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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第二十五話『後悔を超えたかったから』

 戦いが始まる数分前、宮園は速水と作戦を確認していた。

 速水は気丈に振る舞ってはいたものの、笑顔が歪んでいるのを宮園は分かっている。


 宮園は昨夜から、物思いに耽っていた。


 あの時、どうして速水に手を伸ばさなかったのか、と。


 ずっと自分を恨んでいる。憎んでいる。

 全てを速水に任せてしまった。それが間違いだと、どうして気付かなかったのだろう。


「これで作戦は以上だ。あとは昨夜みっちり仕込んだ技を活かせるかどうかだ」


「はい……」


 私は力のない返事をした。


「不安か?」


 速水は見抜いていた。

 だが見抜いていたのはいつもより元気がない、という点であって、その理由ではない。


「私は、迷っている」


「奇遇だな。私もだ」


「そう……」


 会話はそれきり途切れた。

 互いの胸の内は、よく似ている。


「じゃあ私は例の場所に待機しておくよ。あ、その前に、鳳さんから伝言を頼まれてたんだ」


 宮園は唾をのみ、一瞬の間を開け、


「旧校舎地下に来てほしいって」


 嘘をついた。

 速水を戦いから遠ざけるような、真っ赤な嘘を。

 速水は宮園の言葉を信じ、旧校舎地下に向かった。その間、宮園は速水に変装し、校庭で八神と接触した。

 癖や喋り方、表面的なことを側で見てきた。演じることは簡単だった。


 八神は変装を見抜けなかった。

 だからこそ、赤羽の銃弾が胸を射抜いたことに驚きを隠せなかった。


「こんな簡単に死ぬはずが……っ」


 八神は呆然と立ち尽くしていた。

 この計画は練られていた。だが成功したことへの驚きが、想定を遥かに凌駕した。


 目の前でむなしく倒れていく彼女の姿が、やけに悲しく感じられた。


「これで少しは超えられたかな……」


 生と死の間際で、宮園潮は嘆いた。


(ダメだよ速水。私の中にある悲しみは消えてくれないみたいだ)


 痛みに支配される世界で聞いたのは、涙が落ちる音だった。

 この行為で自分の中にあるモヤモヤは消えると信じていた。だがこの行為の結果にあったのは似たような感情だった。


(私はまた、一人の世界に落ちていく)


 死神が鎌を振り下ろす風切り音とともに、


(もう会えなくなるね。速水)


 宮園はそっと目を閉じた。



 ♤



 校庭で血まみれになって倒れている少女がいた。

 赤羽はスコープで彼女が死んだことを確認すると、今まで味わったことのない震えに支配されていた。


「オレは、殺したのか……」


 手のひらいっぱいの後悔を抱える。

 本当に殺すべきだったのか、何度も脳裏を過る


 無数の感情が渦巻き、心をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


 正気が保てない。

 モヤモヤが心の隙間という隙間に入り込む。


 その渦中、足音を聞いた。

 足音は旧校舎三階に息を潜めていた赤羽のもとに向かっている。


「宮園か……?」


 息を殺し、教卓の下に隠れる。スナイパーライフルを下ろし、腰から拳銃を取り出す。入っているのは実弾。

 足音は赤羽のいる教室で止まる。

 唾は喉を上手く通らず、発汗で拳銃がびしょびしょになっている。


 ゆっくりと扉が開かれる。

 足音の主に見つからないよう、そっと顔を出す。瞬間、何かが発光した。

 反射的に目を閉じ、急いで机の中に隠れる。わずかに物音が生じ、冷や汗をかいて焦る。


 足音は机に向かい、すぐそばで停止した。

 心臓は時限爆弾のようにバクバクと爆音を奏でる。


 足が停止したかと思うと、顔が机の中に降りていく。輪郭が見え、次に口、徐々に鼻が見えてくる。

 拳銃を構えようにも、速水を殺した時の感触が手のひらに泥のように残っている。それが指を硬直させる。


 だが、足音の正体が誰か知った瞬間、赤羽の全身を電気が走った。

 吐き気のような気持ち悪さ。


「赤羽か」


「速水碧。どうしてお前がここにいる」


 必然的に、旧校舎にいた赤羽は速水に会った。

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