第三十三話『赤羽クロウVS幽仄』
赤羽の背後で爆炎が立つ。両手には爆弾と思われる球体が握られ、幽には緊張感が走る。
先ほど扉を爆発したものと同等の威力はあるだろうと考えると、その一つで大きな有利を得ている。
「面倒なもの持ってるね。卑怯だと思わない?」
「こっちは深傷の身でここまで来たんだ。一歩動くだけでも吐きそうなんだよ」
赤羽は腹部を押さえ、顔を歪める。
漆原の簡易的な施しにより、包帯は巻かれ、傷は強引に狭まった。だが動けば包帯に血が染みる上、痛みも消えているわけじゃない。
爆弾一つでも赤羽に天秤が傾くことはない。それほどに戦況は幽に分があった。
「それに……お前にはオレの知らない技がある。それを見切れない限り、勝敗は分からねえだろ」
痛みに耐え、衝撃の真実を知って動揺をしていながら、この場所に彼は現れた。
「それ自分で言うんだ。見切れてるとでも言えば戦況は変わってたかもよ」
「オレは嘘は嫌いなんだよ」
「──へえ」
幽はわずかに顔を歪める。
深いため息をつき、視線を落とす。爆発によって亀裂が入った床を見下ろし、頭をかく。
「まあ、そうだよな。しかしまあ、一度敗北した相手に負傷した状態でリベンジするか」
「勝てる見込みがあるから来たんだよ」
「じゃあ来い。その根性を丸ごとぶっ潰してやる」
瓦礫と歪んだ扉の上に立つ赤羽は幽を見下ろし、今ようやく立ち上がった幽は赤羽を見上げる。
お互いの視線が火花を散らす。
先に仕掛けたのは赤羽だった。右手に持った爆弾を投げると見せ掛け、左手に持つ爆弾を足下へ落とす。瞬間に左手に拳銃を構え、幽目掛けて放つ。
わずか一秒でその芸当をこなした。圧巻の素早さに幽は驚くが、間もなく赤羽の銃口は火花を上げる。
弾丸は幽の右腕をわずかにかするだけ。致命傷には程遠い。
「射撃成績は特待Aクラスにも引けを取らないって話だけど、足下にも及ばないな」
幽は両手に握ったナイフを振るい、赤羽に接近する。赤羽も察知したのか、足首と足の甲で挟んだ爆弾を幽に蹴り飛ばす。
「くっ……」
前方に疾走していた幽だったが、突然の方向転換を迫られる。爆弾が迫る危機的状況に陥るが、右足で床を蹴り、左に飛んで爆弾を回避した。それによって床に体勢を崩して転がる。
蹴り飛ばされた爆弾は床に数度バウンドし、しばらく間が空いてから爆発した。爆弾の威力は壁にクレーターを作るほど強力なものだ。
だがここの壁はここへ到達するまでにある壁や扉よりも強固に造られているため、爆弾一つでは簡単に穴は空かない。実際、できているクレーターは薄く壁を剥がすだけだった。
赤羽は無防備な状態の幽を目に止めず、壁を凝視していた。その間に幽は立ち上がり、体勢を整えてしまう。
「今は命の奪い合いの最中だ。よそ見は禁物だろ」
「弱すぎて気付かなかった。Cクラス末席」
幽はわずかに口に怒りを露にするが、追及はしない。
彼はニヤリと笑みを浮かべると、
「赤羽、最初の一撃で見破れなかった時点でお前の敗北は決まっている」
「何をいっ……」
まただ。
赤羽は確かに幽仄という人物を見ていたはずだ。視界に収めていたはずだ。
だがそれらの事実が歪曲したかのように、幽の姿が視界に捉えられなくなった。
「どういうことだ……っ」
視線を右往左往するが、どこを見ても幽の姿がない。透明人間にでもなったのか、瞬間移動でもしたのか。
脳が整理できない事象に目を疑った。理解するよりも速く、右に気配を感じる。呆然と意識を四方に向けていた赤羽はそれを防ぐ余裕がなかった。
再び、同じ光景が起こった。赤羽の腹部を幽のナイフが突き刺した。
「見抜けなかったな。赤羽」
「……なんで!?」
鮮血が舞い、嗚咽がなびく。
赤羽は脱力し、足から床に崩れる。
「なぜ勝てると思ったか理解できないな。それより聞きたいことがあるんだ。まだ殺してないんだから口を開けよ」
床に倒れ伏す赤羽を見下しつつ、血のついたナイフを指でなぞる。
赤羽はもう立てないと確信しているからこその慢心。幽は倒れる赤羽の背後に回り込む。
「お前は有栖川麗を先輩と呼んでるよね。その上で聞くけど、先輩に会いに来たってどういう意味だい」
最初に赤羽が飛び込んできた際に言った言葉。それについて幽は引っ掛かっていた。
「速水碧を拐った際、その訳を知らなかったはずだ。だが今は知っているように思える。誰がそれを教えた?」
じっと凝視し、問い質す。
赤羽は言葉を発していない。だがボソボソと声が聞こえる。不思議に思って赤羽の顔を覗き込む。
赤羽の口もとにはトランシーバーが転がっている。
「トランシーバー!? 何のつもりだ!?」
幽は赤羽が入ってきた破通路から誰かが来るのではないかと疑い、視線を背後に向けた。だが気配はなく、来る様子はない。
では目的は何か。トランシーバーでどこにいる誰と連絡をとっているのか。
「一分後、今言った通りに始めてくれ」




