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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第二十七話『幽仄は知っている』

 速水碧の正体について。

 幽仄が知っている。


「ーー心臓の在処を知っているか」



 旧校舎三階に集まった三人の暗殺者ーー赤羽、速水、幽。

 まるで一瞬だけ意識が切り取られたように、幽は何の違和感もなくそこにいた。

 誰も彼の足音を聞かず、気配も分からず、喋っていることに最初の数秒気付かないほどの隠密さ。


「やっほー。幽仄だよ」


 暗さもあり、明るさもあるような、不思議な雰囲気を醸し出している。

 掴み所がない、とでも表現すればいいだろうか。謎多き存在感がある。


「赤羽、久しぶりだね」


「…………っ!?」


 赤羽は彼を見るなり、最初は戸惑った。

 Cクラス末席は何の能力も持たないはずの最弱だった。常に試験では最下位を取り続け、クラスの誰とも関わらなかった。


 それらの評価を覆すように、彼は音もなくこの教室に現れた。もはや超能力の域に達していると言っても過言ではない。

 そんな人物が本当にCクラス末席の能力しか持っていなかったのか。


 赤羽の額から汗が流れる。

 実力の程が鮮明に理解できないからこそ生じるギャップ。それが赤羽の生存本能に訴えかける。

 目の前にいるのは猛獣であると。


「脅えないでよ。お前らを殺しに来たわけじゃないんだし」


 赤羽が脅えていることは目に見えて理解できた。そのことに気付いたのは両手両足が身震いを起こしてから数分後のことだった。


「とりあえず速水を回収しないと。でも、この精神状態じゃ最悪壊れているかもしれないな」


 赤羽と幽が話をしている間、速水はしゃがみこんで一言も発さなかった。

 悪夢にうなされているように頭を押さえている。

 事実、速水の脳には膨大な負荷がかかっていた。それは速水自身を深く蝕み、意識を朦朧とさせる記憶だった。


「幽、お前の目的はなんだ。今回の決闘に参加はしていないはずだろ」


「いい機会だったんだよ。お前ら第Ⅴクラス第Ⅵクラスが勝手に争っててくれれば、速水の回収を実行できる。八神は酷い奴だからな、案の定、宮園潮を殺してくれた。それが速水の心臓を呼び覚ました」


「……はっ!?」


 赤羽は呆然としていた。

 幽が言っている言葉の意味が上手く咀嚼できない。噛み切れないガムを食べているような気持ち悪さ。


「というわけで速水碧はもらっていくよ。お前は速水を殺したかったみたいだし、この展開は好都合でしょ」


 幽は赤羽の横を素通りし、速水へと足を伸ばした。

 刹那、赤羽の脳裏を過るある記憶。


(例えば有栖川先輩。オレが今速水と同じ状況だったら、あなたはオレを見捨てたでしょうか)


 赤羽の気持ちは曖昧に揺れていた。

 頭を抱えてしゃがみこむ速水を不憫に思い、速水を拐おうとしている幽を不快さを抱いた。


 漠然と、幽の行動を悪を認識した。

 守るべき存在を見定める。


 幽が速水を拐った先に待っているのは何か。自分が下してしまった判断を思い返す。

 引き金を引いた瞬間、心臓を撃ち抜いた瞬間、何を思ったか。

 それが答えだった。


 幽が赤羽の前を完全に通りすぎる寸前、赤羽の手は動いていた。震えていたはずの右手は幽を捉え、銃口を幽の側頭部に向ける。

 幽は足を止め、頭を動かさず、目線だけを赤羽に向けた。


「何のつもりだ?」


「このまま動かなかったら、また同じことを繰り返す」


 赤羽は有栖川を救えなかったことをずっと悔やんでいた。

 毎晩その苦しみが蘇り、いつまでも彼自身を鎖のように縛り上げている。

 その苦しみが今、幽に牙を向く。


「オレは、今度こそ守りたい人を守るべきだと思ったんだ。だから幽、速水碧は渡さない」


 もう震えはなかった。

 あったのは、今度こそ守り通すという闘志だけ。


「へぇ……」


 幽は目を閉じる。

 直後、水流が穴に向かって流れるように、鮮やかに、そして素早く、幽の手にいつの間にか握られていたナイフが振るわれる。

 空間を揺らすような金属音が響く。幽のナイフは拳銃によって防がれた。


「邪魔をするなら普通に殺す」


「うるせえぞCクラス末席。お前の刃じゃオレには届かない」


 旧校舎三階にて、赤羽と幽が激しくぶつかり合う。

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