第六話『速水碧に残る謎』
鳳が在籍する第Ⅰクラスには暗殺者が七人在籍していた。特待Aクラス一人、Aクラス二人、Bクラス二人、Cクラス二人という配分。
全ての暗殺クラスが六人しかいないわけではないため、数に余りが生じる。その場合、成績のいいクラスに暗殺者が多く送られる。
つまり下層クラスと上層クラスでは変えようのない差が大きく開かれている。
速水と同様に、鳳も学園の仕組みには気付いていた。
それ故、楽しみでもあった。
ホームルームの時間、体育倉庫で鳳と四人の暗殺者が話をしていた。
「第Ⅵクラスは明らかに劣勢。それは誰の目から見ても明らか」
「そんな状況に陥ったら僕でも挽回は無理かな」
壁に寄りかかっている少年は呟いた。
「だが私は速水碧に期待している。どれ程劣勢であろうとも、彼女であれば巻き返すことは容易だろうね」
「過大評価ですよ。僕は一時期彼女と同じAクラスでしたが、暗殺技術は僕よりも劣っていた」
「確か君はAクラス首席だったかな。王子くん」
「はい。彼女よりも僕の方が暗殺において引けは取らない」
「取るさ。私の目が速水と君の格の差を確信している。君は何も見えていないよ」
王子は表情を決して崩さない。
暗殺者たる者、弱みを見せることはしない。
「しかし速水はBクラスから来た。Aクラスでさえ不相応だった」
「ーーCクラス」
「……はい?」
「速水碧は最初、Cクラスにいた。そこから徐々に特待Aクラスに上がってきた」
この場にいた暗殺者全員が沈黙せざるをえなかった。それは普通では考えられなほどの偉業。
Cクラスと判定された者が特待Aクラスに上がるということがなぜ不可能か。
そもそも暗殺教育の際のクラス分けは小学四年になるまでに行われる。そこで才能を持った者、見込みがある者ほど上位クラスに配属された。
当初の特待Aクラスはたった一人、鳳凛香のみ。それから四人が新たに特待Aクラスへ昇級したが、全員が元Aクラス。
BクラスやCクラスから一段階昇級することはあっても、それ以上は進まない。
上位クラスに上がるほど優秀な暗殺者から教育を受けれるという環境では、下位クラスから上がることができても一段階が限界。
「ではなぜ速水碧は特待Aクラスまで昇級したか」
鳳は問いかけた。王子にはある疑念が過る。
それが真実であったら、と考えるだけでも恐ろしかった。
「ちょっと待ってください。だとすれば……彼女は一体、何なんですか!?」
「どうやら君と私の仮説は一致したらしい。彼女ーー速水碧は幼い頃から実力を隠し続けている」
誰もが驚いた。
幼少期、まだ理性も上手く働かない時期に、自分の実力を隠し通した。これがどれほど恐ろしいことなのか、全員が氷のような震えを感じていた。
「本当に恐ろしいよ。あくまでも考察だが、それ以外に可能性がない」
「どうしますか? 彼女が本気を出せば僕らは一網打尽になりますよ」
「大丈夫、私がいる。速水の本気がどれほどか分からないが、私の本気が速水に届かないということもないだろう。戦ってみなければ分からない」
「一見はしてみたいですね」
「ああ。その本気がどれほどかは分からないが、じきに第Ⅵクラスに試練が訪れる。もしかしたら本気が見れるかもしれない」
「試練?」
「第Ⅵクラス落とし。毎年の恒例行事。これまでの先代第Ⅵクラスはここで全滅している」