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5/7

ー5ー

 それ以降、体育の時間は着替えたら保健室に迎えにいけばいいかな?と思い、自分の着替えをすませると保健室の廊下でクーナの着替えが終わるのを待つことにした。

 クラスのみんなが体育館へ向かっていく、そんな中で保健室から大きな声が聞こえてきた。

「え、なに?………ちょっと、や…」

 聞こえてきた声に少し疑問を持った僕は、保健室の扉を開けた。

 そこには、保健室の男の先生に押し倒されているクーナの姿があった。

「ちょっと!何してるんですかっ」

 大人に怒鳴ったのは、これが初めてだと思う。

 僕は、すぐにクーナの元へ駆けつけると、クーナの腕を引っ張って走り出した。どこに向かったからいいのか分からず、この時間は誰もいないであろう図書室に逃げ込んだ。

 本棚と本棚の間に僕達はしゃがみこんだ。

「大丈夫?」

 選ぶ言葉を間違えた。と、後から思った。

「うん………。慣れてるから」

 大丈夫なわけないのに、大丈夫か?と聞いてしまったら、大丈夫じゃないと答える人間がいるわけもないのに……。

「な、慣れてるって……なに…」

 クーナが僕に返した返答に愕然としてしまった。

「ボク、見た目がこんなだから、痴漢とかによく会うっていうか」

「え?!でも、触ったら男子なこと分かるんじゃ?」

「うん。でも、止めてもらえないんだよね。アレって性別とか関係ないんだよ」

「あ……………(もしかして、こないだの体育館でクラスの男子が言ってたアリって、そういうこと?」

 顔が女みたいだったら、身体が男でもいいって話をしていたんだ。きっと。

 でも、そんなのクーナに失礼すぎる。

「ほ、ほら、クーナって強いから入学式の時みたいに、背負投げとか簡単に出来るのかと思ってた」

 なるべく明るくべつの話題にどうにか出来ないかと頭を巡らせた。

「喧嘩腰の相手にはいけるんだけど、性的にみられると足がすくんじゃうってゆーか……」

「そ、そうだよね」

 確かに、自分だって同じことをされたら、びっくりして声もあげられないかもしれない。なにより、相手は大人の男性なんだもんね。

 ふと、クーナの細い腕を見ると掴まれたあとが残ってしまっている。

「本当になんのための護身術なんだろうね」

「クーナが悪いんじゃないよ……悪いのは男のほうじゃん……」

 僕は、何故だか涙がでてきてしまった。

「ど、どうしたの?!」

「僕はクーナに憧れてて、カワイイを自分発進できてて羨ましいって思っちゃってごめん……悩んでる事があるのも知らずに…」

 まだ、出会ったばかりなのに、いきなり憧れてる。とか言われても困るかな。困るよね。可愛く生きるって、僕が考えてるよりも大変な事なのかな…。

「ハルくんはジェンダーだって、前に言ってくれたでしょ?実は自分も悩んでた時期はあったんだけど、こういう被害に遭えば遭うほど、自分は男子なのにって強く思っちゃったんだよね。やっぱり好きになるのは女子だしさ」

「あ、そうなんだ」

 クーナの好きの対象は女子みたいだ。僕がクーナのことを慰めなきゃなのに、思いの外クーナのほうが口を開いていた。

「ボクはハルくんに出会えてよかったなって思うよ。ハルくんがジェンダーじゃなかったら、ここまで泣いたり怒ったりしてくれなかっただろうし」

「そうかな?」

 犯罪行為に対して怒るのは、べつに性別は関係ないような気もするけど。

「うちの父親は、相手が悪い!じゃなくて、お前がそんな格好してるからだ!としか言わなかったし……それに…」

「それに?」

「幼馴染が二人いたんだけど、実は二人がボクの事をキモいって言ってる裏アカを発見しちゃって………それで、親からも友達からも逃げたくて全寮制のココを選んだんだよね」

 クーナの家もうちみたいに複雑なのかな…。

「そうだったんだね」

「でも、自分が受け入れてもらえるか心配で……だから、同室がハルくんでよかったって思った」

 それは、僕も同じ。僕は行きたくもない男子校に親に無理やり入れられた形だけど、いつ心が他の人とは違うってバレて、はぶられるんじゃないかって内心ではヒヤヒヤしていたし。

「それにしても、今後の着替えをどうしよう。いい場所発見したと思ってたのにな。スカートだから下は体操着問題ないんだけど」

「うーん……学ランの下をキャミじゃなくてTシャツにすれば、どう?そしたら、クラスで脱いでも大丈夫かも?」

 クーナがTシャツを着るイメージもないけれど、提案するだけしてみることにした。

「あーなるほど!適当なTシャツ持ってきてたかなぁ」

 何かが解決したわけではないが、どうにか二人で作戦を練った。初めて学校の授業をサボってしまったけど、クーナが図書委員ばりに「この本、面白いよ?」と薦めてくれたりしたので、なんだかこれはこれで楽しかった。



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