自分を活かす為、自分達の誇りをかけて戦う者達を止める事は出来なかった。

「ではフロガよ。達者でな」

それだけを言い残して、クラは闇の中へ消えてしまった。

フロガは父の元へ戻り、抱きついた。

グラッツィは何も言わずフロガを抱きしめ頷いていた。

「父さん・・・」

「フロガ、生きるんだ。戦いが始まったら隙を見て逃げるんだぞ」

フロガが涙をぬぐった時に人間の怒鳴り声とドカドカという足音が迫ってきた。

「隠れろフロガ」

「うん。父さんありがとう。ロンもありがとう」

フロガ達は少し離れた岩の裏に隠れ様子を見守った。

ロンが空気を切り裂くような雄たけびを上げ、大きな岩を投げた。

その岩は地面に落ち、周囲に衝撃を与えた。

すぐに人間たちが騒ぎ出し、周辺に人間の部隊が集まってきた。

その隙にフロガ達はそのまま移動し、人間の野営地を抜け、オーガの集落へと進んだ。


クラは野営地に火を放ち混乱を引き起こした。

その混乱に乗じてフロガ達は急いで安全な場所へと向かう。

父、クラ、ロンとわかれた事が心に重くのしかかりながらも、フロガは自分の使命を全うするために前進し続ける決意を固めていた。



フロガたちは集落に到着することなく、行き先を急ぐ中で、激しい戦闘の痕跡と廃墟を目の当たりにした。フロガの心には重い暗雲が立ち込めていた。

彼の頭の中には、父とクラの死を無駄にしないためにどうすればいいのかという疑問が渦巻いていた。


ある晩、フロガは一人で炎の前に座っていた。

フロガは声を震わせ、涙が止まらなかった。

「みんながボクを助けようとして死んでしまう。母さんも、父さんも…」

突然、ラッグスが近づいてきた。彼はフロガの前に立ち止まり、その目には怒りと心配が入り混じっていた。

「みんなが犠牲になって、ボクだけが生き残って・・・」

その瞬間、ラッグスはフロガの頬を一発、強く殴りつけた。

フロガは地面に倒れこみ、驚きと痛みが交錯する中で、ラッグスの怒りの表情を見上げた。

「お前は生きるんだ!みんなの死を無駄にするのか?」

ラッグスの声は震えながらも、力強い意志が込められていた。

フロガは無言で痛みを感じながらも、ラッグスの言葉が心に突き刺さった。彼は涙をぬぐい、立ち上がりながら深呼吸をした。

「…わかった。みんなの死を無駄にしないように、ボクは…生き残る。だから、ラッグスも・・・」

ラッグスは頷き、その後ろで他の仲間たちも静かに見守っていた。フロガは自分の心を奮い立たせ、再び前を向く決意を固めた。彼は仲間たちの意志を受け継ぎ、これからの戦いに挑む覚悟を決めた。


フロガ達はなんとかザザ達のいる大木のしたの隠れ家近くまで戻ってきた。

入口の近くまでくると、気配を察してかザザとリッドが出てきてフロガに抱きついた。

「フロガ、戻っテキタ」

二人は嬉しそうにしていたが、フロガは暗い表情で

「父さんを見つけた。でも父さんもクラも、ボクを逃がすために・・・」

コーリも出てきて

「とにかく中に入って。後ろの皆さんも。少しだけど食べ物もあるわ」

そう促されて中に入り、これまでの出来事や新たに出来た仲間の紹介などをした。

ここにくる道中、ラッグス達と今後、人の来ない森か山の深くに隠れないかと話し合っていた。

その事をこの隠れ家にいる仲間にフロガは説明をした。

リッドは終始

「フロガにツイテイク」

としがみついていたが、ザザ、コーリ、ギッギも

「族長の意見に従う」

と言ったものだった。

ギッギの失った足で歩けないことも、ラッグス、ゴロ、スニグで交代におぶって運ぶ事になった。

ギッギは申し訳なさそうにしていたが

「オレ達強イ、お前クライ簡単に運ベル」

と説得され、皆でここを離れ山の奥深くを目指した。

人間の活動しない深夜、三日月が天にのぼるころに出発した。


失った代償はあまりにも大きく、心には深い痛みが残っていた。

それでも、フロガは月を見上げながらゆっくりと深呼吸した。これまでの旅路で、彼は多くを失い、多くを学んだ。

誰かに守られるばかりだった自分が、今や仲間を導く存在として立っている。自分を守るために命を捧げた父やクラの姿が脳裏をよぎり、再び涙がこぼれそうになる。

しかし、その瞬間、ラッグスの言葉が胸に響いた。

「お前は生きるんだ!みんなの死を無駄にするのか?」

その言葉は、まるで重たい鎖を断ち切るかのように、フロガの心を強く揺り動かした。

「父さん、クラ、みんな…ありがとう。僕は…前に進むよ。」

フロガは小さくつぶやき、拳を固く握った。

仲間たちが静かに彼を見守る中、フロガは決意を新たにして一歩を踏み出した。

これからの道のりがどれほど困難であろうと、彼はもう迷わない。

自分を信じ、仲間を信じて進む。月明かりの下で、彼の瞳には再び希望の光が灯っていた。

「よし!みんな、行こう!」

フロガは声を張り上げ、新天地を目指して仲間たちと共に歩き出した。

遠くで狼たちが静かに遠吠えをあげ、まるで彼らを見送っているかのようだった。

以上で完結となります。

読んでいただいてありがとうございました。

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