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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第四十五話『死に場所より』

 不死がビルに訪れる数分前。

 鳴海が殺した諜報員は偶然にもトランシーバーを手に入れていた。そこで聞こえてきた情報は『二班全員"霊鳥ビル"に集合しろ』という内容だった。


「不死。これからお前には死んでもらう」


「いいよ。丁度死にたかったところだし」


 不死は首をポキッと鳴らすと、準備運動を始めた。

 表情は暗く、声は小さい。目つきは寝不足のようで、終始猫背だ。


「場所は偶然にも有栖川麗が卒業試験で死んだと思われる場所だ」


「有栖川麗。確か暗殺学園に革命を起こそうとしてたんだっけ」


「だが作戦は失敗し、卒業試験で死んだということになっている。しかし報告書を読んだ限りでは、おそらく卒業生か教師陣に殺されたんだろうな」


 鳴海は冷静に推理する。

 不死も同じ意見だったためか、静かに頷いた。


「西国の連中があの場に集まろうとしているのは偶然だと思うか?」


「偶然なんじゃない。あの場所は管理者もいないビルだし、身を潜めるには絶好のスポットだから」


 鳴海の疑問を不死はあっさりと解決する。

 不死はそれについて感心がないようにあくびをし、眠そうに目をこする。


「最悪一人や二人逃がすかもしれないけど、その時は任せるね」


「気になっていたんだが、どうしてお前は……いや、やめとく」


「聞かないで正解だったかもね」


 不死は虚空を見るように鳴海を見た。

 鳴海は不死の何とも言えぬ表情に返す言葉を見失い、僅かに開いた口を向けて不死を見つめる。


「じゃあ行ってこようかな」


 不死は軽く伸びをし、脅える様子もなく諜報員が集結するビルへ向かう。

 まるで通学路を行く青年のように呑気に。




 霊鳥ビルを見上げるなり、諜報員がいる危険性も考えず奥へずかずかと入り込む。

 どれだけビルを探し回っても一人の姿も見当たらない。


「おかしいな。どうして誰もいない?」


 不死は異変を感じ、最上階で立ち止まった。

 星空を見るように呆然と立ち尽くし、この事態について深く考える。


「なるほど。そういうことか」


 不死はなぜこのビルに一人の諜報員もいないのかを理解した。それ故、彼は自分は窮地に追い込まれていることを悟る。


「誘き出されたか」


 トランシーバーで聞いた情報は敵を捕えるための罠だった。何者かが『見えざる手』を襲撃しているのに気付いたからこそ、仲間を囮に使って敵を追い込む。

 不死はそう推理した。


「しかし災難だ。というかついてない。多分死ぬな。これは。だったら最悪。ああ、帰りたい」


 髪をかきむしりながら愚痴をこぼす。

 自分が追い込まれていると思うと、不死の精神は不安定に揺らぐ。

 不死はポケットにしまっていた長方形の小さな容器を取り出し、広げているもう一方の手のひらに容器の中身を出す。

 紫色の錠剤を乱雑に取り出し、口に放り込む。


 しばらくして不死の精神は緩やかになる。

 目を閉じて天を仰ぎ、


「はぁぁぁ、やるか」


 袖から手もとに拳銃とナイフを滑らせ、器用に構える。




 既にビルを六人の諜報員が囲んでいた。

 その様子を端から見る人陰が六つ。

 一つは鳴海。

 不死の様子が気になり、密かに現場に訪れていた。


「こんなところで死んでくれるなよ」


 鳴海は不死の行く末を気掛かりに思う。

 その視線は真っ直ぐに戦場へ向けられる。



 ♤



 戦闘が始まる。

 六人の諜報員は音を立てずビルの一階を動き回る。

 両手に拳銃を構え、服装はスーツ姿。一見サラリーマンにも見えなくはない。

 六人は見事な連携で一階全域を確認した。


「いない。次だ」


 声には出さず、目やポーズで合図を送る。

 全員が合図を理解し、二階へ上がる。

 緊張感の中、二階全域を確認するが不死の姿はない。

 このビルは三階建てであるため、もし次の階にいなければ屋上ということになる。


「……っ!?」


 三階にも不死の姿は見当たらない。

 諜報員らは屋上に繋がる扉を眺め、しばらく動きを止めた。

 単に気付いていないのか、それとも気付いた上で屋上で万全の状態で待ち構えているのか。

 肌を燃やすような緊張感の中、勇敢にも一人の男が屋上に続く扉に手をかけた──瞬間だった。


「冥土には何がある」


 声がした。

 と同時、血飛沫が炸裂する。


「──っ!?」


 全員が目を見開き、声がした方へ向く。

 そこにはいるはずのない不死が鋭い目つきで諜報員Aをナイフで貫いていた。

 即座に不死は銃弾を二発放つ。一つは諜報員Bの左腕を貫き、もう一つは諜報員Cに放ったがかわされていた。


「不意打ちなんだけどな」


 かわされたことに意気消沈しながらも、不死は相手の攻撃に備えて後ろに引いた。

 諜報員B、C、D、E、Fは一斉に銃口を不死に向ける。しかし銃口を向けた刹那、不死は角を曲がって逃走する。


「追え。逃がすな」


 五人の諜報員は死に物狂いで不死を追う。

 諜報員Fが勢いよく角を曲がると同時、爆発音が響く。

 諜報員Fは全身を真っ黒に染め、爆煙の中から死体となって現れた。


「敵は一人。冷静に追い詰めろ」


 四人の諜報員は慌てていた心を落ち着け、不死を冷静に追い詰めようとする。

 離れて動かず、全員が近すぎず遠すぎずの距離で通路を進む。


 不死にとっては全て想定通りだった。

 あらかじめ仕掛けておいた爆弾のスイッチを押し、諜報員らが立つ床を爆破させた。

 落下する四人の諜報員に向けて不死の無慈悲な銃弾が火を吹く。

 諜報員C、Dの頭を撃ち抜き、諜報員Bの左足を撃ち抜く。諜報員Eは落下する中でも銃弾をかわしきった。


 瓦礫が錯乱し、砂煙が上がる。

 諜報員Eは立つが、Bは腕と足を撃たれ、立つ気力を失っている。容赦なく不死は銃口を向ける。

 が、諜報員Eは口を開く。


「不死実験の被験体、朧。我々は交渉をしに来た」


「ボクのこと知ってるの?」


「西国の重要機密であるお前を連れ戻しに来た」


 直後、一発の銃声。

 諜報員Bの眉間には風穴が空いていた。


「何を……!?」


「ボクをお前って言っただろ。ボクを連れ戻したいなら丁重に扱え」


 不死は傲慢な装いで見下す。


「仕方ない」


 だが諜報員Eは怯まなかった。

 拳銃を最小限の動作で向けると、一切の躊躇なく不死の額を撃ち抜いた。

 不死はそのまま後ろに倒れ、頭からは血が流出する。


「出来れば殺さず連れ戻そうと思ったが仕方ない。不死実験の成功体といっても体の修復には時間がかかり、修復後は極度の疲労に襲われる。完全に不完全だ」


 諜報員Eは意識を失って倒れているはずの不死のもとへ向かう。

 軽い足取りで不死のもとまでつき、不死の容態を確認するため覗き込む。


「……まさか、」


 彼は驚き、即座に銃口を不死に向ける。引き金を引くよりも早く、銃弾が彼の手を直撃する。

 唖然とする諜報員Eの前に、少年は──不死朧は立ち上がった。


「いつになったら冥土に行ける」


 不死は脅える諜報員Eを血が滴る顔で見下ろす。


「ああそうか、お前だったな」


「はっ…………!?」


「ボクは西国が大嫌いだ。死ねない自分が大嫌いだ。だから、全ての殺意を銃弾に込めたんだ」


 不死は銃口を諜報員Eの口に突っ込む。嗚咽混じりに声なき絶叫をする彼の表情を眺め、不死は笑った。


「ENDだ」


 銃声が奏でられ、血飛沫が舞う。

 ビルにて、諜報員六人は絶命した。

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