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閑話 そのころのアンベール王国②

「なに? ドラゴニア帝国の皇太子の婚約者が決まっただと? 我が国からの婚姻の申し込みはどうなったのだ!」

 玉座に座ったアンベール国王が、忌々しげに王笏を手の中で打ち鳴らす。

「は、はあ、父上。彼の国の力は強大。妹の第一王女カトリーヌをどうかと打診していたのですが……」

 王太子エドワードが父の剣幕にタジタジになりながら答える。それを受け、さらに忌々しそうに国王が舌打ちする。

「ええい! そういえば、リリアーヌの捜索はどうなった! エドワード、森にうち捨てたお前に責任を持ってあの娘を探せと命じておいたはずだが!?」

 その問いかけに、全く進展を得られていなかったエドワードは、苦々しげな表情を浮かべる。

 するとそのとき、教皇がやってきた。

「それについて報告があります」

 教会は教会で、聖騎士や暗部の者を使いリリアーヌ捜索をしていた。

「この件、繋がりました」

「なに!?」

「ドラゴニア帝国の皇太子の婚約者として選ばれたのは、そのリリアーヌであるようです。そして、帝国内の噂によると、『豊穣』を除いた『治癒』、『護り』、『予言』の力を発揮したとか……。彼の国の有力な貴族も後ろ盾になっており、その婚約も帝国内では盤石なものとなっているようです。……面倒なことになりました」

 眉間に皺を寄せ、教皇が困った様子を見せる。

「なんだと? 我が国からの結婚の打診を無視し、我が国の宝のリリアーヌを婚約者にだと? そんなことあってはならん!」

 国王は荒々しげに唾を飛ばす。

「ですが父上……すでに婚約が決まったものを、どうなさるんです?」

 そう尋ねてくるエドワードを国王は斜めに見やる。事の発端。元凶。リリアーヌを森にうち捨てるという失態を犯した上に、それを回収できずにむざむざと他国に奪われた息子にいらだちが募る。

「その婚約をないがしろにした愚か者がなにを言う!」

 怒号をあげたあと、じろりとエドワードをにらみつける。

「……お前がリリアーヌを奪ってこい」

「は?」

 エドワードは理解が追いついていないといった、ぽかんとした顔をする。

「奪ってこいと言ったのだ!」

 国王は激高して叫ぶ。

「陛下? 奪うとは、一体……?」

 教皇も国王の意図がわからなかったようで、問い直す。

「奪うのは奪うのだ! そもそもリリアーヌは我が国の聖女。エドワード! 戦じゃ! 民を集めて武器を取らせよ! そして、帝国からリリアーヌを奪い返してくるのだ! 大聖女が、他国で覚醒するなど、ならん!」

「そんな! 無理です! 我が国は帝国に敵うほどの兵力はありません。それに私には実戦経験もありません……!」

 エドワードは自分のしでかしによって起こったことに、頭を抱える。そして、そんなエドワードをかばうようにして教皇が国王の考えを改めさせようとする。

「国土を荒らせば、精霊の御力もこの国から離れましょう。陛下、考えをお改めください! 大聖女を失うどころか、そもそも精霊の寵愛がこの国から去ってしまいます!」

「なにを言う! その精霊の力を行使する聖女、しかも大聖女だ! それがいなければ同じではないか!」

「へ、陛下。まずは書簡で、彼の帝国に変換要求を出してはどうでしょう? 我が国の聖女であり王太子の婚約者であるリリアーヌを帰して欲しいと」

「……まあ、それをあちらが飲むなら良い」

 国王をなんとか宥めることができたことに、教皇は胸をなで下ろす。

「おい、エドワード!」

「はっ、はい……」

「そなたの選んだ娘、護りの聖女ゆえ、リリアーヌより格上だとか言っていたがどうだ!? あの娘、国全体に結界を張るほどの力はないそうじゃないか!」

「くっ……」

 国王からの指摘に、エドワードは唇をかみしめる。反論はできない。国王の言うとおり、イザベルにはそこまでの力はなかったのだから。

「いざとなったら、イザベルにはせめて王都だけでも護るように結界を張らせよ……。それくらいは出来るだろう。そうすれば戦争になっても、帝都にだけは手が出せん」

「陛下、戦争などいけません! 領地が荒れます!」

 再び戦争による略奪を口にする国王に対して、慌てて教皇が考えを改めさせようとする。

「わかっている! 先にこちらの要求をのむよう、先方には返還要求を出す。だがな、帝都が無事なら良い! そもそも、儂は他の土地など知らぬ。民など知らぬ! そんなもの、各地の領主たちが守ればよかろう!」

 国王はエドワードを王笏で打ち据えながら叫ぶ。

「ですが父上……」

「うるさい! リリアーヌ奪還、できなければそなたを王太子から廃嫡する。第二王子のオーレリアンにいつでも置き換えることができるとよく覚えておくんだな!」

 実の息子にすらそんな言葉を言い放った国王は、気付かなかった。『他の土地など知らぬ。民など知らぬ』と、そう言った瞬間、元々国から離れつつあった精霊たちが、一斉にアンベール王国から離れ、リリアーヌを目指して移動を始めたことに。



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