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聖女と帝都の人々

 その日は、教会での奉仕の日だった。

 ちょうど訪問者の列も途切れ、ちょうど休憩時間に入る時間帯だったこともあって、休憩をもらっていたところだ。

 ──うーん。私の周りにいる精霊さんたちが、日々増えてきているのは気のせいかしら?

 私は、廊下の窓を開け、肘を突いて思案に耽る。眺め見る先は、どこまでも澄み切った青空だ。そしてその空気に溶け込んでいる気配を感じる。

 やがて思い切りがついて、それを聞いてみようと声に出した。

「精霊さん、精霊さん」

 私が呼ぶと、私が名前をつけた五人の精霊たちが集まってくる。

「どうしたの? リリアーヌ」

 現れた五人の中から、アクアが私に問いかけてくる。彼女の水色に光る水でできたドレスがひるがえる。

「ねえ、アクア。最近私の周りに集まる精霊さんの気配が増えてきている気がするのだけれど、気のせいかしら?」

 感じ取れないかと思い、目を閉じる。

 ──やはり、多いわよね……。

 私を護り手助けしようという温かな気配を、やはり以前より多く感じた。

「気のせいなんかじゃないぞ!」

 アクアに代わって直ぐに返答したのはサラマンダー。

 彼にそう言われて、私はパチンと目を開いた。赤い炎を纏った男の子が目の前を横切る。

「精霊はな、リリアーヌのような子が好きなんだ」

 そう教えてくれるのはノーム。黄色いシャツとズボンをはいた男の子が陽気に笑う。

「リリアーヌは優しくて温かい。そして、護ってあげたくなるのよ」

 ふわりと私の肩に乗ったエアルだ。彼女がふわりと抱きついてくると、私の周りの空気自体が温かなものに変る。

「そうなの? でも、あんまり私の周りばかりにじゃ、他の人たちは大変じゃないかしら?」

 嬉しいんだけれど、困ったなあと思って、私は精霊たちに向かって首を傾ける。

「うーん。私たちにも、好きな人と嫌いな人がいるし、相性っていうものもあるし……それは止められないのよね」

 陽気に答えるのはアクアだ。

「でも、全部が全部移動してきているわけではないし、その土地を護る最低限の精霊はいるのよ。だから大丈夫。……ちょーっとあなたがいる国に多くなって偏るくらい?」

 エアルが茶目っ気を見せながらウインクをする。

 ──それでいいのかしら?

 そう思いつつも、エアルがいうとおり、「その土地を護る最低限の精霊がいる」のであれば、それぞれの国の国民も最低限の恩恵は受けられるはず。

 ならば大丈夫に違いない。

 それにしても、アクアが言う「嫌いな人がいる」ってなんだろう?

 ──どういうことかしら?

 私はそこに少し引っかかりを覚えた私は、自然と難しい顔になっていく。

 ──好きな人っていうのは、私みたいよね。

 周囲の精霊の気配に気を配りながら私は考える。

 そうすると、私が好きなら、私を追い出したアンベール王国が嫌いになる?

 アンベール王国は、王太子が私を追い出したわよね。でも、そのときはまだ異変はなかったように思うんだけど。

 ──それ以外になにかあったのかしら?

 けれど、ドラゴニア帝国にいる私にはそれを知る術はない。

 結局私は、精霊たちが私の周り──ドラゴニア帝国に増えつつあることを、それはそうと受けとめるしか無かったのである。

 すると、教会の礼拝堂の方から女性の声が近づいてくるのが聞こえた。

「……ーヌ様―! リリアーヌ様―!」

 呼ばれているのは私のようだ。

 私は窓を閉じ、声のするほうに足早に向かう。さっきまで集まっていた精霊たちの気配は、人の気配を察してなのか、さっと消えていた。

 そうして廊下の向かいから姿を現わした声の主は、この教会でシスターを務めるアメリアだった。彼女は白いペルシャ猫──ミシェルが猫化した姿──を抱いている。

 ミシェルは猫獣人なので、竜人族が竜化するように、猫化することができるのだそうだ。彼女が猫化した白いペルシャ猫は、毛が細く繊細で、ふわふわ。くったりとした柔らかな身体は抱きしめるととても愛らしく、ふわふわで気持ちがいい。

 そんなシスターと、彼女に抱かれたミシェルを見つけると、私はその光景に笑顔になった。

「あっ! リリアーヌ様、ここにいらっしゃったのですね」

 私を見つけ出せてほっとしたように、シスターの表情が柔らかなものになる。

 彼女はこの教会で私付きになって、なにくれと世話をしてくれる女性だ。そしてミシェルはというと、「城の中だけじゃ退屈」と言って、私の教会での奉仕にくっついて来るようになった。

「全く、私を放って置いてこんなところにいるなんて!」

 シスターアメリアに抱かれたミシェルが、猫の口から文句を言う。

 ──そんなことを言っても、あなたは教会に来た子供たちが手に持った猫じゃらしに夢中になっていたんじゃなかったかしら?

 だから、楽しそうなミシェルの邪魔をしないように、一人でそっと休憩に入ったのだ。

 そんなことはお構いなしに、ミシェルは言いたいことを言うと、シスターアメリアの腕の中から飛び出してきて、私の腕の中に飛び込んでくる。

「休憩時間の終わりより早く、癒しを求める人々が集まってきちゃって。教会の外で列を作っているわよ」

 ミシェルが私の腕の中でごそごそ動いて安定する位置を決めてから、私にそう告げる。

「そうなんです。……まだ、休憩時間なのに申し訳ありませんが……」

 ミシェルから解放されたシスターアメリアが恐縮した様子で頭を下げた。

「シスターアメリア、いいのよ。頭を上げて。救いを求めている人がいるなら、私は行くわ」

 ──そう。私を求めてくれる人がいるならば。

 その人々の元へ喜んで行こう。

 そう思って、ミシェルを抱いた私は、シスターアメリアと並んで礼拝堂の方へ向かうのだった。


 人々の治療を受け付ける礼拝堂に向かった。そして、その私の姿を認めると、教会で働くシスターや司祭たちが安堵した様子で笑顔を見せた。

「リリアーヌ様!」

「聖女様がお戻りになられたぞ!」

 口々に彼らの口から喜びの声が上がる。

「リリアーヌ様。少し時間は早いのですが、礼拝堂の扉を開けて、治癒希望の者たちを受け付けてもよいでしょうか?」

 シスターアメリアが私に問いかけてくる。

「ええ、勿論よ。早く苦しんでいる人たちを受け入れてあげてちょうだい」

 私がそう答えると、ミシェルがするりと私の腕をすり抜けて床に着地する。

「私は、親に連れられてきた子供たちの相手をするわ。治療の手伝いなら、シスターたちがたくさんいるもんね。私は私ができることをしてくるわ」

「ありがとう、ミシェル。助かるわ」

 実際に、親の治療のために、まだ年端もいかない子供たちが、家に置いておくこともできずにつれてこられることも多い。そして、子供自身の具合が悪いということも。そんな子供たちが、ぐずらないよう、猫の姿で遊ばせ宥めるのが、ミシェルは上手だった。

 私は彼女の前にしゃがみ込むと、感謝の意を込めて、彼女が猫化したときに触られるのが好きな、喉を掻いてやる。喉の奥から、ぐるぐると気持ちよさそうな音が聞こえた。

 しばらくそうしていると、ミシェルが「もういいわ」とばかりに、ふるふると全身を振るった。そして、私をまっすぐに見つめてくる。

「じゃあ、私は私のできることを頑張ってくるわ。リリアーヌ姉様も頑張ってね」

 そう言って、ミシェルは開かれた礼拝堂の扉のほうへ駆けていく。

「ミシェル様にも助けられますね。あの方がいらっしゃると、子供たちが大喜びですから」

「本当ね」

 私とシスターアメリアは、ミシェルが駆けていく後ろ姿を見守るのだった。

 治療を再開すると、訪問者はひっきりなしにやってきた。

「お姉ちゃん。父ちゃんの足の怪我、本当に治る?」

 オオカミ獣人の男の子が、耳をしゅんと下げながら私にすがるように聞いてきた。

 彼の父親は、横転した馬車に巻き込まれ、足が下敷きになって骨折したのだそうだ。

 父親は、即席で作ったと思われる簡素な松葉杖をついて、その子供を付き添いにやってきた。母親は母親で仕事を持っていて、付き添いにはこられなかったらしい。

「こら。お姉ちゃんじゃない。リリアーヌ様、だろう? 皇太子殿下の婚約者様なんだぞ!」

「だって、お姉ちゃんはお姉ちゃんだろ?」

 父親に頭をぐしゃぐしゃとされながら、少年は口を尖らせた。微笑ましい、親子の会話だ。

「呼び方は気にしませんので、お気になさらず」

「しつけがなっていなくてすみません」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 私は親子のやりとりに、自然と口角が上がる。

「じゃあ、見せてもらいますね」

 そして、その父親の治療を始めたのだった。私は彼の怪我の箇所を確認し、申告どおり左の足が骨折しているのを確認する。

「では、治療しますね。──彼の者を癒やせ(ヒール)」

 すると、骨折してぐにゃりとしていた父親の足が光に包まれ、次第にあるべき位置で固定されていく。

「……俺の足が、あっという間に治っていく……!」

 父親はその光景に驚いた様子で、目を見開いて治っていく様子を見届ける。

「父ちゃん、痛くない?」

 足の様子を見ながら、心配そうに彼の息子が父親の腕にしがみついた。

「ああ、大丈夫だ。……だんだん痛みも引いてきた……!」

 治療は順調なようだ。

 そうして、だんだんと彼の足を包む光が収まっていった。精霊たちの力が彼の周囲から離れていく。それは、治療終了ということだろう。

「足の具合はどうですか?」

 私が尋ねると、男性が立ち上がろうとする。すかさず、付き添いで側にいたシスターアメリアが手を差し伸べる。そして、男性は彼女の手を借りて立ち上がる。そして、そろそろと様子を見ながらシスターアメリアが支えていた手を離していった。

 彼は、自分の両足でしっかりと床を踏みしめ、直立できていた。

「……立てた! 自分の足で立てたぞ!」

 男性が礼拝堂内に響き渡るような声量で、喜びの声をあげる。すると、「おお!」「おめでとう!」「聖女様万歳!」などと、周囲からも歓声があがった。

「治ったようでよかったわ。……今後もあなた方に精霊のご加護がありますように」

 そう言って祝福すると、ガバッと親子が頭を下げた。

「聖女様! ありがとうございました」

「ありがとうございます!」

 私はにっこりと笑って頷いて、その感謝の言葉を受けとめる。

「いいえ、無事治られたようで安心しました」

「では、リリアーヌ様は次の治療がありますから……」

 感謝の言葉が尽きないと、その場にとどまってしまう父子を、シスターアメリアが誘導する。

「あっ、そうですね。聖女様はみんなの聖女様でしたね!」

 後ろを振り返り、私の治癒を待つ人々の行列を見て、恐縮したように父親が慌てて私に向かって頭を下げる。

「お大事になさってくださいね」

 私は、去ろうとする彼にいたわりの言葉をかけた。

 名残惜しそうにしながらも彼は、シスターアメリアによってお布施を受け付ける別のシスターの元へ誘導されていく。

 それを見届けてから、私は次に並んで待っていた女児連れの女性に声をかけた。

「次の方、どうぞ」

 その声に、女性がはっと顔を上げる。

「聖女様……この子が、昨夜から熱が下がらなくて、下痢も治まらないんです……」

 子供を抱きしめると、彼女はそう訴えた。

「それは心配ですね……」

 そう受け答えしながら、私は今日治癒した人々のことを脳裏で思い出す。

 ──ちょっと発熱と下痢の症状を訴える人がいつもより多いわね……。しかもみんな訴える症状が似ているわ。もしかして流行(はや)り病?

 そう気にかかったものの、まずは目の前の患者を治すのが優先だろう。流行の兆候(?)については、あとでシスターアメリアに話してみよう。

 私はそう思い直して熱を出しているという女児の治療にあたるのだった。


「──というわけで、どうも今日は発熱と下痢の症状を訴える方が多かった気がするんです」

 その日の夕方になって、一日の奉仕を終えてから、私はシスターアメリアに相談を持ちかけた。

「ああ、お気づきでしたか?」

「シスターも気がついていたの?」

「ええ……」

 神妙な顔つきで、シスターアメリアが頷いた。そして、彼女が、治癒を求めてきた患者の記録簿をめくった。

「ここ一週間くらいなので、まだ流行り病とは断定はできないのですが、毎日同じような症状を訴える方がいらっしゃいますし、なにより徐々に人数が増えてきているようで気がかりなんです」

 そう言ってシスターアメリアは顔を曇らせた。

 私が教会に奉仕に出てきているのは毎日ではなく、隔日で週に三日だけだ。私は、アンベール王国での王妃教育は済ませている。

 けれど、このドラゴニア帝国の内情についての知識は不足していると言わざるを得ず、そのことを知るための勉強は必要で、合間の日をその勉強にあてている。

 けれど、彼女の話だと私が来られないその間にも、シスターアメリアが気にかけるほどには患者が来ていることになる。

「うーん。どうしようかしら……」

「どうしようか、といいますと?」

 私が思案しつつ呟くと、シスターアメリアがなにを悩んでいるのだろうといった様子で首を傾げながら問いかけてくる。

「今の私には宮廷での勉強も必要だし、でも今は病気にかかる人たちが増えている時期だから、こちらへ訪問する回数を増やした方がよい気もするし……」

 今の私にはどちらもやるべきことだ。だからこそどちらも捨てることができず、悩ましい。

「お立場がありますものね……」

 皇太子の婚約者としての私の立場を慮ってのことなのだろう。シスターアメリアも悩ましげな顔をする。

「そんなの、あとにできるものは後回しでいいじゃない!」

 いつの間にか、人型のミシェルが扉の前に立っていて、そう言い放った。

「……後回しにできるもの?」

「そうよ! 今すぐ皇妃になるって訳じゃないんだから、そっちはあとに回せるでしょう?」

 そう言って、ミシェルは悩んでいる私の背中を押してくれる。

「……そうね。人々の健康のことがかかっているんだもの。優先はこっちよね」

 そう言って私が頷く。そして、ミシェルとシスターアメリアの顔を見ると、彼女たちも力強く頷き返してくれた。

「あなたがもっと頻繁にこっちに来られるように、私も説得に協力するわ」

 と言うのはミシェル。

「教会内の調整は任せてください!」

 と請け負ってくれたのはシスターアメリアだ。

「ありがとう! 二人共!」

 私たちは三人で固く握手する。そして、それぞれが各所にもっと私が教会に出られるよう調整したのだった。


「……減らないわね……」

 そうして、各所に調整して、私は週一日休みで毎日教会に出られるようになった。けれど、教会を訪れる人々の数は減る様子を見せなかった。むしろ、徐々に増えてきているのである。

「リリアーヌ様。今日も相当の人数を回復されていますし、まだまだ列になっていますが、魔力、大丈夫ですか?」

 私付きで補助をしてくれているシスターアメリアが、心配そうに私の顔色をうかがう。

「大丈夫よ、これくらい。私の魔力量は底抜けに多いから」

 心配そうなシスターアメリアを安心させようと、私は努めて明るい笑顔で答えた。

 実際私の魔力量は底抜けで、日々対応し切れているし、今日も大丈夫だと思う。

 だけど……。

 ──毎日毎日キリがないのよね。根本的にこの問題を解決する方法はないのかしら?

 そんなことを考えながら、一週間、ひたすらその病の治療に専念するのだった。


「これじゃあ、キリがないわ!」

 子供たちの宥め役で一緒に来てくれるのが慣例になってしまったミシェルが、その日の治療受付を終えてから、大きな声で叫んだ。

「そうなんですよね……。中には治療に来るのが遅れて、自宅で亡くなる方も出てきているそうで、教会で一人一人治療しても、追いついていないというか……」

 シスターアメリアも、憂いで顔を曇らせる。

 教会は、治療に料金を設定してはいない。心付け、お布施という、身分に見合った料金を受け取るだけだ。それに、本当に困窮している人々には、後払いも受け付けている。

 それでも、特に今お布施をできない人々を中心に、遠慮をしてこられない人、そもそも、そんなシステムを知らないといった理由で教会に来ることをしない人がいるらしい。そんな人々の中から、死者が出始めているらしいのだ。

「問題よね……。それに、分け隔てなくみんなを救ってあげたいわ」

 私が呟くと、ミシェルもシスターアメリアも頷いて、私の意見に同意を示してくれた。

「この病気が流行っているのは、帝都だけなの?」

 私はシスターアメリアに聞いてみた。

「私では解りません。他の教区のことまでは把握しておりませんので……。ですが、帝都に限っていえば、最初は帝都の貧民層から、そして今では貴族街に住むものも治療に来訪するようになってきています……」

 シスターアメリアが申し訳なさそうに首を横に振ってから、状況を教えてくれた。

「うーん。帝都以外についてだったらむしろ、国を統括している国王陛下や、テオドール殿下やアンリに聞いた方が早いんじゃないの?」

 ミシェルの言葉にはっとさせられた。

「そうね! 帰って、まずは殿下方に尋ねましょう!」

 そうして、私とミシェルはいったん城に帰ることにしたのだった。


「え? 流行り病の流行範囲だって?」

 次の日、私は朝一番でテオドールの執務室を尋ねた。そして、開口一番、彼に懸念していたことを尋ねたのだった。

「そうなの。帝都で流行り病らしきものが疑われているんだけど、その傾向って他の地域でも発見されているのかなって」

 私が尋ねると、テオドールが机の上に乗った書類から、幾つかをパラパラとめくって、該当のものを探してくれる。

「あった……」

「どう?」

 一束の書類を探し当てたテオドールが、それを手に取って中を丁寧に確認していく。

「今のところ、帝都のみ、だね。ただ、貧民街から始まった流行が拡大して、今では貴族街に住む貴族にまで流行が広がってきているらしい」

「教会で聞いた話と一致するわ……」

 私はテオドールからの回答を得て、情報を確かなものにした。

「じゃあ、ひとまずは帝都の人々を癒せばいいのね」

「ああ。でも、それは確か今、君がほぼ毎日教会に通って治療しているんだよね?」

 テオドールの問いに、私は頷いて答える。

「うん、そう。でも、教会にも限度があって。教会に来てくれた人を順に治していっているんだけれど、それじゃあ間に合っていないみたいなのよね……」

 私は、顎に手を添えて、うーんと唸る。

 ──私はどうしたらいいんだろう。

「感染経路は不明なんだが、仮に人から人へ感染しているのだったら、一人一人治療していても間に合わないかも知れない」

「……それはどういうこと?」

「まだ症状が軽微な者や、症状が出ていない者は教会には来ないだろう?」

「それは、そうね……」

「そう言う潜在患者が、治療している傍ら街で感染を広げていたら……」

「……教会で待っているだけじゃ、間に合わないのね」

「そういうことだ」

 ようやく合点がいった私と、テオドールが見つめ合って頷き合う。

「帝都の薬師や錬金術師を総動員して、大量のポーションを生産させる。それを、症状あるなしにかかわらず、帝都民に一斉に飲ませる、か……?」

 テオドールが対策を考え始め、それをそのまま口にした。

「ねえ、にわか知識なんだけれど……」

 テオドールが考え出した横から、少々恐縮しながら私は口を挟む。

「なんだい? リリアーヌ」

 テオドールは思考を遮られたことを気にするでもなく、私の言葉を待つ体勢になってくれた。

「確か、帝国は貴族には家ごとに家系図があるから把握ができるとして……平民にはそういった、どの家に何人の住民がいるのかをまとめたものはないのよね? そうすると、どこに何人分必要なのか、配布は十分なのか、把握するのが難しいんじゃないかしら?」

 すると、「ああ」とはっとさせられた様子で呟いて、テオドールが頷いた。

「確かに、平民から特に貧民は厳しいな。各家庭に何人住んでいるか、確かに把握できていない。十分行き渡るかどうかもそうだし、現状の不安から、余分に確保しようとして必要数を虚偽報告する可能性もあるな……」

 テオドールはそう言いながら、悩ましげな表情をする。

「テオドール……」

 私は、悩む彼の腕に手を添えて寄り添う。

 ──私にできることはないのかしら?

 そういえば私は治癒の魔法を使っているわよね。それを広範囲にかける──つまり、対象を帝都民一斉にかけるっていうのはできないかしら?

 もしそれができるのであれば、『全員に』『一度に』『抜けもれなく』対処できるわよね?

 私は、前にオーガの群れが帝都にやってきたときに、『護り』の魔法を範囲指定でかけることができたんだもの。理屈的には、『癒し』の魔法だってできてもおかしくはないわよね?

「私調べてくるわ!」

「リリアーヌ? 突然なにを言い出すんだい?」

 身を翻して、扉の方へ向かおうとする私に、テオドールが問いかける。

「聖女の魔法で一度に広範囲を癒やせないか、魔法書を確認しに行くの! 待っていて!」

 そうして私はテオドールの執務室をあとにした。


 私は急ぎ足で自室に向かった。そして、私の部屋につくと、勢いよく扉を開けた。

「あら? リリアーヌ様。お早いお戻りで……?」

 マリアは、私が不在の間、部屋の清掃をしてくれていたらしい。そんな彼女がちょうど部屋にいて、急いで帰ってきた私を見て、不思議そうな顔をする。

「ええ。テオドールと話していて、聖女の魔法書を調べたくなったのよ……!」

 私は、気忙しく思いながら目当ての本をしまった書棚の方へ足早に移動する。そして、本の列の間から、その本を取り出した。

「あったわ、これよ……!」

 私はそれを手に持って、いそいそとテーブルへと向かう。

「癒しの魔法を、広範囲で……」

 私は、パラパラと魔法書のページをめくっていく。けれど、なかなか目当ての記述が見当たらなくてもどかしい。

「理論上は可能なはずなのよ……」

 そして、私は忙しなくページをめくる手を止めた。

「……あった!」

 私が大きな声で叫ぶと、驚いた様子でマリアもこちらへやってくる。

「なにか……お探しで?」

 覗いてよいものか、といった様子でマリアが私に声をかけてきた。

「ええ、そうなの。最近、帝都で流行り病が広がっているのは知っている?」

「はい。その対処のために、最近リリアーヌ様は教会に足繁く通われていらっしゃるんですよね?」

 マリアの回答に、私はうん、と首を縦に振って頷く。

「そうなのよ。教会は、テオドールとそのことで相談したんだけれど、ポーションを帝都民全員に配布して、一気に治そうかって話になったんだけれど……」

「でも、我が国には他国でいうような戸籍……そういったものはありませんよね。平民は、一つ屋根の下に何人が住んでいるかを把握できているとは言いがたいです……」

「そう! 問題点はそこなのよ!」

 私は、マリアの機転の良さに私はさらに気を良くして話を続けた。

「そうすると、『全員に』『一度に』『抜けもれなく』配布できるかはわからない、っていう問題がはだかるのよ!」

「確かに……」

 私の言葉に頷くマリア。彼女は事態を憂えているのか、神妙な面持ちをしている。

「そこでね、私の治癒の魔法を広範囲でかけたらどうかって思ったのよ!」

「治癒の魔法を……広範囲で!?」

 マリアが驚いた様子を見せる。そして、さらに言葉を続ける。

「広範囲でって、どの範囲に……ってまさか!」

 はっと気がついたように、マリアが大きく目を見開く。

「そのまさかよ! 帝都中に行き渡るように、広範囲に一気に魔法をかけるの! そして、その方法がこの本に書かれていたのよ!」

 私は嬉々としてその該当のページを開いてみせる。とはいっても、この本は聖女たちが聖女になったときに最初に学ぶ、特殊な言葉で書かれているので、マリアには詳細は理解できないのだろうけれど。

「私には読めませんが……でも、もしそれが帝都の問題を解決する糸口であるなら、早く、テオドール殿下に教えて差し上げた方がよいのでは?」

 その言葉で、私は、テオドールの執務室を飛び出してきたことを思い出した。

「そうね! テオドールに、方法が見つかったことと、今後の相談をしてくるわ!」

「それがよいと思います!」

 私はしおりを挟んでから本を閉じ、しっかりと腕で抱きしめると、身を翻して部屋をあとにするのだった。

 そして、走って行く途中、ふと、帝都中に治癒を施すなんていう高位魔法が私に使えるのかしら? と不意に疑問がわいて、足が止まった。

 辺りをきょろきょろと見回してみると、ちょうど誰もいない。

 ──精霊たちに聞いてみようかしら?

「水の精霊アクア、光の精霊ルーミエ! 出てきてちょうだい」

 治癒魔法に協力してくれる二種類の精霊の中で、友達である二人を呼ぶ。

「呼んだ?」

「呼びましたか?」

 二人が私の前に現れて、ふわふわと宙を舞う。

「あのね、教えて欲しいことがあるのよ」

「なにかしら?」

 アクアとルーミエが首を傾げている間に、私はしおりを挟んだ該当のページを開いた。

「ここに書かれている、治癒の広範囲魔法を使いたいの。範囲はこの帝都くらい。この魔法、私に使えるかしら?」

 二人に尋ねると、彼女たちは互いに顔を見合わせてしゃべり出す。

「水の精霊と光の精霊からの寵愛度は十分よね」

「そうね」

「魔法威力と魔力量は……はっきり言って、リリアーヌは無尽蔵だものね」

 アクアがそう言うと、ルーミエがクスクスと笑いながら頷く。

「生まれた時から愛され過ぎちゃっていて、精霊から魔力をどんどんプレゼントされちゃったものね」

 ──え? 私の魔法威力や魔力量が多いのってそう言う理由……っていうか、無尽蔵ってなに!?

「そういうわけで、それくらいの範囲なら十分だと思うわ。なんだったら、国全体にかけても大丈夫かも?」

 いたずらっぽく笑って言うアクアと、それに対して笑いながら頷くルーミエを前に思わず私は頭を抱えてしまう。

 ──でも、今はそこを悩んでいる場合じゃないわよね。

 帝都のみんなを助けられる力がある。それを喜ばないと。

「ありがとう、二人共。あとで、魔法を使うときによろしくね!」

 私は本を閉じてから胸に抱き、両手を合わせてお願いする。

「了解!」

「精霊たちにも声をかけておきますね」

 二人の精霊たちは、そういうと姿を消したのだった。

 私は再びテオドールの執務室目指して走り出した。


「テオドール! 見つかったわ!」

 ノックをして、返事も待たずに執務室に入ると、開口一番私は彼に告げた。なにも考えずに飛び込んだ部屋だったけれど、幸い部屋には彼一人しかいなかった。

「そうか! よく見つけてくれた!」

 この難局の打開策が見つかって、テオドールの表情も明るくなる。そして、部屋に飛び込んできた私を抱きしめてくれた。

 そして、私の額に温かく柔らかいものが触れる。彼の唇だ。その温もりに嬉しくなった私は、そんな彼の頬にキスをして返した。

 そうしてから、私たちはお互いに抱擁を解き、執務室に備え付けられたソファへと向かう。そして、隣あって腰を下ろした。

 私は、机の上に持ってきた魔法書を置き、しおりを挟んでおいた該当のページを開いて見せた。

「この範囲魔法は、術者──つまり私を中心として円形に展開されるの」

 図解で、術者と効果範囲の展開の仕方を示した部分をテオドールに指し示す。

「なるほど……となると、この帝都は教会を中心として円形に築かれている。ならば、もっとも効率よく帝都に行き渡るように魔法を展開するなら、教会で行うのが一番だと思う」

「そうなのね。当たり前かも知れないけれど、やはり帝都のことはあなたが詳しいわね。だったら、教会で範囲治癒魔法をかけられるようお願いしないと……!」

「だったら、父上にこの話をしたあと、教会に調整しておくよ」

「ありがとう! テオドール」

 私は思わずテオドールに抱きついた。そんな私を優しく彼は受けとめてくれた。

「いやいや。感謝するのはこちらだよ、リリアーヌ」

「どうして?」

「だって、ここは獣人の国ドラゴニア帝国だ。君はまだ私がこの国に招いた人間で、客人だ。それなのに、こんなにここの帝都の獣人の民たちに親身になって……」

 そう言いかけたテオドールの言葉を止めるように、私はそっと指先で彼の唇に触れる。

「そういうこと言わないで、テオドール」

「?」

 テオドールはなぜ言葉を制されたのか分からない様子で、されるままに、首を捻って見せた。

「客人とか、人間とか、獣人とか。……私は、この国の教会で奉仕することで、たくさんの帝都の民と触れ合ったわ。そこには、人間とか獣人なんて差はなかったもの」

「うん、そうだね……」

 はっと気がついたように、彼は済まなさそうに眉尻を下げる。そんな彼に私は「大丈夫」という気持ちを込めて、にっこり笑ってみせた。

 そして、彼の唇に添えている指先を離して、私は言葉を続けた。

「それにね。洪水の件を未然に防げたおかげで、エモニエ公爵という立派な方に後ろ盾になっていただけて、貴族たちからも確かな信頼を得られているの」

「……そうだね」

 私の言葉を聞いて、だんだんとテオドールの表情が柔らかなものに変っていく。

「私はこの国が好きだわ。……前の国では、爵位を剥奪されて平民になったせいもあって、ないがしろにされることが多かったけれど、この国は平等だもの。能力があれば、認めてくれる。親しくなりたいと思えば、その思いを返してくれる人たちばかりだわ。そんなこの国の人が好きなの……私は、私を受け入れてくれたこの国が好きよ」

「リリアーヌ。……ありがとう」

「……勿論、あなたが一番好きよ」

 その最後の言葉を口にするのは気恥ずかしくて、ちら、と彼をうかがい見てしまう。

「リリアーヌ。私も君が大好きだ。誰よりも、なによりも。……世界で一番君を愛おしいと思っている。君は私の唯一だ」

「テオドール……」

 私たちは互いにじっと見つめ合う。彼の深い湖水のようなブルーの瞳に、私一人が映っている。きっと彼の目には、私の瞳に彼一人が映っているのが見えているだろう。

 そうしていると、テオドールの両手が私の頬にふわりと添えられる。

「リリアーヌ……」

「……テオドール」

 互いの名を呼び合いながら、ごく自然と私たちの唇が近づいていく。顔が近づくにつれ、うっすらと瞳を閉じ、ちょうど瞳を閉じ終えたところで唇に温かさと柔らかさを感じる。

 私はテオドールの背に腕を回して、彼に身体を預ける。

 角度を変えて、何回も角度を変えて、柔らかく唇を押しつけられる。と思ったら、テオドールは、ちゅ、ちゅとリップ音を立てて、私の額、鼻先、頬、まぶたといった、顔中のありとあらゆるところにキスをし始めだした。

「ちょっと、ちょっと、テオドール。それはくすぐったいわ」

 私は瞳を開いて笑って、身を捩って逃れようとする。けれど、彼のたくましい腕にとらわれている私に、逃げる術はない。

「……だって、君のどこもかしこも愛おしすぎて。どう表現したらいいかわからなくなった」

 そうして、テオドールが私の耳に口づけをした。その瞬間、ちょうど彼の息が耳朶をくすぐり、私は大きく身を捩って抵抗する。

 私は耳への刺激で頬や耳朶まで熱を帯びてしまうし、思わず、涙が緩んで視界が滲んでしまう。

「ちょっと待って、そこは反則よ。くすぐったすぎるわ」

 そう言って、私はテオドールの背に回していた手を解き、彼の胸に当てて押し返して抵抗する。勿論、彼との体力差で彼の身体はびくともせず、わずかな抵抗にすらならなかったけれど。

 けれど、私の顔を見た彼の反応は私の思ったものとは違った。

「ああ、その顔反則だ……」

 彼は、私の肩に顔を埋めてしまう。

「……テオ、ドール?」

「その君の、恥じらって色づいた花のような肌と、潤んだ瞳。まるで誘われているようで、私には刺激が強い……」

 ──えっ! 私そんな顔していたの!?

 よくよく耳をそばだててみれば、ドキドキと高鳴るテオドールの心臓の鼓動が聞こえる。彼の胸の音と言葉に応えるかのように、私も恥ずかしくなってきて、互いの心音が重なって聞こえた。

「安心して、リリアーヌ」

「え?」

「結婚するまでは、君に()(らち)なことはしない……したくても、我慢するよ」

 私の肩から顔を上げたテオドールが、いたずらっぽく笑ってウインクして見せた。でも問題はそこじゃない。彼が発した言葉だ。

「不埒って、なに!?」

 私は思わずうわずった声で彼に尋ねてしまう。

「うーん。そうだなあ……」

 おそらく真っ赤になって慌てる私の様子を、クスクスと笑って眺めながら、彼はどう答えようか思案している。

 そしてしばらく間が開いたのち、彼が私の耳元に顔を寄せて囁いた。

「……秘密」

 そう囁いたあと、テオドールが私の耳たぶを甘く食んだ。

「ひゃぁっ!」

 私は思わず反射的に耳を隠して、あとずさった。

「ごめん、ごめん。もうしないよ。警戒しないで?」

 テオドールの顔からいたずらな色が消え、穏やかで優しい表情に戻る。それを見て、私も警戒心を解いて、あとずさった一歩分の距離を前に踏み出して戻した。

「……ちょっとじゃれ合い過ぎたね」

「今日のテオドールってば、意地悪だわ」

 私は、軽く唇を尖らせて抗議する。

「私にもそういう顔があるってこと。……私も男だからね。好きな女性を前にしたら、そういう一面もでる」

 その言葉に、私は先ほどまでの一連のことを思い出して、また補が熱を持つのを、両手で覆い隠す。

「さて、そもそもの本題は、帝都の流感の問題だったね」

「……そ、そうね」

 話題が変換したので、私はふう、と深呼吸をして胸を落ちつかせ、火照った顔の熱を逃がす。

「これから、父上に話をしてくる。そのあとで教会に急ぎで書簡を出すから、早くて明日かあさってには教会で君の魔法を行使できると思うよ。しばらく待っていて」

「わかったわ」

 広範囲に魔法を使うには、魔力を膨大に消費する。毎日寝れば回復するとしても、魔力を温存しておくことは大切だ。

 私はあとの調整をテオドールに任せて、許しが出るまで部屋で休んで待つことにしたのだった。


 許しが出たのは翌日で、魔法を施すのはその翌日に決まった。

 その当日、私はテオドールと共に、帝都の中央にそびえ立つ、いつもの教会へと馬車で向かうことになった。

 そして、私たちはまっすぐ礼拝堂に入った。

「ようこそ。テオドール殿下にリリアーヌ様! なんでも、リリアーヌ様のお力で、帝都全体にはびこった流感を癒すことができるとか!」

 すると、事前に連絡していたからだろうか。今日は教皇猊下がいらっしゃったようで、直々に出迎えてくれた。その彼の瞳は期待に満ちあふれている。

「はい! 聖女の魔法書で、該当の魔法があることを見つけましたので!」

「ですが、そんな高位魔法、行使可能なのですか?」

 それはテオドールに報告する前に精霊たちに聞いてある。

 教皇猊下が心配するとおり、本に載っているから誰でもできるというわけではない。ただ、私の場合、精霊たち曰く、精霊からの愛され具合、魔法威力や魔力量が十分らしいので、行使可能なんだそうだ。

 やってみたことはないけれど、おそらく成功するだろう。なにせ、そもそも魔法を行使するのに力を貸してくれる精霊自体が「できる」と言うのだから。

「私自身、まだ使ったことはありません。ですが、精霊たちが『私にはできる』と言っていましたので……」

 そう言うと、テオドールと教皇猊下が目を丸くする。

「え? リリアーヌ様は精霊様とお話になれるので?」

「それは本当かい?」

 二人が驚いた様子で揃って尋ねてくる。

「はい。幼い頃から、よく遊んでもらっていて……特に仲のいい子たちには名前をつけてよくおしゃべりしたり、手伝ってもらったりしているんです」

 私がそう答えると、二人は顔を見合わせた。

「規格外なお力をお持ちだとは聞いていましたが、そこまでとは……」

 教皇猊下は驚いた様子でため息をつく。

「凄い、凄いとは思っていたけれど、君がそこまで精霊に寵愛を受けているなんて、驚きだよ」

 テオドールも、驚きで目を丸くしている。

 ──うーん。寵愛……というよりも、仲良し、といったほうがしっくりくるんだけど。

 なんて思ったけれど、そんなことを言ったら、それはそれでまた驚かせてしまいそうなので、私はそこまでで黙っていることにした。

「さて、精霊様のお墨付きもあるということですから……先を急ぎましょう。事態は急を要します。是非とも、リリアーヌ様の御業で解決していただきたい」

「解りました。それでは礼拝堂の教壇をお借りします」

 私は、カツカツと靴音を響かせながら礼拝堂の奥へ進み、上座にある教壇に向かう。そして、たどりつくと、教壇の前に立ち、魔法書の該当のページを開いた。

 私は、すう、と深呼吸する。

 そして、そのページに記された、精霊たちにこいねがう、祈りの言葉を口にする。

「水と光の力よ。我らに癒しを与えしものよ。我に力を与えたまえ」

 私がその言葉を口にすると、ぽうっと二つの光が点る。

「待っていたわ、リリアーヌ」

 水色のドレスを纏う水の精霊アクアと。

「みんなを呼んであげるわ!」

 金色に輝く光の精霊ルーミエだ。

 そして、ルーミエが宣言すると、数え切れないほどの水色の光と金色の光で溢れ、私を包み込む大きな光となっていく。

「おお……」

「これは凄い……」

 教皇猊下もテオドールも。そして、外野で見守る教会の司祭やシスターや帝都の民たちが驚嘆の声をあげる。

「リリアーヌ、これで十分よ! 魔法を唱えて!」

 アクアが私にウインクする。

「アクア、ルーミエ。ありがとう。いくわ! ……人々を癒やしたまえ(エリアヒール)!」

 その言葉をきっかけにして、私を包んでいた光が私を中心にして、素早く周囲に広がっていく。その光は教会の壁をすり抜け、帝都全体に広がっていき、消えていった。

「ああ、私の息子の熱が引いていく!」

「俺の身体のだるさもなくなった!」

「お母さん! 私動けるわ!」

 病を抱えてやってきていた帝都の民が喜びの声をあげる。

「聖女様だ!」

「癒しの大聖女様だ!」

 教会が感嘆の声に沸いた。

 ──みんなが喜んでくれるのが嬉しい。みんな良くなったようでよかった。

 そう思っていると、不意に私の横が騒がしくなる。

「帝都を回って、今のリリアーヌの魔法の効果を確認してこい!」

 テオドールが、護衛についてきていた兵士たちに命じたのだ。

「ははっ!」

 彼らは足早に礼拝堂を後にして、調査に出かけていった。

「テオドール……」

 私が彼の元へ行こうとすると、軽いめまいを感じて、ふらっとした。

「大丈夫か? 大きな魔法を使ったから魔力を消耗して疲れたんだろう。今日はもう城に帰って休むといい」

 そう宣言すると、私の背と膝に手を添えて、軽々と私を抱き上げた。

「テ、テオドール……! 人前……!」

「君はもうゆっくり休んで。馬車まで運ぶ。……良いですよね、教皇」

 私を抱き上げながら、テオドールが教皇猊下に尋ねかける。

「勿論です。殿下の調査の結果が分かるまでは、お体を労ってください」

 そうして私は強制的にテオドールに馬車に乗せられて。なぜか馬車の中でも彼の膝の上に座らされたままで、教会を後にしたのだった。

 そして、その日の夕方には大方の帝都の調査が済んだらしく、私のかけた魔法で帝都中の民が治った、という知らせを受けたのだった。


 ──ところが、だ。

「え? またあの病が流行りだしているの?」

 例の流行り病の流行を押さえて一ヶ月程。私はいつものとおり教会に奉仕に来て、真っ先にシスターアメリアに報告を受けて驚かされた。

「……確かに範囲魔法で帝都の民全員を治しきったわ。なのに、どうして……」

 私は自分の顔が曇っていくのを感じた。

 もしかして。

 ──人を癒すだけじゃダメ?

「うーん、アメリア。病って、人を治すだけじゃダメなのかしら?」

 私はシスターアメリアに問いかける。すると、彼女は思案したのちに唇を開いた。

「そうですね……。帝都の中だけで、人から人に感染しただけのものであれば、この間のように全ての人の病を一気に治すことで対処可能なのでしょうが……」

 そう話を途中で区切って口を止める。

「……でしょうか? 他にもなにかあるってこと?」

 私は、首を傾げてしまったシスターアメリアに言葉の先を促す。

「例えば、帝都の外の人々にも感染が広がっていたら……」

「人の行き来で内外での病原菌のやりとりがされてしまう?」

「そうです。例えば行商人などは、帝都を含めて多くの街々に通いますから、彼らが運んだと考えることも出来ます」

「他にはまだあるの?」

 まだあるのか、と思いながらも、私は彼女に言葉の先を勧めた。

「いいえ。私にはそこまでしか思いつきません……。もっと知見のある方でしたら、色々お詳しいのでしょうが……」

 シスターアメリアが申し訳なさそうに頭を下げた。

「アメリア。頭を下げる必要はないわ。ありがとう。……このことは殿下にも相談してみる必要がありそうね」

「そうですね。そうしていただけますと助かります」

 再び感染症が広がってきていたことを今まで一人で抱え込んできたのだろう。ほっとした表情でシスターアメリアが笑顔を見せた。

「私が殿下に相談してみるわ。それまであなたは、治療の必要な人たちをポーションで癒してあげていてちょうだい」

「はい! 承知しました!」

 そうして、私は事の次第をテオドールに相談するために、早々に城に戻ったのだった。


「え? あの感染症がまた広がっているだって?」

 私は城に帰ってすぐにテオドールの執務室に駆け込んだ。そして、開口一番にそのことを報告したのだった。

「そうなの。シスターアメリアの話だと、何人か患者が教会に訪れてきているらしいわ」

「……困ったね」

「そうなのよ」

 私たちは困惑した顔で顔を見合わせる。

「……シスターアメリアは、帝都の外にすでに感染源が漏れていたら、あり得なくも無いと言っていたわ」

「うーん……。それは少し考えづらいかな……」

 私の報告に、テオドールが顎に手を添えて唸った。

「……そうなの?」

 私は首を傾げて尋ね返す。

「ああ、そうだ。君に範囲魔法をかけてもらう前に、感染者が帝都の外に出ることを禁じていた。それに、帝都以外の街には似たような病を訴える者はいないことを確認済みだったんだ」

「……そうなのね」

 手詰まり感に、困ったなと思いながら、すがるようにテオドールを見る。すると、彼が思い出したかのようにポンと手を打った。

「そうだ。宮廷医に感染症に詳しい者がいる。彼を呼んで意見を聞いてみよう」

 そうして、彼の指示で従者がその医師を呼びに行かされたのだった。


「……感染の再流行ですか」

 銀縁の丸眼鏡に真っ白な髪と髭を蓄えた、いかにも年期のいった医師が呼び出されてきて、私の話を聞くとしばし考え込んだ。

「なにか考えられる可能性はないでしょうか?」

 私は一刻もこの事態を解消したくて、彼にすがるように言葉を促した。

 手をこまねいていれば多くの人がまた苦しむ事態になりかねない。早く事態を解決したかったのだ。

「……そうですね……」

 口を開く医師の唇を凝視して、固唾を飲み込む。

「感染源が人ではなく、他にある場合です」

「……他にある、場合……?」

 私は、大きく目を見開く。そんなこと思いもよらなかったからだ。

「例えば他国の例だと、ネズミや家畜などの動物が媒介している場合とか。そうですね……、それに水が汚染されているといった例もあります。それだと、いくらリリアーヌ様が魔法で癒してもきりがないのかもしれません」

「そんな……」

 それを聞いて、私とテオドールと顔を見合わせた。

「その場合、他国の場合はどのように対処するのだ」

 うろたえる私に代わって、テオドールが医師に尋ねた。

「そうですね……。汚染源を徹底的に排除します。家畜が原因なら、その対象の家畜を殺処分します」

「そんな……!」

殺処分という言葉を聞いて私は顔を曇らせた。人を救うためとはいえ、罪もない家畜。そもそも食べられる為に育てられているとはいえ、無為に殺されるのは心苦しかった。

「あとは、水が汚染源の場合、そして家畜の場合もですが、浄化魔法で清浄化し、そのあと、罹患者を治癒魔法で治癒するという方法もあります。これだと、二段階の手順、そして二種類の魔法を要しますが、理論的には可能かと……。ただし、治癒の魔法を行使できるリリアーヌ様はともかく、浄化の魔法を広範囲にやれる方はこの国にいるかどうか……」

 そう言って、医師は私たちの顔を見比べる。

「……テオドール。私は聖女だけれど、聖女の魔法に浄化はないの。……私では出来ないわ」

 私は申し訳なさに顔を下に向けながら首を横に振った。

「リリアーヌ。そんな顔をするな」

 そんな私の顎にそっと手を添えて、私の顔を持ち上げる。そして、頬に手を添えて、慰めるようにその頬を優しくさすってくれた。

「リリアーヌ。浄化の魔法であれば水魔法の範疇だ。広範囲でなければ、行使可能なんだよ。コツコツ問題のありそうな場所を私が浄化して回れば、医師の提案してくれた方法で対処可能なんじゃないかな?」

 その言葉に希望を感じて、私はぱぁっと顔を明るくする。

「素晴らしいわ! テオドール!」

 私はそう言って彼の手を両手でぎゅっと握りしめる。

「なにを言っている。そのあと、また広範囲に治癒魔法をかけてくれるのはリリアーヌだ。君こそ素晴らしいよ」

 そう言って、人前だというのに、ちゅっと触れ合うだけのキスを注いでくれる。

「……テオドールったら……」

 私は恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じる。ちらっと医師の方を見れば、微笑ましいものでもみるように微笑んでいた。

「……私とあなたで、この国を救えるかも知れないのは素晴らしいわ」

「私と君の初めての共同作業だな」

 にっこりと笑ってテオドールがそう告げる。私はなんだか嬉しくなって再び頬が熱を持つのを感じた。こんな事態だというのに不謹慎だろうか。それでも、『初めての二人の共同作業』という言葉に胸が躍った。

 だが、それは一瞬で、現実的に手順を考えると私は首を捻った。テオドールの方の浄化作業があまりにも手間取りすぎるような気がしたからだ。

「どうした? リリアーヌ。顔色が優れないが」

「うん……」

 なにか良い手立てはないものかと思案にくれる。

「うん、なにが気に掛かる?」

 テオドールはそんな私が次に口を開くのを、手を繋いだまま辛抱強く待ってくれる。

「……浄化の手順があまりにも手間がかかり過ぎると思うの。ただでさえ、あなたには本来の公務もあるのに……」

「それは仕方ない。非常事態なんだからね。アンリにも頼んでなんとか凌ぐよ」

 そんな返答をもらいつつも、もどかしく思っていると、ツンツンと肩を突かれる感触に後ろを振り返った。ここには私とテオドールと医師しかいないはずだ。誰だろう?

「リリアーヌ! 私たちの存在を忘れていない!?」

 そこにいたのはアクア。水の精霊の彼女だ。

「アクア!」

 そう声をあげると、医師は不思議そうな顔をする。その様子を見て、テオドールが察してくれたように口を開く。

「リリアーヌ。アクアというと、癒しの魔法を行使するときに君が呼んでいた精霊様の御名かい?」

「あっ。そう! 二人には見えないかも知れないけれど、今アクアがなにか話したいことがあるみたいで、声をかけてくれていて……」

 そう答えると、テオドールと医師が顔を見合わせてから、テオドールが頷く。

「私たちはいいよ。精霊様と話をしてみて」

「ええ!」

 許可を得て、私はテオドールと手を離して身体の向きをアクアのいる方に向ける。

「アクア。あなた達になにか手立てがあるの?」

「当然じゃない! 水属性の魔法は水の精霊の(かん)(かつ)よ! ちまちまと浄化して回ろうとしているなんてまどろっこしいわ」

「え……じゃあ、もしかして!」

「その、もしかしてよ! 今この国は精霊の力で満ちあふれているわ。あなたを求めて精霊たちが集まっているの。だから、水の精霊も通常よりもたくさんいる。彼が浄化魔法を行使するなら、今ならたくさんいる私たちが補助して、広範囲に効力を広げてあげることだって可能だわ!」

「すごい!」

「手伝って欲しい?」

 手伝って欲しいと言って欲しいといった様子で、自信満々に胸を張って見せるアクア。

「勿論お願いしたいわ! お願い!」

「いいわよ! そこで不思議そうにしている者たちにも教えてあげなさいよ!」

 そう言われて振り返ると、私の言葉しか聞こえないテオドールたちが不思議そうにしている。

「ああ、ごめんなさい。あのね、水の精霊が今この国にたくさんいるんですって。それで、テオドールが浄化魔法を使うなら、それを範囲魔法に広げるお手伝いが出来るって言うのよ!」

「「それは凄い!」」

 テオドールと医師が、見えた光明に目を見開いて顔を見合わせる。

「君から、精霊様によろしく頼んでもらえるかな。それから、深い感謝の気持ちも伝えて欲しい」

「大丈夫。あなたの言葉はアクアに聞こえているわよ」

 そう言うと、アクアが、うんうんと頷いていた。

「私たちの大切なリリアーヌを護ってくれる国だもの。そんな国には私たちは加護を惜しまないわ! さあ、みんな出番よ!」

 すると、アクアの周りに水色の光の球がたくさん現れ始める。さすがにそれは、テオドールたちの目にも見えたようで、医師が感極まったように両膝を突いて、両手を組んで祈り始める。

「さあ、リリアーヌ。あの竜人に魔法を使うように伝えなさい」

「ええ! テオドール!」

「ああ、なんだい?」

 希望の灯った青い瞳が私をしっかりと見つめる。

「浄化魔法を使ってちょうだい。今ここにはたくさんの水の精霊が集まっているから、補助してくれるわ!」

 そう告げると、テオドールが片手で私の手を繋ぐ。そして、天を仰ぐように空いた手を空に向かって伸ばす。

「水の精霊様。国をお救いください。その偉大なお力で私の水の力を、国全体に行き渡らせてください……! 浄化(ピュリフィ)!」

「さあ! 集まった水の精霊たちよ、この魔法を増幅するのよ! 範囲浄化(エリアピュリフィ)!」

 すると、テオドールが生んだ水色の魔法の光が、みるみるうちに膨らんでいく。そして、彼を中心として、四方八方に広がっていったのだった。

「……浄化……出来たの?」

 私が恐る恐るアクアに聞く。

「あったり前じゃない! 水の精霊様に、水の魔法で不可能なんてないわ!」

 ふん、と鼻を持ち上げて、アクアが胸を張って見せる。

「ありがとう! アクア!」

「そんなこと言っていないで、早くあなたは治癒の魔法を使っちゃいなさい。せっかく浄化したものが、罹患している者から再び外にでないうちにね!」

「うん、ありがとう! 水と光の力よ。我らに癒しを与えしものよ。我に力を与えたまえ」

 そう天に向かって告げると、すでに集まっている水の精霊に加えてたくさんの光の精霊たちが集まってくる。その中には当然ルーミエがいる。

「呼んだわね、リリアーヌ。さあ、私たちの力を思う存分使ってちょうだい。愛しい私たちの清らかな聖女(リリアーヌ)

 私は、繋いだままのテオドールの手をぎゅっと握り直す。

 ──彼の愛する、この帝国の人々を救って……!

「……人々を癒やしたまえ(エリアヒール)」

 祈りを込めて、一言そう唱える。すると、水と光の精霊たちが嬉しそうにくるくると踊る。そして、私から生まれた治癒の光が国全体に向かって散っていくのだった。

「「もうこの国は大丈夫なはずよ」」

 アクアとルーミエが、揃って笑って事態の収束を私に告げてくれる。

「……ありがとう……!」

 そして、テオドールに向かって私から笑いかける。

「帝国全体の浄化も治癒も完了したわ……!」

「リリアーヌ……! 本当に君には助けられてばかりだ……!」

 手を解かれ、その代わりに彼にぎゅっと抱きしめられる。

「なにを言っているの。これは『初めての二人の共同作業』よ!」

 そう言って、私も彼を抱きしめ返す。

「ああ……私はなんて得がたい伴侶を得たんだ……。君のことは絶対に離さない……」

「ええ、絶対に離さないで。テオドール」

 そうして抱きしめ合う私たちを横目に、医師は膝を突いたままだ。

「ああ……奇跡だ。精霊様の……聖女様の奇跡だ……!」

 この奇跡を目の当たりにした医師は、涙を流しながら祈り続けるばかりだった。


 そして、今度こそ事態は収束を見せた。三ヶ月が経って季節が移ろっても、今度は同じ事象は起こらなかったのである。

「事態の終息宣言をしよう。そうして、この事態の収束の立役者が誰なのかをつまびらかにしよう!」

 二人で対処したことを報告してあった国王陛下が、今度こそ事態が収束したと判断して、そう宣言したのだ。

「リリアーヌ嬢の功績と、リリアーヌ嬢という聖女を国に迎えられたという喜びを、国民にも広く知らしめるべきだ」

 国王陛下の宣言は、そういう理由からだった。

 そうして私とテオドールは、国王陛下ご夫妻と、アンリ殿下、ミシェルと一緒に、城の披露目用のベランダに立っていた。今回の主役の私とテオドールは勿論その中央に立っている。

「今回の流行り病は、我が息子皇太子テオドールと、その婚約者聖女リリアーヌ殿の手によって一掃された! 安心せよ、国の民たちよ! もう我々帝国民は病になど煩わされることはないのだ!」

 国王陛下が高らかに宣言すると、集まった大勢の帝国民たちがわっと歓声を上げる。

「テオドール殿下、万歳!」

「聖女リリアーヌ様、万歳!」

 ──まるで、本物の家族みたい。

 テオドールの家族に囲まれて、人々の歓声を受けながら、私はそう心から嬉しく思えた。テオドールの家族に、そして、国民に受け入れられている。それは、かつての私には与えられていなかったもの。その実感がじわじわと胸を占める。

 ──嬉しいわ。

 そう思うと感極まって、ぽろりと涙が零れ落ちる。

「なにを泣くんだい、リリアーヌ。今日は君が主役だ。さあ、涙を拭いて、顔を上げて。民に君の顔をよく見せてあげておくれ」

 そう言って、テオドールが私の目元をそっと優しく拭う。それに応えて、私は口角を上げて顔を上げる。

「そうね。……ねえ、テオドール。手を握ってちょうだい」

「喜んで」

 テオドールが、私の願いに応えて私の片手をぎゅっと握りしめてくれた。そして、私の手の甲にキスを落とす。

 私は、再び歓声を上げる民の方を見る。そして、彼らに向かって手を振った。わっとひときわ歓声が大きく沸く。

 私は、私を望む人々からの大歓声に包まれていた。

 とても幸福だった。


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