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気づくと季節は夏になっていた。夏休みになると、実家に帰る人もいれば、寮に残っている人もいる。
僕とクーナは、どちらも実家には帰らない組だ。クーナはたまに昼間にどこかへ出掛けているみたいだけど、どこに行っているんだろう?そんな疑問を持ちつつ僕は今日も夏休みの課題に取り組んでいた。
「ただいまー」
今日もおおよそ女子にしか見えない格好でクーナが帰宅した。
「おかえり」
「ねぇねぇ!ハルくんはネイル好き?」
好きかどうかと聞かれても、やったことがないので、よくわからないけれど興味はある。
「ほら、夏休みってさ?みんな髪色変えたりするじゃない。そんな感じで爪やってみない?」
実家に帰っている生徒の髪色なら分かるけど、寮で髪色染める人はそうそういないような…
「寮長に見つかったりしないかな」
「あー…じゃ、今日だけでも、どう?」
一応、規則を破るのはヤバイという気持ちはあるらしい。けれど、僕もクーナと一緒にいるようになって、少しだけカワイイを追求したくなってきているのは事実だった。
「うん。それなら」
「やったぁ!」
僕よりもクーナのほうが、なんだか楽しそうにしている。
こないだのシャーペンの時のように、クーナがマニキュアを色別に僕の前に並べていく。
「好きな色を選んで♪」
「好きな色………」
やっぱりピンクだろうか?並べられたマニキュアの種類が多くてピンクのといっても薄いピンクから濃いピンクまで、たくさんの量が並べられている。
「こんなにたくさん集めるの大変だった?」
「そんなことないよ?百均だし」
そうなんだ。百均にいってもあまりマニキュアを見たことなかったな。
「僕、不器用なんだけど、どうしよう」
「大丈夫だよ。貸してボクがやるから」
まるで、絵本の中の王子様がお姫様に手を差し出すように、僕はクーナの左手に右手をのせた。なんだか、気恥ずかしかったけれどドキドキした。
「薄いピンクを選んだけど、あまり主張しない感じなんだね」
「乾いてから二重に重ねると色がはっきりとするよ。あ、動くと他の指にすぐにつくから気をつけてねっ」
乾くまで指をキープしている時が意外と辛かった。
「クーナは小さい頃からネイルしてたの?」
「うん。幼馴染が二人いるって言ったでしょ?片方が女の子で、よくおままごととかネイルとかして遊んでたんだ」
それだから、メイクも上手いのかな?
「はい。右手も終わったよ」
「おおー!すごいキラキラ」
初めてのネイルになんだか感動してしまった。
「やっぱりお店屋さんでしてもらうのよりも下手くそだけどね」
「え、全然すごいよ!自分じゃこんなこと出来ないもん」
「ふふ、ハルくんでも出来る事あるよ」
クーナは得意げに笑うと百均の袋からシールを取り出した。
「これはネイル用のシールだよー」
「へぇ、そんなのもあるんだ」
「好きな物を貼って完成させよ☆」
ラメがキラキラしたものやショートケーキとかハートの形をしたシールのどれを貼ろうか悩んでしまう。
「なんか、クーナには貰ってばっかりな気がする」
「そう?ハルくんに楽しんで貰えれば、ボクはそれだけでいいよ」
クーナはどこまでもいい人すぎて、たまに何も返せていない自分が苦しくなる。
「あ…ありがとう。白いハートのやつ貰うね?」
「うんうん♪出来上がったらネイルの写真とろ?」
「うん!」
そっか、せっかくこんなに可愛くしてもらったのに、今日の夜には取らないといけないのは、もったいないなって思っていたけど、スマホで写真とっておけば、自分でネイルできなくても今日の記念になるし、何回でも見返せるのは嬉しいかも。
そんな感じで夏休みの間は、たまにクーナがネイルをしてくれたので、なんだかいつもの夏よりも女の子な気分でいられた。ほんの少しだけ、爪に色がつくだけで、こんなにも日常がワクワクできる事が不思議だった。