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気づけば、クーナは明るい性格だからクラスの中心的な存在になっていた。距離感が近いからなのか、クラスの中に1人だけいる女子だと思われているのか、馴染むスピードが早くてびっくりした。とりあえず、ひとまず僕がジェンダーであることを簡単にバラすような人ではなくてよかった。
クーナとは、朝起きて寮から教室に行くまでや移動教室など、ほとんどの時間を共有していたんだけど、次の時間は体育だからジャージに着替えなくちゃと思った所で僕はクーナが教室内にいない事に気がついた。
「(あれ?どこに行ったんだろ?」
授業が始まるギリギリになっても教室にクーナが戻ってこなかったから、体育館に行くとそこにはジャージに着替えたクーナがいた。トイレとかで着替えてるのかな?
1日中、べったり一緒にいるわけでもないしいいんだけど、いきなり居なくなるから不思議に思ってしまった。
今日の体育はバスケットだった。身長が160センチくらいの小さめな僕は、高校生ともなると他の男子の身長に完全に圧倒されていた。
同じように身長が低いはずなのに、クーナはそれでもその中で上手く活躍していた。
「(やっぱりクーナはすごいなぁ」
果敢にボールを奪いに行くクーナを見ていた。そんな時、ふと隣にいるクラスメートの声が耳に入ってきた。
「さっきさーボールかばいながら和久田の胸に触ったんだけど、全然なかったわー」
「ウケる。何やってんだよ」
やっぱりクラスの男子はクーナのこと女子に見えてるのかな?
「声は低めだけど、あの見た目ならアリっちゃアリなのになー」
そのアリっていったい何の事なんだろうか?
ピピーーーー
バスケの試合の終了の音が響いて、汗をかいたクーナがこっちへやってきた。
「うえーー汗だくーー」
「…メイク?とか、大丈夫?」
戻ってきたクーナが化粧が落ちないように、タオルでポンポンと汗をふく。そのおしとやかさが女子に見えているのだろう。男子なら、やっぱりガシガシ拭いちゃうもんな。
今度は自分もコートに入りバスケをした。
そのうち体育の時間も終わってしまって、またどこかへ行こうとするクーナを僕は追った。
すると、向かった先は保健室だった。
「ありがとうございました」
いつもの制服に着替えたクーナが保健室からでてきた。
「あれ?どーしたの?」
「いきなりどっか行っちゃったから」
僕がそういうと、二人で喋りながら教室に戻ることにした。
「ごめんごめん。着替える時、保健室借りてるんだ」
「そうだったんだね」
自分も男子に混ざって着替えるの辛いなって、昔から思っていたけど保健室を貸してくれたりしてる事を初めて知った。
「自分自身は周りの目を気にしたりしないんだけど、やっぱり周りの人が気になると思うんだよね」
見られる事に対して、クーナ自身は平気みたいだ。でも、さっきのクラスメート達みたいに、教室で着替えるとはたから見た時、女子が着替えてるみたいに見えたりはするかもしれない。
「この学校のいいところは夏にプールないことだよね」
「あ、それ!分かる!!」
クーナがテンション高めに賛同してきた。中学校までのプールの時間の水着といえば、男子は短パンだけだ。
「僕は、男子だけが上半身が裸なことが…とにかく嫌で、クーナは水着どうしてたの?」
「プールの時間は、全部見学かなー補講受けてた。日焼けするの嫌だし」
いま流行りの兼用水着かと思いきや、クーナは日焼けしたくないという理由でプールを拒否していたみたいだ。
僕は、クーナも実はジェンダーなんじゃないのかなとか思っていたんだけど、やっぱり価値観がどことなく違っていて、自分と同じではないのかもしれないなと感じていた。