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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第四章『悪魔が目覚める日』
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第六十一話『閉ざされた檻の中で』

 冬待の街のどこか。

 眼帯によって鬼灯は拘束されていた。

 両腕は鎖で縛られ、下半身は椅子に鎖で固定されていた。目隠しをされ、自分ががどこに囚われているか分からない。

 鬼灯は自分が失態を犯したことを悟り、絶望していた。


 図書館を連れ出したこと。

 図書館が東国に渡ってしまったこと。

 自分が捕まってしまったこと。

 それによって速水の拘束が不可能になったこと。


「まただ。また私は……」


 鬼灯は後悔していた。

 気が滅入った時、鬼灯が思い出すのは大抵暗殺学園の記憶。

 眼帯によって九期生が殺された時のこと。



 ♤



 Bクラス第三席白草鬼灯。

 平均的な成績を残し、常に一定以上の記録を残し続ける。

 母である白草千冬はBクラス担任であるが、そのことを知るのは鬼灯本人と白草千冬だけ。


 授業が終わり、時々会う時間を白草は作った。

 鬼灯は喜び、母と仲良く会話する。


「私はいつか母さんみたいに次世代の暗殺者を育てるよ。そのためにもっと強くなってみせる」


 鬼灯は決意を母に伝える。

 白草は鬼灯の言ったことに対し、真っ直ぐに見つめ返した。


「鬼灯にはまだ話していなかったな。私がどうしてここの教師をしているのか」


「聞かせてくれるの!」


 鬼灯は目を輝かせ、白草を見つめる。


「百年前に起こった十三日の金曜日、世界は混沌に満ちていた。私の母はその全盛期を生き抜いた暗殺者だった」


「暗殺者なんだ」


「混沌の中、母には恋人ができた。そこで母は暗殺からは手を引こうとした。だが母が所属していた組織の闇は黒く、暗殺者をやめると言い出した母を組織は殺そうとした」


 白草は母から聞いたことをそのまま鬼灯に話す。


「母は組織と敵対するが、組織には他にも数人の暗殺者がいた。多数に圧倒され、母は殺される。──寸前である暗殺者が颯爽と現れ、組織を母を残して壊滅させた」


 鬼灯は静かに白草の話を聞く。


「その暗殺者は言った。もしお前に子供ができたなら、その子供をある学園の教師に赴任させろ。そしてこれから言う使命を全うさせろ」


 白草の話は終わる。

 鬼灯は依然黙ったまま、白草の言葉を待つ。


「私は母を救った暗殺者の依頼によって、ここの教師を担当している。本当は暗殺者という道には進みたくなかった。人を殺める仕事に、他人を傷つける仕事に誇りは持てないから」


 白草は神妙な面持ちで話す。

 いつもと違う白草の表情に、鬼灯は何と返せばいいか分からなかった。


「だから鬼灯には暗殺者は目指してほしくなかった。この道を進んでいても、待っているのは悲しみだけだから」


「…………」


 鬼灯は何も言い返せなかった。

 突然価値観の違う話をされ、頭の整理ができなかった。


 白草は鬼灯の顔を見て、少し顔を歪める。


「今の話は忘れてくれ。お前が暗殺者になろうと、全く別の者になろうと、私が鬼灯を愛していることだけは変わらない。だから、自分に自信をもっていいんだよ」


 白草は鬼灯の頭を撫でる。



 しばらくして、鬼灯と白草は別れる。

 そこからはただの生徒と教師。

 仲良く話すことはない。


 鬼灯は迷いながらも、暗殺者としての高みを極めようとしていた。

 だが成績はわずかに下がり、Bクラス第三席から第四席に降格した。


 白草は鬼灯の迷いに気付いていたが、何もしてあげることはできなかった。

 彼女もまた、母親と同じように育て方を知らないから。


 鬼灯は迷いながらも第四席をキープしたまま、卒業試験前日を迎える。

 だが卒業試験前日になり、鬼灯の迷いはピークに達していた。

 次は実践、つまりは人の命を奪う。


 試験前日に大広間に招集がかけられていたが、鬼灯は大広間には行かなかった。

 鬼灯は暗殺学園の校舎を飛び出し、特等学園、つまりは一般生徒の日常に紛れた。


 サッカーやバスケ、吹奏楽などの部活動に励む生徒。

 彼らの姿を見て、鬼灯の迷いは更に大きくなった。

 もし自分が普通に生まれていたら、そう考えるだけで胸がいっぱいだった。


 自分の人生のもしもを思い浮かべる。


 もしもサッカー部に入っていたら、素早い身のこなしで華麗なシュートを決められただろう。

 もしも自分に恋人ができたら、もっと惚れさせるデートはできるだろうか。

 もしも、もしも、もしも……



 鬼灯は迷い続けた。

 迷って迷って、抜け出せない迷路に閉じ込められた。

 使われなくなった校舎のトイレの個室にこもる。


「ねえ、私は何……」


 鬼灯は暗殺者だ。

 それ以外の道はない。


 胸が締め付けられるような苦しみに侵されたまま、暗殺学園の校舎に戻る。

 その一歩は重く、悲しいものだ。

 だが鬼灯は暗殺者として生きようとしていた。


 だが──




 大広間には無数の死体があった。

 それらは九期生のものばかり。その中には同じBクラスの暗殺者もいた。

 全員が血にまみれている。


「どうして……」


 背後に気配を感じ、振り返る。

 すぐさま刃が目の前に迫り、咄嗟にナイフを盾に構える。

 ナイフは折れ曲がり、鬼灯は吹き飛んだ。


「鬼灯、お前だけ察しがいいと思ったが、戻ってきたか」


「眼帯、これはお前がやったのか」


 眼帯は笑っていた。


「暗殺者なんて俺様が一人いれば十分だろ。だから全員殺したんだ。あとはお前だけだな」


 眼帯は容赦なく刃を振るう。

 だが眼帯からは逃れられない。

 特待Aクラス主席眼帯、対するはBクラス第四席鬼灯だ。

 力の差は計り知れない。


「鬼灯、お前の得意な技は変装だったか。だがこの状況じゃ意味ないな」


「ふざけるな。どうしてお前は簡単に人を殺せるんだ」


「ここは暗殺学園だぞ。間違っているのはお前の方だ」


 鬼灯の叫びは眼帯の殺意に払われた。


「もう死ねよ。鬼灯」


 眼帯はナイフを振りかざし、鬼灯の頭部に突き刺した。

 頭からは血が噴き出し、完全に絶命した。


「これで生き残りは俺様だけだね」


 眼帯は転がる死体を蹴り、高らかに笑う。


 そこへ斑鳩や鴻巣、白草や古木といった教師陣が姿を現す。


「眼帯、お前がやったのか」


「そうですよ斑鳩先生。ですが構いませんよね。ここは暗殺学園ですから」


「ああ……そうだな」


 眼帯を見て、斑鳩は呟く。


「眼帯、お前の卒業試験は終わりだ。これだけでお前の力は十分証明された。今日は帰っていい」


「物分かりが早くて助かります。斑鳩先生」


 眼帯は斑鳩だけを見て、大広間を去っていった。

 斑鳩らは血まみれの大広間を呆然と眺める。


「斑鳩、ここの掃除は私がやっておく」


 白草が名乗り出る。


「……任せた。鴻巣と古木は本来暗殺する予定だった人物への刺客の考案をしておけ」


 斑鳩の指示のもと、鴻巣と古木も大広間を去る。

 斑鳩は一度足を止めて大広間に倒れるある人物のもとへ走った白草を見つめ、すぐにまだ足を動かす。

 一人になったのを確認した白草は、鬼灯の隣に倒れる生徒へ声をかける。


「鬼灯、もう大丈夫だ」


「……うん」


 涙ぐんだ声で返事がされる。


 鬼灯は即席で側の死体に自分そっくりと変装を施し、その生徒の変装を自分がすることで他人に成り代わった。

 眼帯は気付けずに鬼灯を仕留め損ねた。


「事情はいい。これからお前を国外へ逃がす」


「国外……って」


「バレれば私は殺される。それでもお前を救いたい」


「でも……会えなくなるんでしょ」


「ごめんね。私には力がないから……こんなことしかできない」


 白草は別れを惜しみつつ、鬼灯に別れを告げようとしていた。

 鬼灯はそれを嫌がるも、白草は強行する。


「さよなら鬼灯。いつか会えたら──」


 泣きじゃくる鬼灯。

 その首に注射器を刺し、直後に鬼灯は眠った。


「ごめんね鬼灯。バイバイ」



 ♤



 鬼灯は過去に浸る。

 眼帯に囚われた時点で、母にはもう会えない。

 鬼灯は涙を流した。

 堪えきれず、溢れだした涙は水面の石のように儚く輝いていた。


 鬼灯は諦めた。

 自分はもう助からない。

 だから目を閉じ、告げた。


「さよなら、母さん」





 冬待の街。

 そのシンボルとなっている雪降らしの塔。

 百メートルを越える高さを誇っている。

 一般の立ち入りは禁じられ、警備員が大勢配備されている。


 階段には警備員が血を流し、倒れている。

 階段だけではなく、あらゆる場所に警備員の死体が転がっている。


「その最上階に鬼灯は拘束されている。ってことでいいんだな」

(私のハッキングは完璧だよ。所々カメラが壊されていて映像はないけど、あらゆる情報と照らし合わせた結果、ここしかない)


 雪降らしの塔を見上げる一人の女性がいた。


「速水、なぜ君が選ばれた。白草とあまり接点がないが、それでも彼女が君を選んだ理由は何だ」

(私に敵うのは特待Aクラスの生徒しかいない。その中で私は一際優しいからな)


「そうか。君は私に似ているな」

(お互い謙遜しないんだね)


 一人で微笑む速水。

 彼女は塔を見上げる。


 気配に気付き、塔の最上階の窓越しに眼帯は見下ろす。


「あれは……」


 速水は眼帯が見下ろしていることに気付いた。


(今回は私にやらせてくれ)

「いいが、死なれては困る」


(私が死ぬと思うか。ただでさえここに来るまで無数の策を施したというのに)

「確かに。それに今回の相手は君にとって特別な相手なんだろ」


(ええ。倒したくてうずうずしていた相手です)

「では私は気楽に見学でもしていようか」


 速水は目を閉じ、わずかに震える。

 次に目を開けた時、目つきは変わっていた。


 雪降らしの塔を見上げ、彼女は叫ぶ。


「リベンジマッチだ。今度こそ私を殺してみろ」


 眼帯は答える。


「勝つのは当然──」


「──俺様だ」

「──私だ」

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