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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第四十四話『仄かな不穏』

 世界は誰かのためにある。

 少なくとも、僕のために存在するものではなかった。

 もしも世界が僕のためにあるのなら、そもそも世界など存在さえしていなかっただろう。

 ーー僕は自分が嫌いだ。


「Cクラス末席(かすか)(ほの)。まさかお前が生き残るとはな」


「…………」


 自分でも理解している。

 本当は卒業試験に失敗して死ぬはずだった。

 それほどに自分が期待されていないことは分かっていた。


 Cクラス主席の彼女は死んだ。

 それなのにどうして……


 彼女には才能があった。優しさもあった。

 暗殺者として、それ以前に彼女は人として立派な存在だった。僕の憧れそのものだった。

 こんな僕にも優しく手を差し伸べてくれる。だが、もうその手はない。


 いっそ死んでしまおうか。そう思っていた。

 そんな僕の前の現れたのは黒いローブを身に纏った人物。彼が一体何者なのか分からない。

 だが彼は僕の心を見抜いているようだった。


「有栖川麗を救いたいか」


「アリスのためなら命だって惜しくない」


 迷わず答えた。

 せめてあの人のために死にたい。

 無力な自分が少しでも空を飛ぶための翼を偽りたかった。


 だが失敗し、第Ⅵクラスのために尽くそうと思った。

 それでも……


 風霧と海原は現れた。

 アリスの遺言を添えて。


 自分がどうすべきかなんて分からない。自分の弱さではどこにも飛べないことは分かっている。

 だからアリスを追いかけよう。

 僕は愚かに踊る傀儡だけれど、アリスのために踊れるのなら悪くない。



「──ワルツを奏でて」



 速水、宮園、赤羽のもとを去り、事前に伝えられていた集合場所へ向かう。

 既に二人の暗殺者が待っていた。


「これで揃ったな」


 Cクラスでアリスを支え続けた風霧と海原。

 僕は二人とともにアリスの遺産を追う。


「幽、行くよ」

「必ず見つけるぞ。アリスの遺産を」


「……そうだね。見つかるといいね」



 ♤



 自由行動が始まってから二時間。

 その間に鳳は十人もの諜報員を見つけ出し、始末していた。王子は諜報員の死体をアタッシュケースに詰め、回収班に託した。


「未だ当たらずか」


「鳳さん、何か気になる点でもあるんですか」


「なぜ西国は『見えざる手』の存在を隠すのか。諜報機関の存在はどの国も否定も肯定もしていません。全ての国から黙認されている。つまり『見えざる手』には何か秘密があると考えています」


「でも諜報機関の存在は戦争のきっかけになるって言っていませんでしたっけ」


 九日前、大広間で行われた会議の話を王子は思い返す。


「あれはただ浮かれた哀れな暗殺者の気を高めたかっただけですよ。しかし半分事実です。もし暗殺者の存在が露呈し、東国が滅んだとすれば……。何が起こるか分かりますか」


「どの国も情勢を整えるために休戦、もしくは目的を果たし

 たので終戦するのでは」


「いえ、そうではありません。確かに東国と三国の争いによってどの国も被害を被ります。疲弊した分、国の状況を整えたい。だが西国は違うでしょう」


「なぜですか」


「西国という国は完全な管理社会だからです。最新技術によって人々のステータスは日々計測され、最高峰の人工知能がある目的のために最適なプログラムを提出する。北国と南国にはそのようなシステムはない。北国は革命国家、軍事力は四国の中で最高だが持久力はない。南国は多民族国家のため、長期間国をまとめることは難しい。その上で西国の脅威は計り知れない」


 西国の強さは他国を凌駕する。

 科学文明の西国。

 革命思想の北国。

 多民族主義の南国。


 鳳は西国を淡々と称えるようだった。


「それを分かっているからこそ、北国と南国は諜報機関の存在を理由に同盟を組み、西国を滅ぼすでしょう」


 西国の技術は他三国には流入していない。それが国同士の均衡を不安定にしている。


「しかし、西国にはまだ隠し事があると思っています。私はそれを彼らから得たかったのですが、今のところ手掛かりがありません」


 鳳は床に転がる諜報員を見下ろしながら言った。


「隠し事とは何ですか」


「てっきり非人道的な実験でも行われているのかと思いましたが、今のところその証拠は掴めそうにないですね」


「人体改造でもしているのでしょうか。しかし暗殺は禁止されていますが、非人道的な実験は禁止されていませんよね」


「私たちは暗殺学園に長く居すぎたために、価値観というものが片寄ってしまっている。だからあなたは禁止されていない、それがイコール批判すべきではないと思うのでしょう」


 王子の考えは実際そうだ。


「しかし違います。非人道的な実験は社会的に許さざる罪です。それを行えば社会的な批判を受け、それを口実にまずは西国が滅ぶかもしれない。ま、それでも国内では反乱はそう起こらないでしょうけど」


「色々難しいですね。国同士の読み合いは」


「結局何も起きないに越したことはありません。しかし西国が刺客を送り込んできた以上、西国の秘密を見つけるしかありませんね」


「人体実験……」


「にしても思い出しますね。暗殺学園時代の頃を」


 王子は何か引っ掛かっていることがあるのか、斜め上を向いて考え事をしていた。


「どうしましたか。王子」


「暗殺学園時代、ある噂があったんですよ」


「話してみなさい」


「実弾を的に当てる訓練の後、拳銃がなくなる事件が起こった。その日の夜、銃声が響いた。銃声のした方へ駆け寄ったところ、頭から血を流して倒れる少年の姿があったそうです。しかし……」


 王子は当時の噂を嘘だと疑いながらも話を続ける。


「頭に風穴が空いたはずの少年は何事もなかったかのように立ち上がった」


「不死身ですか。ちなみにその生徒が誰か分かりますか」


「確か……特待Aクラス第──」



 ♤



 西国の極秘組織『見えざる手』の諜報員六人があるビルを囲んでいた。


「あのビルに例の人物が目撃されています」


 一人の諜報員が写真を取り出し、他の諜報員に見せる。

 その写真には白髪の少年が写っている。


「間違いないな」


「はい。不死実験の被験者──朧」


 写真に写る人物は、暗殺学園第三席不死(しなず)朧だった。

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