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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第一章『第Ⅵクラス落とし』
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第十一話『フィナーレ・前編』

 弾丸は確かに速水碧の頭部に直撃した。弾丸が当たったと思われた瞬間、速水はよろけた。

 だがどういうわけか、すぐに走り出した。


 宮園には分からなかった。だが眼帯は目を凝らして速水の頭部の片鱗を覗き見ていた。


「ヘルメット……っ!?」


 眼帯は驚愕した。

 速水は慎重な暗殺者だと、そのような調査結果が出ている。だからといって、ヘルメットを用意するだろうか。

 暗殺者は穏便で迅速な暗殺が求められる。用意が多ければ多いほど迅速は崩され、穏便も難しくなる。

 速水碧はその逆。迅速などとは程遠い、あらゆる警戒をしている。


 煙幕が晴れた時には、既に速水の姿はどこにもなかった。左足が出血しているはずだが、速水が通った道を示すような血の跡はどこにもない。


「あの短時間で止血をしたか。特待Aクラス最低成績って話だったけど…………まあ、逃げ足は速い」


 眼帯は不意に舌打ちした。

 自分ではその意識はなく、舌打ちしたことに気付いてすらいなかった。


「宮園、お前の命に価値はあるか?」


「…………」


「黙っても無駄だ。速水はお前を見捨てない。だからお前の命を利用して誘き出す」


「速水は……私なんか見捨てるはずだ。それほど私は弱いからッ!」


 宮園は後悔していた。

 速水を信じず、目先の恐怖に捕らわれた。速水が信じろと言ってくれたにも関わらず、自分は信じるどころか裏切った。


「安心しろ。すぐに二人であの世に行かせてやるからよ」


「私は……私はああああああ」


 叫びで全身を奮い立たせ、震えた足を大きく振り上げる。


「のろまがっ」


 渾身の一撃が宮園の腹を直撃する。

 宮園が蹴りを入れるまでの約一秒、その間に眼帯の拳は容易に腹を射止めた。

 呼吸ができなくなるほどの衝撃に耐えられなかった。宮園の意識は薄れ、気絶した。


「さて、舞台をセッティングしよう」


 眼帯は速水を仕留め損なったビルの屋上を見上げる。




 ビルの屋上。

 そこに宮園がロープで両腕を縛られ、横たわっていた。ロープは眼帯の右腕に繋がっている。


 目覚めてすぐ、宮園は自分の状況を悟った。

 死の危機が間近に迫っていること、自分は速水を誘き出すために利用されていること。


 左手に持つメガホンを口に当て、眼帯は言った。


「十分以内に屋上に来なければ宮園潮を殺す」


 まるで近くにいるのが分かっているような顔つき。眼帯は速水が来るのを確信している。


「俺様を殺すのもありだが、死ぬ前に飛び降りることくらい造作もない。そうなればお前の仲間は死んじゃうよ」


 宮園はロープで結ばれた先を知り、絶望する。

 完璧に眼帯のペース、フィールドに追い込まれている。たとえ速水が来ても眼帯の罠が速水を追い詰める。


「速水、来ちゃ駄目だ」


 メガホンを通さない声では届かないことは分かっている。それでも明らかに罠と分かっている以上、叫ばずにはいられなかった。


「無駄なことを」


 眼帯は宮園の頭を踏みつける。


「さて、慎重であればこのような事態は想定しているはず。してなきゃ死ぬだけだ」


 眼帯はメガホンを落とし、拳銃に持ち替える。銃口は宮園の頭を狙い、いつでも撃てる準備を整えている。


 宮園は自分の死を覚悟した。そっと目を閉じ、死を待つ。

 視界が消えた。聴覚が研ぎ澄まされた。虫の羽音も聞き逃さない宮園の耳にある音が聞こえる。

 音は近づき、やがて眼帯の足下で音が消えた。


「ん? なんだ?」


 このビルは廃墟となった都市で最も高い。他の建物から狙うためには高すぎる。

 スナイパーライフルでは届かない高さだが、眼帯の足下に弾丸が刺さっていた。

 眼帯は弾丸が飛んできた方角を確認しつつ、拾い上げる。


 弾丸には三と刻まれている。


「三分か」



 ちょうどその時、速水は隣接する高層ビルの屋上にいた。

 スナイパーライフルの銃口が眼帯の立つビルへと天高く向けられている。


「ーーいいや、三秒だ」

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