第五話『変わる予感』
「暗殺教育が終わっていない……?」
「私たちに指導をしてくれた暗殺の先生は、今の私たちに満足しているだろうか」
「それは……」
宮園は言葉に詰まる。自分の実力不足を十分理解しているからだ。
「でも速水はーーっ」
「いや、私もまだまだだ。しかし、私は君たちを導かなければいけない」
宮園は速水が言っていることを淡々と聞き続けた。
「まず前提として、特待Aクラスには六人必要だった。それは優秀にせよ違うにせよだ。私が昇級したのは人数合わせに過ぎない」
違う、と宮園は言いたかったが、話の続きが気になり、口を挟むのをやめた。
「この学園には六つのクラスがある。第Ⅰクラスから第Ⅵクラス。これは表向きには成績順となっているが、私たち暗殺者の場合も同様なのだろう。私たちは第Ⅵクラス。そしてこのクラスの暗殺者全員が末席」
仕組まれていないはずがない。
だがそれでは疑問が生じる。その疑問を速水はすぐに払拭させた。
「先ほどは対等な戦力で競わせる、と言ったが、戦力順で言えば釣り合わない。真の目的は更なる選別だと考える。暗殺が禁止になったこの世界で半端な暗殺者はいらない。強い暗殺者のみを生かすつもりなのだろう」
速水が言ったことは筋が通っているように思えた。同時に悔しさがあった。
自分が優秀であれば、という願い。
「これらの真実に近づくことが、特待Aクラスである私に課せられた試練だったんだろう。だから導かなければいけなかった。おそらく他のクラスの特待生はこの仕組みに気付いている」
「マジっ!?」
「このままじゃ私たちは選別で落とされる。つまりは死ぬ、ということ」
宮園は恐怖する。自分に死が迫っていると感じたからだ。
窮地に陥っている。それが分かっていながら、速水は笑っていた。
「速水?」
「脅えることはない。ただ私たちが彼女らを上回ればいいだけの話だ。宮園、君が私を信用してくれるのであれば私を頼り、信じろ」
速水は自分でも、らしくないと思いつつ手を差し出した。その手を宮園はぎゅっと掴んだ。
「いいんですか? 私が敵だったら握手の瞬間に毒針をさせたんですよ」
「信じていた」
信頼、それが宮園の心を高揚させた。が、
「さりげなく金属探知機で金属類を持っていないことは確認した。他に隠し持てるような場所は片っ端からさりげなく確認したがどこにもなかった。だから信じた」
「それ信じるって言わないですよー」
宮園の高揚は一瞬で消え去った。
だが思わず微笑んでしまった。
「末席でよかったかもしれません。私、あなたとなら、きっと上手くやっていける気がする」
Aクラスの落ちこぼれ、宮園潮。
だが速水碧に出会ったことが自分の人生を変えてくれる気がした。
変えてくれる……気がーー。
きっとそれからのことを、彼女はこう語る。
「ーー私は間違っていた」