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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第一章『第Ⅵクラス落とし』
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第八話『小指の残り香』

 宮園潮は苦しんでいた。

 校舎の屋上で夜風を浴び、憂鬱に浸る。


「ごめんね速水。私はーー」


 小指を見つめていた。

 多分私は信用されたかった。信頼されたかった。頼れる存在になりたかった。

 私はなれなかった。私じゃなれなかった。


 皆、すごい速度で強くなっていく。いつの間にか周りから置いていかれていた。

 降格だけは避けたくて、死ぬ気で変装術を磨いた。他の技術が疎かでも、一つ大きな武器があれば私だって……

 私だって強くなりたい。でも私には無理だった。


「…………」


 速水と交わした小指の感触が忘れられないでいた。今もそこに速水の小指があるように感じられる。

 信じろと、速水は言った。

 確かに彼女は相当な腕前を持っている。だがそれは慎重さがあってこそ発揮されるものなのかもしれない。


 私は思ってしまった。

 速水ではあの人には勝てないと。


「ごめん速水。私はあなたを信じれなかった」


 私は速水を信じない。

 それ以上に恐怖が私を支配していたから。


「宮園潮、作戦は分かっているよね」


 眼帯をつけた男が背後に立ち、私を監視している。

 年齢は私よりも十歳は年上に感じた。それほどに大人びていて、落ち着いた殺気を放っていた。


「はい。分かっています」


「前述した通り、作戦に成功すればお前の命は保証する」


「ありがとうございます」


 分かっている。それが嘘だと言うことを。

 最終的に第Ⅵクラス全員を殺すつもりだと私は察していた。それでも逆らえない。

 恐怖が心を埋め尽くしていた。逆らうことで振るわれるであろう痛みに脅え、私は動けない。


 眼帯は既に速水の情報を入手している。それ故、速水の倒し方を万全に固めていた。


「常に特待Aクラスの生徒はある程度の実力で抵抗する。だが今回のターゲットは瞬殺で終わる。なぜなら彼女は、暗殺者として圧倒的に未熟だから」


 眼帯の言っていることは一理あった。

 慎重さが彼女の武器だが、慎重さの介入の余地もないほどの窮地であればそこは死地。


「じゃあ携帯貸して」


 私は自然と携帯端末を渡した。

 私が暗号文を送ることを考慮し、自分でメールを送信しようとしているのだろう。


「あとこれ、ちゃんと持っていろ」


 一見ただの万年筆だが、ただの万年筆を眼帯が渡してくるはずがない。おそらくは盗聴器。

 これで私は逃げ場を完全に失った。


 私の絶望を感じ取ったのだろう。眼帯はわずかに頬を上げた。

 私に何一つ選択肢はない。ただ眼帯に従う奴隷に他ならない。


「これでよし、と」


 メールは送信された。


「あとは手はず通りに頼むよ。この作戦が一つでも失敗することはないから」


 もし失敗すれば裏切ったと判断する、という意味だろう。

 今の私は完全に傀儡だ。


 ごめんね速水。私は弱いから、あなたを信じれなかったよ。



 ♤



 就寝しようとしていた速水の携帯端末にメールが届く。それは宮園から送られた、ということにはなっているが、眼帯が送った文章。

 だがそれを知るよしもない速水は宮園からのメールだと思い込んだだろう。


『明日、私と速水で任務をこなすことになりました。詳細は追って話します』


「明日……か」


 数日の内に刺客が来るだろうと予測していた速水にとって、特別驚くべきことではなかった。

 自分の暗殺がどのようなものか分かっていれば対策は立てやすい。


 どのような任務か察しはついた。相当な難易度の任務であることは間違いない。

 避けるべき、と彼女の慎重さなら思った。


「なぜ宮園を通してのメールなのか。避けるべきと思っていたが、そういうわけにもいかない。おそらく宮園は敵に乗っ取られた、か」


 速水はベッドから体を起こす。


「いや、まだ確信はできない。それよりも情報を集めるか」


 黒衣を纏い、夜に駆け出す。


「徹夜は嫌いだが、仕方ない。今晩中に必殺領域を築けるかが鍵となる」


 不安はある。焦燥はある。

 だから彼女は走り出した。

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