ー16ー
「あ、そうだ。昨日の雑貨屋さんで折りたたみ傘買ったんだけど、クーナはどっちがいいかな?」
「え?ボクにくれるの?」
僕は、クーナの前に黒い折りたたみ傘と赤い折りたたみ傘を差し出した。
「前にシャーペンくれたお礼」
「え?!うー……………ん、黒!」
クーナは、少し悩んで黒い折りたたみ傘を選んだ。
「昨日来てた地雷系の服にも合いそうだもんね」
「ふ、ふ、ふwボクだから赤をえらぶと思ってたでしょう?」
いつもながら、クーナは僕に赤色を残すために黒い傘を選んだようだ。
「それ、開いてみて」
そんなことは、僕の中ではすでに予測済みなんだけどな。
クーナが不思議そうな顔で傘を広げる。
「わっ!」
外側が黒の布が張られた傘の内側が赤い色のほうがクーナの傘で、逆に僕が使うことになった傘は、外側が赤で内側が黒になっているバージョンになる。
「すごい!カッコいいね」
「だよね」
雑貨屋さんで見つけた時、どっちを使うことになってもいい感じだなって思ったんだ。
「僕は、クーナと一緒にいることで、徐々にだけどなりたい自分に近づけているような気がするよ」
前だったら、赤い傘を使う事に抵抗があったと思う。使いたいという気持ちはあっても、やっぱり周りの目のほうが気になってしまっていたと思う。
「それはよかった」
初めはジェンダーではないクーナにカミングアウトしてしまった時にはどうなる事かと思っていたけれど、いまでは寮の同部屋がクーナで本当によかった。
「前に休日に出かけた時さ、女装した男の人の隣に女の人が歩いてて、結婚してるっぽかったんだよね」
「へぇーすごい」
クーナと話をしていると、いろんなセクシャリティーの人が生きていてもいい。という気持ちになれるから心が軽くなる。
「それを見た時に素敵だなって思ったんだ。自分の好きな格好を自分以外の人に認められて生きるって、ボクには夢みたいな話だから」
「そうだよね」
クーナの場合、自分の幼馴染から否定的な事を言われてしまっているだけあって、認められるってことはとても大きいものを占めていそうだ。
「自分の全部を愛してくれる人と出会えたらいいよね」
クーナは、いつになく空を見上げながらぽつりと呟いた。
「それは、クーナにとって恋人じゃなきゃダメなの?」
「んーん。誰でもいいよ」
僕からの素朴な疑問に空を見つめていたクーナがこちらを見つめる。もしも、それが恋人ではなくてもいいのなら…
「だったら、僕にとってはクーナかも」
「ありがとう。ボクにとってもハルくんは、友達とはまた違った意味でも大切な存在かも」
2人で見つめ合って、ただ笑う。
僕達は、考え方や生き方が全然違うのに、『同じ』じゃなくても分かり合う事ができる。きっと、それがお互いにとっての幸せなんだと思う。
それは、当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、簡単なことではない事を、僕はよく知っている。
お互いこれから先に出会う人の中で、もっともっと自分自身を知ってくれる人が現れるかもしれない。
1人で悩んでいるだけの社会が終わって、それぞれが歩み寄れる世の中になったらいいと思う。
「これ、大切に使うね」
僕があげた傘をクーナが嬉しそうに見つめている。
誰かと物をお揃いにしたり、分け合ったりしたことがない僕も嬉しかった。
僕も1つずつ前に進んで歩いて、いつか自分の心が女子だという当たり前を、恥ずかしがらずに人に説明できる日がきたらいいと思う。
ーおしまいー
書いてる途中で間があいてしまって、ブックマークをしてくれていた人達に申し訳なかったです。




