第七話『不穏な気配』
学園の地下三階。
そこにある暗殺者がセキュリティを突破して現れた。
侵入者の前に斑鳩は立ち塞がる。
「斑鳩先生、久しぶり」
左目を眼帯で隠した男は通学路を歩くように、入り組んだ構造を迷わず進んでいた。斑鳩を見るや、口は三日月のように浮き上がった。
「これほどのセキュリティを突破するとはさすがですね。先代特待Aクラス首席ーー眼帯」
「また春が来たっていうから潰しに来たよ。第Ⅵクラスを」
眼帯が地下一階から地下三階へたどり着くまで、いくつもの罠が張り巡らされていた。
落とし穴や隠し通路、ワイヤートラップや赤外線などがあった。だがそのどれもが作動せず、眼帯は無傷で地下三階までたどり着いた。
「ねえ、今回の第Ⅵクラスも潰しちゃっても構わないよね」
まるで無邪気な子供がそのまま大人になったような言動。
「昨年も一昨年も手応えのある奴いなかったよ。今回も特待Aクラスの子は一人いるんだろうけどさ、相手が俺様だと石ころになっちゃうんだよね」
「確かにこれまでの第Ⅵクラスはそうでした」
「でしょでしょ。でも先生がそういうことを言う時はさ、大抵通説が覆る時だよね」
「今回の第Ⅵクラス、あなたでも落とすのは難しいとは思います」
「俺様にそんなことを言っちゃうんだ。先生、俺様の力を侮りすぎじゃないかな?」
眼帯が一秒もかからずナイフを服の内側から取り出した瞬間、斑鳩は更に速くナイフを取り出し、眼帯の肘に押し当てた。
「さすがに早い……」
「お前ではまだ私はやれない」
「目的は先生じゃありませんし、今回は刃を収めましょう」
眼帯がナイフをしまったと同時に斑鳩もナイフをしまった。一つ一つの動作に思わず格上だと感じてしまう。
だがポーカーフェイスは忘れない。
「先生、第Ⅵクラスは落としづらいって言ったけどさ、相手は俺様だよ。もうとっくに、第Ⅵクラスは落ちている」
♤
速水碧は考えていた。
もし自分の考察が当たっているとすれば、じきに自分達へ刺客が送られる可能性があった。
もし刺客が特待Aクラス、それも先代であったとすれば、自分の力量で太刀打ちできるかは分からない。
一時間、二時間、気付けば十時間は経っていた。図書室にこもって策を考えた。何時間もかけ、これから降りかかる悪夢への対策を考える。
刺客の可能性が最も高い人物の情報は取得不可だった。敵の警戒も遥かに勝っている。
思考し、熟考し、見出だした。
「宮園、一つ約束してほしいことがある」
「はい」
速水碧は小指を出し、宮園は一瞬固まるも小指を重ねた。
そして言った。
「私を信じろ」