第十話『お見通し』
速水碧は第Ⅵクラス落としを知っていた。
毎年第Ⅵクラスが何者かによって全滅させられていることを知り、当然自分にも暗殺者が仕向けられると分かっていた。
だからこそ彼女は全てを読んで対策を施した。
速水が宮園と迎えの車を待つ間、メモ帳を使って筆記の会話をしていた。
そこで宮園が眼帯に脅されていること、廃墟となった都市で暗殺が行われること、その正確な位置を知った。
筆談を行ったのは宮園が盗聴器を持たされている可能性があったからだ事実、宮園は盗聴器を持たされていた。
宮園は学校で待機している。
最悪速水が暗殺者の迎撃に失敗したとしても、身の安全は確保される。
速水はここまで読んでいた。
「ーーというのも全て、お見通し」
速水碧の背後、気配もなくその人物は正体を現した。
左目を眼帯で隠した、十歳は上と感じるほどの威圧を持った男。
「その人形、君の動きに糸を通して連動しているんでしょ。だからこそ見破るのは簡単だった。あとは前か後ろ、どっちが本体かって話。それはそこに転がる無様な暗殺者に任せればいい。
おそらく後ろを歩いていたお前の声は録音。糸で繋がっていたのは両腕両足の計四つ。人形が銃を構えた際、お前は建物の影に隠れていた。隠れていた三人の暗殺者の死角で堂々と連動した動きを行い、成功した」
全て男の言っている通りだった。
「だけど俺様の存在には気付いていなかったな。全部丸見えじゃん」
男は笑っていた。
「情けないな。お前じゃ俺様は出し抜けない。出し抜こうとした分、返り討ちに遭うんだよ」
男の横には宮園がいた。首もとにナイフを当てられ、逃げ場を奪われている。
「筆談なんて素人でも考えられるようなことするなよ。君じゃ特待Aクラスの汚点だよ」
そう言って、男は拳銃を速水に向けた。
右手のナイフは宮園へ向け、左手の拳銃は速水に向けている。
二つの命を天秤に吊している状況に、彼は死神のように笑った。
「どの世界も最下位は必要ない。最下位は何もできない負け組だ」
「じゃあよーー」
速水が口を開く。
まるで重火器が火を吹くような重苦しい空気を纏い、言う。
「一位が最下位に負けたら、お前はとんでもない恥さらしになるな。先代Aクラス主席ーー眼帯」
「はぁっ?」
眼帯は表情にはださないものの、動揺した。
自分の情報は教師や生徒に聞いて知ることができるような存在ではない。
暗殺クラスの生徒の情報は厳重に管理され、外部へ一切情報を漏らさないような配慮が施されている。データは存在するとしても書面でしか存在せず、またその場所へ行くにも相当な警備システムが仕掛けられている。
眼帯でさえその場所へ行くことは躊躇うほどの場所。
「自分の情報を漏らさぬよう、同じ時期の暗殺者全員を殺した最悪の暗殺者」
「なぜその情報をお前程度が知っている」
「眼帯、お前がここまで読んでいたように、私も全てを読んでいた」
速水は質問には答えず、話を逸らした。
「嘘をつくなよ。見破っていたとすれば、宮園をこんな危険な目に遭わせるはずがない」
感情的になっていた眼帯は話を逸らされたことに気付かず、返答する。
「お前を撃てればそれでいい」
「仲間を見捨てる? ブラフだろ」
眼帯は真意を確かめるように速水の目にだけ意識を集中させた。
眼帯は完全に速水との口論で警戒する意識を削がれた。その一瞬を狙い、速水は口を大きく開き、舌を出す。
舌の上を転がる白い二つの玉。口から吐き出した。
「……煙幕!?」
眼帯の予想は当たっていた。
吐き出された玉から煙が放出する。わずか数秒でこの場を埋め尽くしてしまいそうな勢い。
眼帯は反射的に引き金を引いた。弾丸は速水の左足を撃ち抜いた。
「速水っ!?」
「俺様の勝ちだ」
体勢を崩した速水。
煙幕で頭は隠れているものの、大まかな位置は胴体から予測できる。
「終わりだ。速水碧」
再び引き金が引かれた。
弾丸は的確に速水の頭を撃ち抜いたーー