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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第一章『第Ⅵクラス落とし』
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第四話『速水碧は気付いている』

 暗殺教育は中学校までに役目を終える。

 そこから先は実践が行われる形となる。


 ここ、特等学園は小中高一貫の学校であるが、高校から生徒数が増減する。

 それは学園内で行われる選別試験によるもの。

 在校生には在学をかけた試験を課し、外部生には入学をかけた試験を課す。その試験の難易度は高く、これまで総合成績九割以上を取れた者は誰一人としていない。

 科目は国語、数学、外国語、社会、理科、保健体育、情報、芸能が出題される。各科目二百点満点でそれぞれ六割以上をとることを前提とされる。

 文武両道でなければ入学はおろか、在学し続けることも難しい。


 その制度は学園が密かに行っている暗殺者プロジェクトを隠すためである。

 学園が秘密裏に育てた暗殺者を高校生として紛れ込ませ、日常生活を送りながら暗殺を実行させる。

 高校生が暗殺者とは思われないだろう、そんな考えもあったからだ。


 そして今日、振るいにかけられ、生存した者が高校へ進学する。

 彼らは知らない。

 振り返れば、暗殺者がいるということを。



 ♤



 速水碧は疲れていた。


 彼女のモットーは常にポーカーフェイスであること。クールな装いで自分の性格などの内面を隠し通した。

 だが予想外のことが起こればポーカーフェイスが崩れる危険性がある。

 最大の警戒を込め、速水碧は学園の生徒を隅から隅まで調べ上げた。


 全ての生徒の情報を入手することはかなわなかったものの、自分が同じクラスになる生徒の情報だけはある程度入手することができた。

 自分のクラスに配属された暗殺者の数も把握している。

 自分のクラスに危険度の高い人物はいない。そう捉えた速水は机に上体を倒し、今にも睡眠を始めようとしていた。


 そこへ、


「久しぶりだね。速水ちゃん」


 自分の名を呼ばれ、咄嗟に顔を上げた。

 妙に聞き覚えのある声だと思っていると、それもそのはず、速水は彼女を知っている。


「私は宮園(みやぞの)(うしお)。覚えてくれているかな?」


 速水が特待Aクラスに昇級する前、つまりAクラスだった時代のクラスメート。


「Aクラスの宮園潮。確か変装術が得意だったな」


 宮園は高揚を覚えた。

 目を輝かせ、速水を見る。


「まさか本当に私のことを見ていてくれていたなんて思ってもいなかったよ。私、最高に嬉しいよ」


 感情豊かに喜ぶ宮園。

 速水には、何が宮園が喜ぶ一端となったのかは理解できない。だが大体の察しはつくため、速水は続けて言った。


「他に美術科目が得意で、音楽や接近戦の授業も成績がいい。対して外国語が苦手、他にも声真似が上手くないなど変装をしたところで喋ればバレるという欠点を持っている。だが声真似に関しては時間をかけて克服し、Aクラスからの落第は免れた」


 あまりにも自分の情報を知られ、宮園は動揺する。中には速水が特待Aクラスに昇級した後のことも含まれている。


「誕生日は一月五日、血液型はO型、身長は157cm、体重はごじゅーー」


「ーーってちょっとストップ! 体重は禁句でしょ! ってか体重なんていつ知ったの!」


 体重だけは言わせないと全力で阻止を計った。

 赤面し、周りに体重を聞かれてないかと焦るが、幸いにも教室の雑音に紛れて誰も聞いていなかった。

 安堵の吐息を漏らし、胸に手を当てて心を落ち着かせる。


「速水ちゃん、さすがに知りすぎでしょ」


「暗殺者にとって情報は命を預けるに等しいものだからね」


 たった一言、だがそれは宮園に速水とはどういう思考の持ち主かを知らしめた。

 宮園は暗殺者としての格の違いを感じてしまった。


「これから極秘の話をしたいから屋上に行きますか」



 場所は移り、屋上。

 この時間はホームルームが行われているため、屋上に人が来る可能性はない。

 だが、速水は危惧した。


「速水ちゃん、何してるの?」


 速水は屋上の壁に一見コンセントにも思える何かを貼りつけてた。


「屋上に人が来たら私の耳に取りつけたイヤホンからサイレンが流れる」


「でもこの時間にうろつく人なんているかな? ただでさえ進学校。皆真面目だよ」


「ここの教師生徒のほとんどが私たちの存在を知らない。特に教師に見つかるのは面倒だから今の内に備えておく」


「な、なるほど」


 納得し、速水の行動をぼーっと眺める。


 速水は手慣れた動きで貼りつけを終えると、次にポケットからチューブを取り出した。


「今度は何をする気!?」


「特殊な接着剤で、百キロの負荷に余裕で耐えられる。Aクラスの不和に借りた」


 扉の隙間をチューブの液体で埋めていく。完全に密閉し終え、ようやく話せると宮園は一息つく。

 だが、


「念のため鎖で固定する」


「慎重すぎるよ! もう十分対策はできてるよ!」


「あと十個ほど仕掛けを施す」


「まだあるの!?」


 それから五分で仕掛けを全て取りつけた。

 ようやく話ができる、と思った矢先、速水は言う。


「盗聴器、またはそれに類似するものを探す」


 再び五分、念入りに調査をする。結局そのようなものは見つからなかった。

 話をするまでにこれほど待ったことはない。宮園は味わったことのない疲労感に襲われた。

 話をする余力は残っているが、もう会話に集中できる状況ではなかった。


「ところで宮園、この教室にはあと二人暗殺者がいるわけだけど、特待Aクラス一人、Aクラス一人、Bクラス一人、Cクラス一人っていう配分。他の教室も似たような振り分け。なぜだと思う」


「一つのクラスに強さを傾けないように、かな?」


「じゃあなぜ傾けたくないと思う」


「それは……なんで?」


 答えが出ず、聞き返す。

 疲労感も相まって頭が働いていないというのもある。だがそれ以上に宮園が速水ほどの頭脳を持っていなかった。


 速水は試すような瞳で宮園を見たが、答えが出そうにないことを悟ると自ら話し始めた。


「競わせようとしているんだよ」


「各教室同士で……ですか!?」


「つまり暗殺教育はまだ終わっていないってこと」

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