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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章後編『速水碧の秘密』
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第三十六話『速水碧は蘇る/始まりの第Ⅵクラス』

 特待Aクラス第四席にして、第Ⅳクラスの暗殺者を率いる氷夜冴。

 彼は宮園を抱き抱えており、目的は不明。

 氷夜の隣には女子生徒が並び、氷夜の腕を掴んでカップルのような振る舞いをする。


 敵なのか、味方なのか、判然としない状況に赤羽は息をのむ。

 戦うとなれば相応の覚悟がいるが、そもそも今の赤羽には体力は残っていなかった。腹の傷が広がっていることや、水中で激しく泳いだことで体力は限界に到達している。


「速水の心臓を戻してやる。それが君たちの望みでもあるだろ」


「お前が速水を助ける目的はなんだ。本当に心臓を戻してくれるのか」


「当然条件付きに決まってる。もしその条件を呑めないのであれば、速水の心臓を戻したりはしない」


「条件?」


 赤羽は依然警戒したまま、氷夜の話に耳を傾ける。

 速水生存の希望は氷夜が握っている。逆らうことはできない。


「俺の条件は、第Ⅵクラスが第Ⅳクラスの言いなりになること」


「随分と大きな代償だな。まだ信用もできないお前に従えというのか」


「嫌なら断ってもいいよ。でも速水の命とそれを天秤にかけた上で、それでも速水が大事でないというのなら仕方ない。心臓は戻らぬままになる」


 赤羽が出す答えはたった一つだ。最初は赤羽も従うつもりだったが、あまりにも氷夜の考えが読めなかった。

 本当に彼を信用してもいいのか、そう心が訴えかける。


 速水と氷夜の間で視線を交錯させ、結論に惑う。


「人ってのは案外丈夫にできている。死後十分以内であれば蘇生可能だ。もちろん、俺にしかできない芸当だけど。心臓の鼓動や顔色から察するに、心臓が抜かれたのは五分前か。心臓を戻すのはすぐ終わるわけじゃないから、もう時間はないよ」


 赤羽は自分だけが従うのであれば迷わず了承しただろう。だが第Ⅵクラス全員であれば迷うのも必然だ。

 速水がこの決断をどういうか、分からない。だが答えを出す時間は刻々と迫っている。

 赤羽は答えを捻り出した。


「分かった。第Ⅵクラスは第Ⅳクラスに従う」


「オーケー。じゃあ心臓は戻してあげる。吹雪、速やかに用意を」


「待ってました」


 吹雪と呼ばれた女子生徒は、背負っていたリュックから大きな布と折り畳み式棒を四本取り出すと、速水を囲むようにして配置した。パーケーションのように視界を遮る。

 その中へ氷夜と女子生徒が入っていく。


「中は覗いちゃ駄目だからね。男の子はラッキーチャンスを逃すけど我慢してね」


 吹雪の冗談が場をわずかに和ませる。赤羽と漆原は手術が終わるのをただ待つ。

 五分ほどで終わるだろうかと待っていると、意外にもわずか一分ほどで吹雪が顔を出す。


「一命は取り留めた。心臓も正常に動いている。つまり──速水碧は蘇った」


 手術が終わり、赤羽と漆原はホッと息を吐いて安堵する。

 氷夜はしばらく間を置いてからパーティションを出る。表情はどこか優れない。


「何かあったのか?」


 一命は取り留めた。だがそれ以上のことで何か異常が生じているのではないか、赤羽の脳裏を疑念が過る。


「俺は君らの先ほどまでの話を聞いていた。だからこそ違和感なんだよ」


 氷夜が言っていることは、有栖川の遺言のことだ。

 心臓の記憶を呼び覚ます、または心臓のない人間の創造について。


「速水碧は心臓を失った間、死にかけていた。もし俺が処置を施していなければ確実に死んでいた」


 漆原の話では、速水は心臓にまつわる実験の被験者リストに名前が載っている。速水は心臓に何らかの技術が施されている可能性が高い。

 氷夜の話では速水碧は心臓がない状態で死にかけた。それが意味するのは、少なくとも速水は心臓のない人間の創造、その被験者ではないこと。またはその失敗作であること。


「それでも速水が狙われたということは、速水の中にある心臓が目当てだったんだろう」


「有栖川先輩ですか」


「そもそも有栖川がある日突然暗殺学園に反逆を企てるなんて無理な話だ。この学園では洗脳教育が施され、思考を徹底的に束縛される」


 暗殺学園が未だ世間に存在が露呈していないのも、そこの働きが大きいのだろう。


「つまり第三者から思考を吹き込まれた可能性が高い。そんな人物が一度で反逆をやめるというのも考えにくい。また誰かを使って暗殺学園を壊そうとするかもしれない。今度はどんな手を使うか分からない」


 氷夜は危惧していた。

 そもそも暗殺学園の存在が露呈してしまえば、そこに在籍していた全ての暗殺者は処分を免れない。つまりは死を意味する。


「君らが有栖川の行動をどう評価しているか分からないが、その第三者がこれ以上反逆のラッパを吹くのを止めたいと思っている」


「暗殺学園が正しいと?」


 氷夜の考えに赤羽は憤慨する。

 氷夜の考えは慕っていた有栖川と相反する思想であり、受け入れがたいものだった。

 彼女の意思を絶やさぬためにも、赤羽は反逆の火を消したくはない。


「そういうわけではない。ただ、やり方は一つじゃないという話だ」


「じゃあどんな方法がある。暗殺学園を終わらせる方法。他国の手を借りず、オレたちより遥かに強い教師陣を殺せる策でもあるって言うの?」


 赤羽は無重力空間を揺らすような静かな声音で囁く。手にはナイフを持っていないが、ナイフの幻覚を見せるほどの殺気を放っている。


「たとえ他国に協力を促したとしても、俺らは確実に殺される。俺らが禁断の存在だから」


 全身に冷気を纏っているような冷静さで言葉を返す氷夜。


「暗殺学園を滅ぼすのは命懸け。命を失って全てを終わらせられるのなら本望」


「お前の願望を押しつけるなよ。いや、有栖川の願いか。君は誰かの願いに染まってしまっていることに気付いた方がいい」


「有栖川の願いはオレの願いでもある」


「自分で言っていて気付かないか。だとすれば──」


「──もうやめにしよう。これ以上は議論のしようがない」


 間に入って止めたのは幽だ。

 これまで近くにいたが気配を消し、事の一部始終を見ていた。


 赤羽は隠し持っていたナイフを取り出し、幽に向ける。


「何のつもりだ。速水を奪いに来たのか」


「いいや、もうその心意気も消えた」


「は……っ?」


 意気消沈した幽。そこに最初ほどの威勢はなかった。

 まるで脱け殻となった幽を見て、強く握り締め、突き出したナイフを腕とともに落とす。


「それより聞きたいことがある」


 気付けば赤羽と氷夜の熱も冷めていた。


「お前らが持ってきた宮園潮の死体。見た限り、傷口は塞がっていた。それはどういうことだ」


 宮園は赤羽によって心臓を貫かれた。生きているはずがない。

 しかし傷口は塞がれ、治療されたような痕跡が見受けられる。


「俺は死後十分以内であれば蘇生ができる。もちろん条件はあるが、幸い宮園の心臓を貫いた弾丸は貫通し、綺麗な傷跡だったため、一分もあれば治療できた」


 プールサイドで目を閉じて眠っている宮園。一見死体のようにも見えるが、胸もとがわずかに収縮と膨張を繰り返すのを見て生きているのを確信する。


「なあ氷夜、お前はどうして優しくする?」


 幽のふとした問いかけ。

 暗殺学園では強者のみが生き残る実力世界。他人を蹴落としても進まなければいけない状況に陥ることもある。

 だが氷夜は宮園と速水を助けた。


 暗殺者らしくない振る舞いに幽は困惑していた。


「優しくしているわけじゃない。俺は俺の正義を貫くだけだよ。吹雪に会った時から、そう決めている」


 氷夜の傍らに立つ吹雪はそっと微笑む。

 二人の間にどのような関係性があるか、気になりはするが、


「お前らもいつか自分の人生を変える何かを見つける。俺は早くそれを見つけただけだ。君らもいつか来るさ」


 氷夜が言っていることは今の幽には難しいことだった。暗殺学園という閉塞的な場所では、得られる情報が限られる。

 だが高校になって少しずつ他者との関わりが増える。そこで何を思うのか、それを氷夜は重視している。


「それに、この判断は正しかったんだろ。幽」


「あ、ああ」


「宮園の蘇生を終えた後、鳳凛香に会った。彼女から聞いた話とここで見聞きした情報とで大体の予想はつく。──速水は宮園の死によって心臓が刺激された」


 氷夜の推測は当たっていた。幽の反応で確信したのか、話を続ける。


「結局宮園を蘇生させなければ速水の心臓が目覚めるかもしれないってことだろ。理由は分からないが」


「詳細は分からない。そうなったのは事実だ。つまり宮園の生存は速水にとって大きな働きをしている」


 全員が沈黙する。

 速水と宮園の存在がどれほど重要なのかを理解したから。

 その上で全員が口を閉ざした。


「幽、お前は有栖川の復活はもういいのか?」


「今は思考が上手く回らない。だが少し落ち着いた後であれば、またアリスの復活を目論むかもしれない」


「…………」


「だが、消息を絶ったあの人物が接触してこないことにはアリスの復活はない。だから、今は第Ⅵクラスの暗殺者として速水碧という人物を知ってみようと思う」


 幽は迷っている。

 様々な思考が渦を巻き、一つの考えに停泊できない思考状態にある。

 そこから実現不可能なことを消していき、実現可能なことを答えにした。


「赤羽は?」


 氷夜が問う。

 宮園を殺した赤羽がどのような考えを持つのか、氷夜は気になっていた。


「オレはもう迷わない。これからは二人を守る」


 宮園を殺した瞬間、赤羽には強い後悔が残った。

 それが赤羽の迷いを払拭した。


「じゃあ決まりだ。これから第Ⅵクラスは生まれ変わる。速水碧と宮園潮を守るために」


 氷夜が手を叩き、二人の明確になった意志から結論を出す。

 赤羽と幽は目を合わせるが、言葉は交わさなかった。

 一度敵対し合った二人だ。簡単に関係を良好にさせることは難しい。


「第Ⅵクラスには強くなってもらわなければ困る。そうでなくては利用できないからな」


 氷夜はそう言うが、赤羽は気になっていた。

 氷夜は自分たちを利用するために強くしたいのか。

 本当は違う目的があるのではないか、と。


 実際のところは分からない。

 だが今は感謝するだけだ。

 一度掴んでしまえば逃れられない後悔から救ってくれたのだから。


 しばらくして、速水と宮園は旧校舎の保健室に運び込まれた。



 ♡♡♡♡



 長い眠りだったように思う。それはまるで世界が愛を知らなかったように。


 私──速水碧は亡霊だ。

 私は誰かの心臓で生きている。

 生きていると言っても良いのだろうか。

 これまで私は誰として生きていたのだろう。

 この人格も、この思考回路も、全て心臓のものかもしれないというのに。


 私は自分を知らない。

 私の慎重さは誰のものだろうか。


 いつも心臓は泣いている。

 あいつとの接触が心臓を刺激する。

 心臓にとってあいつは特別な存在だったんだと、私は激しい痛みとともに痛感した。


 心臓は生きたいと叫んでいる。

 それでも私はこの身体を明け渡す日は遠いらしい。

 一度死にかけたはずの私は、誰かの手によって現世に戻る。


 ごめんね心臓。

 私はまだ生きたいらしい。

 死んだ瞬間に後悔が募った。

 自分でも気付かぬ内に、私はあいつらに情とやらを抱いていたんだ。


 私の命が尽きるまで、心臓を鼓動し続ける。

 だから今はどうか、待っていてほしい。


 心臓が大切に思う誰かを守るから。

 だから今はどうか、託していてほしい。


 ──行ってくるね、心臓。



 ♡♡♡♡



 暗い一室のベッドで速水は目覚めた。

 起きてすぐ、自分の胸もとに手を伸ばす。空いていたはずの穴は塞がり、指が肌に触れる。


「冷たいな……」


 雪に触れたような感触がある。


 速水は自分がどのような状況にさ迷ったのか、限られた情報から推測する。恐ろしいことに、その推測の九割が的中していた。

 その事を速水自身は知るよしもないが、彼女にとってそれはどうでもいいことだった。


 彼女が大事に思うのは残りの一割。


 自分の状況を確認したところで周囲を見渡す。

 見覚えがあった。そこは旧校舎地下にある保健室だ。

 隣に置かれたベッドには女子生徒が眠っている。一見宮園にも見えるが、そんなはずはないと視線を逸らす。


 速水はため息をつく。

 あまりにも宮園に似ている女子生徒を見て、彼女との日常がリフレインする。


「…………んっ」


 隣で眠る女子生徒の身体が動く。小さくあくびをして顔を速水に向けた。

 速水の時間は彼女を見た瞬間に止まった。

 その存在を失えば悲しくなるほど、彼女は大切な存在だった。失いたくなかったんだと、心が叫んでいる。


 普段は感情の起伏の小さい速水。だが今回だけは感情を激しく動かし、その女子生徒に抱きついた。

 眠っていた女子生徒は奇襲でも受けたのかと気が動転する。だが、


「潮、潮、潮、潮──」


 忘れもしない声に何度も名前を呼ばれ、温もりの正体を理解した。

 触れられた手に指を伸ばし、温もりを確認する。


「ああ、私は……生きているんだね」


 涙が止まらない。

 喜びが溢れ出す。

 とめどない感情に全身が震える。


 最初は死後の世界だと思っていた。だがここは温かく、心地いい気分を感じる場所だ。

 いつまでもいたいと思えるような心休まる場所。彼女の隣には自分がいたいと叫んだ。


「夢じゃないんだよね」


「心臓の鼓動が聞こえる。脈拍が分かる。血が全身に流れるのを感じる。私たちは生きている。生きているよ」


 お互いの身体に密着し、互いの身体を肌で感じる。

 一年ぶりにも思える再会に心を踊らせながら、しばらくそうして時を過ごした。


 長い沈黙だった。気まずさはなく、この時間をいつまでも永遠に感じた。


 しばらく抱き合い、熱を感じ合った。

 速水は宮園の顎をくいっと上げ、自分の視線と合わせる。


「どうして一人で行った」


 第Ⅴクラスと戦う直前、八神のところへ宮園は速水に変装して一人で向かった。

 結果、宮園は赤羽の銃弾に沈んだ。

 速水は怒りを含んだ表情で宮園を見る。


「私は間違えた。このままずっとあなたに任せていたら、私は一生愚者のままだ」


 宮園の中には第Ⅵクラスの教室での出来事が思い出された。

 クラス中からバッシングを受け、それでも速水は表情一つ変えなかった。

 本当は傷ついていたはずだ。宮園は速水が背負うものを少しでも自分が負いたかった。償いの意もあったが、それ以上に自分も並びたかった。


 たとえ特待AクラスとAクラスの実力差があるとしても、彼女の支えとなりたいから。


「死んでごめんね。私も速水みたいにできると思ったんだよ。まだ遠かったみたいだけど……」


 宮園は気持ちの九割を伝えた。だが残り一割、それを伝えるべきか悩んだから言葉にはしなかった。

 言わない気持ちを速水は表情で分かっている。

 速水自身も言うべきか迷ったが、言葉にすることを選んだ。


「私の心はあの瞬間──クラスから非難された時──に折れていたよ」


「…………」


「潮が私を心から心配してくれたことは本当に嬉しい。私はそんな人物になれていたんだって思うと、心の底から嬉しい」


 速水も不安だった。

 暗殺者たるもの、ポーカーフェイスは当たり前。

 速水はこれまで宮園に本当の気持ちは伝えていなかった。


 喜びも、悲しみも。


 それは暗殺者というにはあまりにも情けなく、だが友達というにはあまりにも相応しいことだった。


「だからこれからはもっと話をしよう。落ち込んだら励まして、嬉しかったら共有し合って、悲しかったら寄り添って。そうやって私たちは友達をやろう。世間の友達がどんな関係であろうと構わない。私たちは私たちが思う友達で精一杯生きよう」


 速水は宮園に手を伸ばす。


「やっぱ碧は憧憬だ。だからあなたに追いつきたい。友達として私は碧に挑むよ」


「さすが潮は元気だな。だからあなたと逢えて良かった。友達として私は潮を守るよ」


「「約束だよ」」


 保健室のベッドで小指を重ね合わせる二人。

 交じり合う小指は一生離さないと誓う決意を感じさせ、小指を起点に友情の花が咲いたように思わせる。


 固い約束を交わし、次のステージへ。

 まだ暗殺は終わらない。



 ♤♤♤♤



 第Ⅴクラスの生徒が集う新校舎に隣接する体育館。そこへ四人の生徒が向かっていた。

 遊歩道を歩くように軽やかに、バージンロードを歩くように優雅に、全員が水鉄砲を持って体育館に突撃する。

 第Ⅴクラスの生徒は突然の来訪者に固まる。


「何だお前らは……っ!?」


 第Ⅴクラスが一堂に声に出し、静まり返る。


「休む暇があると思っているのか。戦闘の最中だ。気を緩めていると第Ⅵクラスが殺しに来るぞ」


「一人残らずびしょ濡れだ」


 先頭を歩く速水は恐ろしい形相で挑発し、横に構える宮園は水鉄砲を向けて威圧する。


「何だお前らは。たった四人で俺たちを倒すつもりか」

「数が違うんだよ数が」

「圧倒的な水量でコールドスリープさせてやるよ」


 第Ⅴクラスは水鉄砲を構え、対峙する速水らに備える。

 三十人以上はいる第Ⅴクラスの生徒たち。だが速水らは脅えることなく、意気揚々と足を踏み出す。


「本気で勝てると思っているのか。であれば現実を見せてやる」


 速水は引き金を人差し指に通し、くるりと回転させ、


「時短で潰せ」


 速水の叫びとともに宮園、赤羽、幽が水鉄砲を構えて第Ⅴクラスに突撃する。


「迎え撃つぞ」


 第Ⅴクラスは圧倒的人数で水鉄砲を放つ。

 雨のように放たれる水。だが速水らは水に一切触れることなく回避し、距離を縮める。


「あり得ないだろ……」


 呆然とする第Ⅴクラスへ容赦なく水が浴びせられる。


 幽は気配を消し、水鉄砲の銃口を向けられることなく相手をびしょ濡れにする。

 赤羽は射撃の精密さで一人一人正確に水に染めていく。

 宮園は時折八神の声を真似し、怒声を放つことで生徒を怯ませ、その一瞬を水鉄砲で狙う。

 速水はただ素早く敵を狩り、駆る。


 速水はその奥で茫然自失となっている八神の前まで突き進む。

 八神は速水を見て、目を疑った。目の前で死んだはずの人物が生き返ったのだから。


「どういうことだ……。お前は死んだはずじゃ……」


「私を殺せると本気で思っているのか。哀れで、愚かで、弱いな」


 八神は続く言葉もなく固まっている。


「私はお前程度には殺せないさ。分かったらとっとと上の空から地に降りろ」


 速水は水鉄砲の銃口を八神に向ける。

 八神は水鉄砲を持たず、歯向かう意欲さえない。


「今度こそ私を殺してみろ。私はいつでも待っている」


「……ふっ。そうか」


 水に濡らされ、八神は微笑む。

 速水はそれ以上言葉を掛けず、去っていく。


 第ⅤクラスVS第Ⅵクラスの決闘。

 八神の敗北により、第Ⅵクラスは勝利した。

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