12
「父はオーガのところに」と言っていたカジャの言葉を頼りに、オーガを知るかもしれないゴブリンが平原の廃墟にいるはずだと言うクラに従い平原を目指すフロガとクラ。
フロガは黙って歩いているクラの後ろを黙って歩いていた。
クラは老人で杖をついているのに力強くしっかり歩いていた。
「森を抜けた先で一度休憩しよう。位置も少し確認しないとな」
クラは少しだけ顔を横に向けフロガにそう言った。そして立ち止まった。
フロガはクラにぶつかりそうになり慌てて止まった。
「どうしたの?」
「しっ・・・気付かぬか。そうか」
クラはフロガの方を見ずにゆっくりと左手を上げて左前方を指さした。
二人はまだ森の中におり、木々が多く視界は悪かった。フロガは目を凝らしたがわからなかった。
「もうすこし上じゃ」
フロガは目線を少しだけあげたときにわずかに動く木に巻き付いた茶色の縄のような生き物を見つけた。フロガの胴くらいあるヘビだった。まだ距離は10歩ほどある。
「アイツはワシらを食料にするつもりのようじゃな。ワシらの昼飯としよう」
「どうやってヘビを倒すの・・・」
フロガがヘビから目を話しクラを見たつもりだった。クラは消えていた。
ドサリと音がしてフロガがヘビの方を見るとヘビの頭にクラの杖が刺さっていた。
ヘビは一撃で倒されていた。
どこに消えたかわからなかったが、クラは木の上からザッとヘビの横に着地した。
フロガは瞬く間の出来事に固まっていたが
「二人で食うにはちと多いか」
と足でヘビの首元を踏んで杖を抜きながらクラがぽつりと言った。
ヘビは大きかった。
フロガとクラの二人分より長く、太さはフロガの胴よりは細かったがふとももくらいの太さがあった。
重くて持ち上がらないので、ここで食べることにした。
フロガはかじりつき皮を裂き、クラが少し持ち上げて引っ張っていた。
茶色い皮の中の赤とピンクの肉の部分が広がっていく。
フロガは口の周りについた皮と肉と血を咀嚼しながら
「全部は食べられないよコレ」
「うむ、食えるだけ食って少しだけ肉を持っていこう」
皮をはいだ肉を交互にかじりながら食べた。
「さっきのクラの動きが全然見えなかった」
クラは返事をせずにヘビにかじりつきムシャムシャと噛みゴクリと飲み込んで
「そうか、フロガがもし一人だったらどうした?」
フロガもヘビをかじりながら
「うーん逃げるかな・・・食べられちゃうかな?」
「そうじゃな。ヘビの方が早い。では仲間が二人・・・そうじゃな、ザザとリッドが居たらどうした?」
「うーん?三人いれば勝てるかもだね。真ん中と右と左に分かれてみんなで木とか石とかで殴って」
「うむうむ、それじゃ」
「え?どれ?」
「まあよい、もし何かと戦うことになったら仲間と共に戦っていると思うのじゃ。ぼーっとしていてはダメじゃ」
「でもボク弱いし・・・」
下を向くフロガの顔をクラは両手で持ち自分の方に向けた。
「おぬしは弱くとも仲間が助ける、共に戦うのじゃ。ワシも力を貸す。それだけは覚えておけ」
そういってフロガの顔から手を離し
「ワシは少しの間だけ気配を消せる。だが長くはもたんし続けては使えん」
フロガはクラが少しだけ笑っているように見えたのが理解できず、不思議な気持ちで見ていた。
ヘビを食べ、少しだけ肉を持ち、二人はまた歩き出した。
木に囲まれていた景色は、徐々に視界が広がっていき、背の高い草が多くなってきた。
フロガは小川の魚を思い出し、風に揺れる草に怯えていた。
キョロキョロと落ち着かないフロガを見たクラが
「大丈夫じゃ、今の所なにもいない、あの丘の上で周りを見てみよう」
先にある小高い丘を杖で指したが、草がジャマでよくみえなかった。
怯えるフロガは草をかき分けて進むクラの後を黙ってついていった。
ほどなく、丘の上についた。
「ここで位置を確認しよう」
丘の上も草が多かったが、クラが杖で軽く払うと草はクタリとした。
何度か杖を振り回しながら歩くと視界が開けた。
フロガは黙っていたが、眼前に広がる広大な草原と、振り返ると鬱蒼とした森の後ろにそびえる高い山を見て息を飲んだ。
素晴らしい景色だと思っていたが、遠くに流れる川を見て、現実に引き戻された。
「クラ、平原のゴブリンはどこにいるの?」
クラは遠くを見ていたが、フロガの方を向き少しニヤリとしたような表情をして
「もう怯えていないのか族長?」
「もう!からかわないでよ!ボクは大丈夫」
「そうか。草原の先に人間の村がある。今は人間はいないがな。そこに行く。あっちじゃ」
クラは杖を突き出し、目を細めて草原の先を指示した。
フロガもそちらに目をやりながらつぶやいた。
「遠いなぁ」
「まあこのまま行けば日の入りまでにはつくじゃろう。では行くか」
そう言ってまた歩き出した。
目指す場所がわかり、フロガは少しほっとした気分になりクラと話しながら歩いた。
クラやみんなはどうやって人間の襲撃から生き延びたのか聞き、フロガもどうやって生き残れたのかを話した。
なんでもクラは気配を消して捕まっているギッギやリッドを助けたらしい。
ザザとコーリは住処の洞窟の外にいたのでクラが見つけみんなを木の根の穴に連れて行ったとの事だった。全てクラの行動で助かっていたのだ。
フロガはセグに助けてもらって、ここまで生き残った事を話した。
クラやセグの勇敢さに比べ、自分がなんと無力なのだろうと痛感した。
クラはそんな様子のフロガを気にすることなく
「ドワーフのセグ。セグリノールは強かっただろう。あやつはそんなに簡単にくたばるとは思えんの」
「クラはセグを知っているの?」
「少しだけな。何度かあやつの取引に同行したことがある。ドワーフの中でも変わり者のようじゃったか、戦えば強いし機転もきく。少し得体の知れなさはあったが、まあワシもか」
「そうなんだ。ボクは助けてもらってばかりでセグの事全然知らないや。セグは強かったし優しかったよ」
「まあそうじゃろう。あやつはおそらくドワーフの国のえらい人に何か頼まれていたようなヤツじゃったからな」
「え?ドワーフの国のえらい人なの?」
フロガは何か悪い事をした訳ではないのに、オロオロしだした。
「違うわい!まあでもそこそこえらい人かもしれぬな。もしドワーフにあったらセグリノールの名前をだせば済むかもな」
「セグ・・・また会いたいな。無事でいてほしいな」
クラは急にフロガの顔を覗き込み
「おぬしセグの闘いを見たのだろう。どうであった?」
まばたきしない白い目でじっとフロガを見つめた。
「え・・・どうって早くてよくわからなかったよ」
「そうか。セグは勝てそうであったか?」
フロガはセグの闘いを思い出しながら、そういえばセグは傷をおっていなかったと思いだした。
「セグは勝てないかもしれないけど、セグは生きている!」
「そうか、そうか。おぬしが見て勝てないけど負けていないのじゃな。なら大丈夫じゃ」
フロガはそう言われて首をすこしかしげたが、セグが生きていると言われたような気がして嬉しくなってニヤニヤとしてしまった。
そうこうしているうちに草原の草が低くなり、木がまばらに生えた土の道のような所を歩いていた。
「そろそろやつらの縄張りじゃ。フロガよ、あれが見えるか?」
クラは土の道の先の方を指さした。
石がつまれているのが遠くに見える。夕焼けの赤に染まっている。
「四角い石がつまれているの?」
「あれはかつて人間が住んでいた家じゃ。しかし、気配が薄いな・・・」
「え・・・ゴブリンはいないの?」
「いや、わずかにいるようじゃ、ここも人間にやられたのか?まあよい、行こう」
クラはとくに警戒したような素振りもみせずに、フロガにあごで前を指して歩きだした。
フロガは人間がいると思うと、怖くて進みたくないと思ったが、クラがいればなんとかなりそうだと思い歩き出した。