第一話『六人の暗殺者』
清廉潔白な表と、私欲にまみれた裏。
人々は表を崇拝する一方、密かに裏で私欲を晴らす。
暗殺ビジネス。
それが裏の舞台を効果的に利用できる最善策。
あらゆる国、あらゆる有力者が一同に全く同じ考えを持ち、決行した。
世界が血に染まった十三日の金曜日。
世界中の首相、政治家、国王、富豪、有力者、経営者らが暗殺者を送り合った。
末に起こったのが世界規模の混乱。
世界中で有力者を同時期に失ったことにより、経済は破綻し、人々は混乱し、混沌の時代が起こった。
それから百年、世界は蘇る。
再生した世界。
未だ各地で混沌の足跡が残る。
それでも平穏が戻りつつあった。
二度と同じ悲劇が繰り返されないよう、世界連合が結成され、そこである条約が締結された。
ーー暗殺の禁止
暗殺者は次々と処刑され、暗殺ビジネスは廃業した。
現在の世界に暗殺者は存在しない。
消えたはずの暗殺者。
だがある国のある学園に暗殺者はいた。
「特待Aクラス末席、速水碧に卒業試験を与える」
地下に隠された暗殺者の教室。
六人全員が殺意を纏っている。
幼い頃から皆が暗殺者として育成された。そのため、誰もが暗殺に秀でた技術を持っている。
全員が中学三年生。
「あいつ、何で特待クラスに昇格できたんだ?」
特待Aクラス第五席、八神隷は唾を吐くように言った。
「結局今回の卒業試験に失敗して返り討ちにされるでしょ」
特待Aクラス第四席、氷夜冴はアイスティーを飲みながら言った。
「私も早く試験やりたいな」
特待Aクラス第三席、神凪巫女は足をバタつかせ、口を三日月にして言った。
「僕、早く殺されたいな」
特待Aクラス第二席、不死朧は寝言とともに言った。
「…………」
特待Aクラス主席、鳳凛香は無言で速水を見ていた。
各々が彼女に抱く印象は異なっていた。彼女へ口にされたのは弱者への哀れみや疑問。
だが彼女はそのどれもを気にしなかった。ただ淡々と卒業試験の内容が書かれた書簡を受け取り、自分の席へ戻っていった。
次に八神の名が呼ばれる。
彼は教師のもとまで行き、卒業試験の内容が書かれた書簡を受け取る。
「特待Aクラス歴代でも最低成績を誇る速水碧。なんであいつを特待クラスへ昇級させたんだ?」
教師に真正面から八神は問う。
「…………」
教師は何も答えない。
その態度に怒りを覚えた八神だったが、大人しく席に戻った。それは相手が自分より格上であることを知っているからだ。
他の四名にも同様に書簡が渡された。
全員が座ったのを確認し、教師は口を開く。
「卒業試験の内容、言うまでもなく暗殺である。今回は模擬暗殺ではなく本番。暗殺を禁止された現代において、この暗殺は極秘に遂行されなければならない。もし暗殺に失敗すれば情報漏洩を防ぐため、殺すことになっている」
全員に戦慄が走る。
「マジかよ……」
八神は冷や汗をかき、今回の試験の恐ろしさを身に染みて感じ取る。
「君たちは特待Aクラス。故にA、B、C、どのクラスよりも暗殺成功の確率は低い任務を与えられる。だがそれを乗り越えられないようでは一流の暗殺者にはなれない」
最後に教師はこう言い残した。
「健闘を祈る」