第十三話『Bクラス末席』
第二章、始まります。
眼帯との戦いから一週間が経った。
左足に負った傷は塞がり、一週間ぶりの登校日。制服に着替えて寮を出ると、宮園がうきうきで待っていた。
「ようやく復帰だね」
鞄を両手でぶら下げる姿は、まさしく初デートで彼氏を待つ乙女のようだった。
宮園が笑いかけると速水も笑みを返す。
「この一週間、変化はなかったか?」
速水は一週間機動力を失っていた。そのため情報を得られなかった。
動けない間、宮園が代わりに情報収集を任せていた。
「それがですね……」
「ん?」
宮園の様子がおかしいことに気付き、疑問を抱く。
そわそわし出した宮園を見て、何かあったことを悟る。
「第Ⅵクラスには私と速水の他に二人の暗殺者がいるんですけど……」
「BクラスとCクラスの末席がどうかしたのか」
「実は二人ともかなり危険な人でして……」
「手を焼いているわけか」
宮園の困り顔を見て苦労を垣間見る。
「はい。私ではどう対処して良いか分からず。本当に毎日大変で……。めちゃくちゃしんどいんですよ」
「ま、私に任せておくといい。すぐに解決してやろう」
凛として速水は宣言する。
宮園は速水の凛々しさに全て預けた。
「速水様ああああああ。ようやく、ようやく解放されます」
心から速水の復活に感激し、いざ校舎へ向かう。
寮と校舎を繋ぐ広い渡り廊下。
寮生活をしている生徒が行き交う場所だが、朝練が始まってから数分という時間も相まって、速水と宮園のバージンロードだ。
そこへ割り込むように、一人の男子生徒が対面から歩いてきた。
「あっ……」
宮園はすぐに足を止め、呼応して速水も足を止めた。速水に囁く。
「彼です」
宮園が彼を知っているように、速水も彼を知っている。入学前、自分のクラスに配属された暗殺者の情報を把握していたからだ。
「赤黒い髪、炎のように燃える瞳、全てを格下と見下すような瞳、そして両手に爆弾か」
相手の容姿を一つ一つ確認していく。
彼は足を止め、速水と目を合わせた。
「Bクラス最悪の問題児。素行は悪く、訓練でも手を抜き、他の暗殺者に手を出し、見捨てられた末席ーー赤羽クロウ」
速水は過去にBクラスに在籍していたこともあったため、赤羽は速水のことを知っている。
「CからBに来たと思ったら、そのまま特待Aクラスに上がったんだって。オレさ、そういうエリート嫌いなんだよ」
目は静かに殺気を放っていた。その目は今にも速水を殺したい、そう訴えているようだ。
暴力に飢え、力に飢えた獣の目。
「だから?」
赤羽に臆することなく速水は問いかける。
「オレと戦おうぜ。もちろん、命を賭けたゲームをな」
「お前、面白いな」
「面白い?」
「本気で私に勝てると思っているところが、本当に面白い」
赤羽の眉間に皺が寄る。
怒りを感じていながらも、速水は焦る素振りは見せなかった。むしろ容易い相手だと、見下すように。
「お前、、、」
「一週間チャンスをやる。その内に私を殺してみろ」
「舐めるなよ。それだけの時間があればお前は死ぬ」
「なら、私が勝てばお前には仲間になってもらう。勝つのであれば、恐れることのない条件だろ」
速水は冷静に、表情を一切崩さずに赤羽を煽る。
「後悔するなよ」
赤羽は顔を真っ赤にし、殺意を込めて言った。
「楽しみにしているよ。赤羽クロウ」
そう言って速水は赤羽に堂々と背中を向け、校舎へ向かった。宮園もすかさず追いかける。
あまりにも無防備な背中を向けられ、殺意が膨れ上がる。両手に構えた爆弾を投げたい衝動に駆られ、両手に意識を向けた。
既にその時、爆弾は更に乗ったオムライス二つに変わっていた。まるで飲食店の店員。
再び速水を見ると、両手に持った爆弾でお手玉のように遊んでいた。
「私もやりたいです」
「宮園がやったら落とすだろ」
「落としませんって」
まるで自分が殺されるとも思っていない愉快な会話に、一層怒りが増す。
「殺してやるよ。速水碧」