第六十三話『速水VS眼帯』
円形の広間。
半径は百メートル程。
隅には重火器や刀剣などの武器が置かれ、飾られ、中には大砲などもある。
天井は鉄骨部分が露出し、窓ガラスは外からでも中が視認できる。
遥か遠くの場所から鳳は二人の戦いを見ていた。
速水と眼帯。
速水はなるべく近接戦には持ち込まず、距離をとりつつ射撃を行う。
眼帯は距離を詰め、刀や槍など攻撃範囲の広い武器を主に使って戦う。
「速水の真価はあの場では発揮されません。もう一人の人格が戦っているかもしれませんが、その場合は瞬殺されているはずですからあり得ないですね」
鳳は二人の戦いを見て楽しんでいた。
どちらが勝利し、どちらが敗北するのか。
「勝負の決め手は明確な隙。さあ、どうする。──速水」
速水は銃弾を一発放つ。
眼帯は刀で弾き返し、速水の頬を掠めとる。
速水は驚きで拳銃を落とした。
「近距離で来なきゃ死ぬよ」
速水は頬のかすり傷に触れ、指についた血を見る。
「無策じゃ無理か」
「そうそう無理無理」
眼帯は散歩するようにゆったり歩き、速水に近づく。
速水は呆然と立ったまま、眼帯が近づいてくることの無反応だ。
眼帯は刀を振り上げ、速水の首を跳ねるように振るう。
だが速水は刀を蹴り上げ、眼帯の手から外れた刀は天井の鉄骨に突き刺さる。
「だよな。慎重なお前のことは重々理解してる。第二撃があることもな」
眼帯はリモコンのような物を取り出し、速水に向けた。スイッチを押すとともに速水の身体が爆発した。
「……っ!?」
吹き飛び、床を激しく転がった。
「何が……」
速水には何が起こったのか理解できなかった。
突如として身体が爆発したことによって、全身にひどい火傷を負うはずだ。
爆風によって身体に大きな負担が伴っていることに違いない。
痛みに苦しむ速水を見て、眼帯は愉悦に浸る。
「お前、慎重だからあらゆる事態に備えてあらゆる武器を持っている。当然爆弾も持ってるだろ。このリモコンはあらゆる爆弾を爆発させることができる。面白い道具だろ」
眼帯はリモコンを見せつける。
速水は床に仰向けになったまま、薄目を開けている。
「たった一つで戦況は逆転する。なあ速水、お前の慎重さは逆手に取りやすかったってことだな」
「…………」
速水は沈黙している。
「何も言えないか。敗北が確定したこの状況では、お前はただの石ころだ。転がる先は俺様の采配次第」
眼帯は勝ち誇った笑みで速水を見下す。
「私が武器を隠し持っていることは容易に想像つくだろ」
「でもさっきの爆発で全部おしゃかになった。俺様を殺す術は残されてない」
速水は懐から折れ曲がったナイフを取り出し、眼帯の首目掛けて振るう。だがナイフを持った腕は蹴りで力を失い、ナイフはあらぬ方向へ飛んでいった。
「遠距離武器は繊細な物が多いからね。残っているとしたら近距離武器だけど、それじゃ俺様には傷一つつけれない」
速水は腕を押さえ、苦しんでいる。
「そもそも動きが遅いんだよ。それだけの傷で素早い身のこなしは不可能。俺様の勝利は決まってる。だから諦めて死んでしまえ」
眼帯は速水から十歩分距離をとり、拳銃を構える。
深傷を負った速水には、その距離は致命的だ。
「速水碧。じゃあね」
眼帯は引き金を引いた。
狙った場所は露出した部分──首だ。
服の下には防弾チョッキがあるかもしれない。だから見える部分を確実に貫く。
弾丸は直撃した。
眼帯は首を押さえ、血が噴き出していることに唖然とした。
「どういうことだ……!?」
全身から力が抜けていき、膝をつく。
不思議に思い、速水を見る。
速水は平然と立ち上がった。
首に銃弾が命中したような痕跡はなく、手には拳銃を握ってる。
「眼帯、お前は私の慎重を侮りすぎだ」
「何が……ッ」
不思議に思っている眼帯に、速水は服の下を見せつける。
その下は裸、でもなく防弾チョッキを着ているわけでもない。
「鎧……!?」
「説明は以上だ」
速水は鎧を隠し、引き金に指をかける。
眼帯はなぜこの状況に陥ったのか理解できていなかった。
だが鳳、彼女は理解していた。
「速水は爆弾が誤爆する可能性も考えていた。だから今回は鎧を着、また爆弾を少なめに持っておいた。誤爆した際に威力を大きく見せるため、煙玉も使っていた」
鳳は速水の一挙手一投足、また足音から分かる服の内側を聞き極めていた。
「ついでにさっき振るった折れ曲がったナイフは自分で曲げた。振るう速度もできるだけ手負いに感じてもらえるギリギリを狙った」
鳳は鳥肌を立てる。
「読んでいた。だから眼帯が引き金を引くのを待っていた。眼帯が引き金を引くのに合わせ、速水は見えないように構えた拳銃の引き金を引いた。丁度相手の弾丸の軌道上に弾丸を放ち、弾丸同士をぶつけた」
鳳は速水が成した技に魅了された。
「それだけじゃなく、弾丸がぶつかった衝撃で軌道がずれ、ずれた先の軌道上で眼帯の首に当たるように調節した」
鳳は速水の全ての技に称賛した。
人の成せる技では到底ない。
ごく一部の者しかたどり着けない境地。
「さすがは速水碧ですね」
鳳は速水勝利を嬉しそうに眺める。
速水は既に引き金を引いており、床には血に染まった眼帯が横たわっていた。
速水は決して勝利の余韻に浸らない。
「これで鬼灯の救出は成功か」
速水は螺旋階段を上がり、最上階に拘束された鬼灯を確認する。
銃弾で鎖を狙い撃ち、鎖はほどかれた。
鬼灯がされた目隠しを外し、簡潔に事情を説明する。
「そうなんだ……。白草先生が……」
鬼灯は涙を流した。
まだ白草会える。そう思っただけで嬉しかった。
「私は、白草先生に……母さんに会いたい。お願い、私を連れてって」
鬼灯は胸の内を吐露する。
速水はしばらく黙秘し、そっと口を開く。
「無理だ……」
「……そう、だよね。西国は東国の敵だもんね。そりゃ、無理だ」
鬼灯は自分が置かれている状況を理解している。
自分の願いが叶わないことは必然だ。
「真実を話そう」
「……え?」
神妙な面持ちをした速水。
鬼灯は不穏な雰囲気を感じる。
「君の母、白草冬華は……暗殺学園への反逆罪によって暗殺された」
「…………ぁ」
特等学園の生徒、並びに暗殺学園の生徒が宿泊する旅館。
どこかの一室で、白草は斑鳩と対面していた。
「分かってるよ。当然だよね」
「…………」
「ごめんね。私は暗殺学園よりも自分の子が大切だった。だから──」
引き金は引かれた。
白草冬華、彼女は斑鳩の弾丸によって幕を閉じた。




