第六十話『クラスメート』
午後三時半。
鬼灯は図書館を連れ、冬待の街に到着した。
小型船を岸に止める。
防犯カメラの映像を傍受し、空を飛んでいるヘリの映像は確認していたため、ヘリが向かっている方角を目指す。
だが、鬼灯は足を止めた。
彼の到来を待っていたかのように、立ち塞がる男がいた。
「久しぶりだな。鬼灯」
「お前は……眼帯」
鬼灯の前に立ち塞がったのは眼帯だった。
反射的に鬼灯は脅える。
「その男は誰だ」
眼帯の視線は鬼灯の後ろに立つ図書館へ向けられる。
全身を黒いローブで覆っているが、わずかに見える部分からは機械仕掛けの身体が分かる。
「お前こそ何だ」
鬼灯がやけくそに返答する。
眼帯はため息を吐き、鬼灯を見下すような目つきで見る。
「俺様はお前だけは生きていると思った。だからこうして迎えに来てやったんだ」
「私はまだあの事件のこと、根に持ってるからな」
「俺様が九期全員を殺したことか? だがお前は生きているだろ。いつまでも昔のことを気にするな」
「ふっざけるな。お前のせいで私の友達は……全員死んだんだぞ」
鬼灯は怒鳴り、眼帯に殺意をぶつける。
「甘いんだよ。友達友達ってよ」
眼帯は一歩一歩近づき、鋭い眼光で鬼灯を睨みつける。
鬼灯は全身を震わし、足をすくめ、しりもちをついた。
見上げる鬼灯を眼帯は見下し、髪を掴む。
「ここは暗殺学園だぞ。弱者は生き残れないそういう場所だ。お前みたいな奴はここにはいらないんだよ」
眼帯はスタンガンを取り出し、鬼灯の額に当てる。
「これで死ななかったら生かしてやるよ」
「いや、いやああああああ」
「バイバイ。鬼灯」
笑顔で言い残し、スタンガンのスイッチをオンにした。
鬼灯の額には電流が駆け抜け、たちまち意識はシャットアウトした。
魂が抜けた人形のようにガクッと地面に倒れる。
「さてと」
眼帯は鬼灯の髪を掴んで転がし、図書館のもとまで歩み寄る。
「あなたはどうしますか?」
眼帯はスタンガンを図書館の胸もとに当てる。
「大人しくついてくるのであれば手荒な真似はしません」
「分かりました。大人しく付き従いましょう」
「それでいい」
図書館は逆らわない。
無惨に倒れる鬼灯を見て、図書館は何を思っているのか。
♤
午後四時。
速水碧は宮園を旅館まで戻り、宮園の部屋まで送り届けると、速水は自分の部屋に一人で籠る。
鏡に向き合い、自分の目を凝視する。
「速水碧、君はこれからどうしたい」
(私が願いを言ったとして、お前は私の願いを叶えてくれるのか)
「当然だ。あくまでも私は君の身体を貸してもらっている立場だ。もし君に反抗されれば身体の制御は不安定になる」
(時々あなたの記憶が私に流れてくる。確かにあなたは優しい人だ。でも、それ以上に残酷だ)
「私は暗殺者。願いは暗殺を利用して叶えてきた」
(私もそうだ。暗殺者だから、守りたい人のために暗殺をこなす)
「君は人を殺すことを悪だと思うか」
(悪だ。だから私は地獄で裁かれるだろう)
「では人を生かすことは必ずしも善か」
(それは──)
扉がノックされる。
(出ていいよ)
扉を開けると、外には白草が立っていた。
彼女は十三期Bクラス担任だ。
速水とはあまり接点はない。
(まともに話すのは初対面だ。あまり彼女の情報はない)
速水の肉体が心の中で呟く。
「何か用ですか?」
「速水碧、私情に耳を傾ける気はありますか」
速水は一呼吸置き、白草を凝視する。
「いいでしょう。では部屋の中へ入ってください」
速水は白草を部屋へ案内し、即席で紅茶を淹れ、白草に差し出す。
白草は紅茶も飲まず、今すぐ本題に入りたい様子だった。
それを速水は察する。
「私情の内容は何ですか」
「暗殺学園九期生、その一人、眼帯。君は一度極秘に彼と戦っているね」
「はい」
「彼は九期生全員を暗殺し、九期たった一人の卒業生となった」
「なるほど。そうでしたか」
速水はその話を斑鳩から聞いていたが、話を円滑に進ませるためにあえて知らないふりをした。
「だが私はある生徒を死亡扱いにし、極秘に他国へ逃がしていた」
「……その生徒とは誰ですか」
「鬼灯という生徒だ。そして今、鬼灯は眼帯によって囚われている。君には鬼灯を救いだしてほしい」
速水は沈黙し、白草を見つめる。
「一つ教えてください。ただの生徒をそこまでして庇う理由が思い当たらない。あなたと鬼灯の関係は一体何ですか?」
速水はそこに並々ならぬ秘密があることを感じていた。
白草は躊躇うも、ゆっくりと口を開いた。
「鬼灯は──」
白草は偽りなく答えた。
「──私の娘だ」




