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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第二十三話『前夜③』

 ──速水との特訓を終えた宮園潮は自室のベッドで仰向けになり、放課後のことを思い出す──


 放課後、第Ⅴクラスが宣戦布告をした後、第Ⅵクラスでは話し合いが行われていた。だが野次が右往左往し、教室はまとまらない。

 宮園は速水の側で状況を見計らっていた。


「速水。やっぱり私が前に出るよ」


 自分がクラスメートを率い、混沌とした状況に終止符を打とうとしていた。


「駄目だ。今回の話はただでさえデリケートなんだ。発言は控えめにした方がいい」


「でも……」


「最悪の場合は私に任せろ。なんてったって私は最強だからな」


 笑顔を向けられた宮園は指示に従う。

 いつだって速水は頼れる人だから。


「任せるね」


 彼女の発言はいつだって自信から来るものだと思っていた。慎重さ故に、確信のない発言はしないと評価していた。

 宮園は速水に促されるように席に着いた。

 大丈夫だと過信し、何をするでもなく、ただ待った。


 しばらくしても言い争いは止まらない。だが会議からクラス委員が扉を開けた瞬間、生徒は一様に口を閉じた。


「話は聞いている。第Ⅴクラスがうちにケンカ売ってきたんだよねー」


 委員長の恋沼(こいぬま)は教壇に立ち、声を上げる。

 マニキュアやピアスをし、金髪に染めた女子生徒。ギャルっぽく、口調は荒く、強い。


「あそこのクラスは全員気性が荒くて最悪。特に委員長を務めている八神って奴が、クラス全員とケンカをして圧倒したらしい」


 全員がこの噂を知っている。

 それほど八神は全生徒から恐れられている。


「だから誰も八神とは争いたくない。第Ⅴクラスとは争いたくない。そんな願いを壊すように、うちらにマジヤバめの状況が来た」


 全員の表情が曇る。

 勝負内容が水鉄砲とはいえ、反則をする恐れがある。怪我人が出ないという保証もない。


「でもさ、気になることがあるんだよね」


 恋沼の視線が速水を捉える。


「うちらがケンカを売られたのってあんたのせいじゃないの」


 恋沼の指先が指し示すのは、最後尾に席を置く速水だった。


「速水、どうして第Ⅴクラスがあんたに突っかかってきたわけ。うちにはよく分かんないから説明してくれるとありがたいんだけど」


 全員の視線が速水に集まる。

 空腹の際に食料を見つけたように、食い入る瞳で全員が速水を見る。

 依然として速水は平静を保ち、


「おそらくは持久走が原因だろう。私の記録は八神よりも上回っていた。だから八神は私を懲らしめようとしている」


 八神の記録についてはあらかじめ収集していた。体力測定の記録は全生徒把握している。

 それが功を奏した。


「だったら八神は一騎討ちを選ぶんじゃないの」


「八神はせこい手を好むからだと思う。私をある程度警戒しているのかもしれない。だからだ」


 恋沼は眉をひそめた。


「何を……言っている? 憶測にしては憶測が過ぎる。あんた、そこまでして何を隠そうとしている」


 速水の台詞には欠落があった。暗殺学園時代、速水は八神を知った。だからこそ八神について、語ることができる。

 だが、それを他人に話した場合、違和感が生じるのは避けられない。なぜなら暗殺学園時代のことを知っているのは限られているから。

 速水は生じる齟齬に気付いた。だからこそ訂正を試みようと口を開いた。


「隠し事はない。私は八神を以前から知っているから少し分かるというだけの話」


 決して冷静さを崩さず、穏やかに。

 だがそれが逆効果だった。


「嘘つくな。どうせ八神にちょっかいでもかけたんでしょ。でなきゃこんなことにはなってない」


 ある一人の発言が、熱に油を注いだ。

 瞬く間にクラス中のヘイトが速水に向けられる。


「迷惑かけるなら学校来るな」

「一人で謝ってきてよ」

「全部お前が悪いんだろ」


 次々と浴びせられる罵詈雑言。止まることのない嵐は吹き荒れ、教室を一瞬で熱で包んだ。

 速水が誤解を解こうと口を開いたところで、誰も耳を傾けない。そもそも言葉を発する間さえない。


 生け贄は一人いればいい。それだけで全てが丸く収まる。


「全てはお前がまいた種なんだろ。だったらクラスを巻き込むな」


 恋沼の一言が、今回の元凶は速水であると確定させた。

 クラスのヘイトは揺るがない。


「…………」


 とうとう速水は口を閉じた。そして微動だにしない。音が途絶えた。


 宮園はおそるおそる速水を見る。


「…………」


 すぐに目を逸らす。


 宮園は恐怖で霞んで動けなかった。

 死とはまた別の恐怖。それが宮園の足に鎖のように絡みつき、拘束している。

 目を閉じ、時が過ぎるのを待った。


 恋沼は手を上げると、全員が口を閉じる。

 咳払いを一度してみせ、注目を集める。


「ではこうしよう。速水、お前一人で今回の戦いに参加しろ。うちらはあんたがどうなろうと知ったことではない」


 一歩一歩、速水の席へ歩み寄る。速水の顔を覗き込み、睨むように見る。


 宮園からは、恋沼が壁となって速水の表情を窺うことはできない。

 だが、先ほどの表情が脳裏に焼きついている。

 速水が今どんな表情をしていようと、先ほどの表情は消えない。頭から離れない。


「分かった。クラスは巻き込まない」


 落ち着いた様子で答える。

 声に元気は失われているように思える。


 宮園の胸は強く締め付けられる。


 ──どうしてだろう。こんなにも苦しいのは

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