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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第二十二話『前夜②』

 ーー旧校舎地下一階にあるCクラスの教室、ある机に尻を預け、握りしめる弾丸を眺める赤羽クロウーー


 弾丸を見つめる瞳は潤んでいる。


「オレは今……正しい道を進めているだろうか。先輩、あなたに誇れる道に進んでいるでしょうか」


 赤羽クロウは迷っていた。

 歪に欠けた月を見て、ある人物を思い出す。


「先輩。オレはあなたの願いを叶えたい。ですが、オレには特待Aクラス末席にも勝つ力がなかった」


 赤羽は体力測定で速水に連敗した。一度や二度の敗北ではない。積み上げた多くの策を、圧倒的な慎重で打ち破った。

 そのどの暗殺も、あと一歩だったところには到達していない。

 全てが見透かされていた。まるで未来予知でもできるかのように。


 赤羽にとって、速水との戦いは超能力者と戦っている気分だった。

 簡潔に言って、勝つビジョンが見えない。

 根本的なところで圧倒的な差が存在しているような、どう足掻いても敵わないと感じさせる強さ。


 赤羽は自信を喪失していた。

 幾度の敗北で、自分の実力の底を見た。


「特待Aクラスは化け物だ」


 半ば諦めていた。

 特待Aクラスには勝てないと思い知った。


 それ故、彼は今回の提案に乗った。


 ある女子生徒が赤羽に持ちかけたこと。


「もし速水を殺せれば、君の願いを何でも一つ叶えてあげるよ。たとえ全ての暗殺者の抹消であろうと」


 全身全霊で喜びを表現することはない。赤羽は素直に喜べなかった。むしろ、正反対の感情が胸を侵す。

 有栖川との約束が果たされるかもしれない。だが、赤羽の心を撫でる謎の感情。


「速水碧……」


 速水に対して抱いている思いがあった。

 敗北したことへの悔しさか、それとも次は倒すという意志か。

 いずれにせよ、再度速水と戦うことに並々ならぬ感情を抱いていたのは確かだ。でなければ、この戦いに迷いなく参戦している。


 赤羽は記憶を遡る。

 自分のこの思いの正体が何か、知りたかった。




 体力測定全ての種目を終えた後、速水は赤羽に接触していた。

 最後の最後、自信をもって仕掛けた暗殺が失敗した。グラウンドに刺さった弾丸を回収中、速水は弾丸を持って近づいた。


「赤羽クロウ。君の暗殺は素晴らしかったよ。危うく死にかけた」


「嘘は分かる」


「本当だ」


「オレの実力じゃ到底届かないことは分かってる。思い知らされた」


 銃弾が折れるほど力強く握り締め、


「オレじゃお前は殺せない」


 吐き出した一言はひどく重く、その言葉が赤羽の中でどれだけ辛いことなのか伝わる。

 空気が重く揺らめき、巨大な鉄球が落ちたようなどよめきが生まれる。


「もうオレは目的がない。生きる意味がない……。だから、オレの前から消えてくれ」


 最初は自信満々に殺意を振り撒いていた相手が、今ではすっかり意気消沈している。

 ダイエット生活最終日のような、無力さと苛立ちだけがあった。


「嫌だよ」


「……は!?」


 赤羽は目を向く。


「私はお前を見捨てない。だってお前、本当は私を殺すのを諦めたくないんだろ」


「は!?」


「もしクラスメートとして協力するのであれば、私はお前を鍛えよう。私が鍛えるからには特待Aクラスに匹敵する実力を有することもできる」


 赤羽は呆気にとられた表情で速水を見る。


「オレはお前を殺そうとしている。どうしてオレに力を貸すような真似をする」


「私はお前を友にしたい」


「……は!?」


「私たちは暗殺者だが、今は高校生として生きている。青春がしたい。そんな時、たくさんの友達がいれば楽しいに決まってる」


 速水は楽しそうに語る。叶うと信じて疑わない、純粋な笑みで。


 暗殺機関に入った以上、幸せな日々を送ることは不可能だ。

 青春とは程遠い場所で生き、生と死の境目も分からなくなるほどの日々を過ごした。

 青い春は遠く、赤いナイフが手もとにある。


「幻想だ。夢物語だ。そんな淡い夢は泡沫とともに消えていく。無理だ。無駄だ。無謀だ。無意味だ」


 赤羽は速水の語ったことを妄言だと言い放った。

 しかし、速水は揺るがない。


「あと六日だ。それまでに私が証明するさ。私たちにも青春は可能だって」




 あの時から、赤羽の心臓の鼓動は不規則なリズムを刻んでいた。幾つもの国の音楽が同時に演奏されるような変則さ。

 赤羽の瞳が捉えているのは一体何だろうか。


「オレは、期待しているのかもしれない。速水碧、彼女はーー」


 速水を有栖川と重ね合わせていた。


「速水、オレはお前を殺す」


 戸惑いはあった。躊躇いはあった。

 だが、背中に熱を感じた瞬間、その全てが殺意に転換した。


 その背後には、翡翠の長髪の女子生徒が。

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