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「 」を会話文
( )を心の声で書いてます。
ロナルド達が旅立ってから一月後、ショーンが帰って来た。
御者席にいるショーンに大きなゲガはなさそうで、(疲れは溜まってそう…)胸をなでおろしてると、ふと目が合い、誇らしげな表情で親指を立てた。上手く行ったんだと嬉しくなり、私も親指を立て返す。
それを見たショーンはニカッと笑い、そのまま工房へ帰って行った。
この一月の間に、オババがデーツを冒険者や商人に売り込んで、今彼らの間で密かなブームになっている。
旅の時の甘いものは、めったに食べられず、あって道中の木の実だけ、そんな中保存ができ、栄養豊富で甘くて美味しいデーツは、たちまち噂を呼び、わざわざこの街に買いに来る冒険者もいるくらいだ。(甘味は正義だよね)
オババの予想以上に噂が広まり、人手も商品を作る時間も足りないので、ギルドを巻き込んで、干しデーツ職人が誕生し、ようやくオババの店も落ち着きを取り戻した。
私はと言うと、オババが私の発言がきっかけだったと話したのか、お使いに行くと、前以上に話しかけられるようになった。
中でも肉屋のニック(名付けのセンス…)は父親の店で修行中で、店に行くたび何かいいアイデアないのかと聞いてくる。(いや、5歳児に聞くことではないよね)
なので肉屋のお使いはなるべく兄に押し付けてるが、今日は学校に行ってて、必然的に私一人でお使いに…、母に「一緒に行こう」と誘っても、一人で行けるでしょ?(ニコニコ笑ってるけど、早く行ってこいと幻聴が聞こえる……)
店の中をそっと覗くと、ニックが居なかったので一安心。さっさと買い物終わらそうと店に入り、おじさんに頼まれた物を伝えて買い終わり、さぁ早く帰ろうと店を出た所で、
「おっ、フク見ーっけ!」
「……」
「なんだ、買い物帰りか?おれ、送っててやるよ」
「……いい」
「遠慮すんなよ、あぁ〜買い物終わったら、ちょっとオレの話聞いてくれよ」
「……やだ」
「そんな冷たい事言うなよ、オレとフクの仲じゃん」
「なかよくない」
「あー聞こえない、さぁ帰るぞ!」
さっと荷物を人質に取られ、取り返そうと藻掻くも、頭上高くに掲げられた荷物に届かない…
背の低さを呪い、肩を落としてニックの後を付いていく。途中、近所のおばちゃんに、
「あら、フクちゃんお兄ちゃん増えたわね〜」
なんてからかわれたけど
「ちが……」
「そうなんすよ、オレとフク仲良しなんすよ、なっ、それより今日、パイソンのいいのが入ったんで、夕飯にオススメっすよ〜」
否定する間を与えず、流れるように宣伝までしたニックは敵ながら天晴だ。
もう反抗する気力もなく、されるがままに着いていく。
家に帰り、母に出かけてくると伝えて、ニックに連れられ歩く。(ドナドナが頭の中を駆け巡る)
近くの広場の木の下に座るとおもむろに、
「強引に連れてきて悪かったな。」
「うん(ほんとだよ)」
「…オババの店が繁盛して、街に人が増えて、どこの店も稼ぎ時なんだよな…けど肉屋は旅人には見向きもされやしない、そりゃあ、宿屋なんかに卸す分は増えたから、まるっきり恩恵を受けてないわけじゃないんだけどな…っとフクには難しいか」
「……うん(確かに直接はなぁ…)」
「そんな時、オババから今回のきっかけがお前だって聞いてさ、お前と話せばオレもいいアイデアが浮かぶかと思ってな…強引だったよな」
「……うん(かなり)」
「親父の店、売上は上がんねーし、店もボロくて修復もしなくちゃ行けないしよ、せっかく人の増えた好機を逃しちゃ行けねぇってあせってよ」
「……うん(気持ちはわからんでもない)」
「ここに来るまで、お前の気持ち二の次にしちまってたな…」
「……うん(反省して)」
「悪いと思ってんだけど、やっぱあきらめきれねぇから、なんかねぇか?」
「……え?」
(そこは悪かったからの解散の流れでは?)
さっきまでのしおらしさは何処へやら、ほらこれ相談料と干し肉を渡され、呆気にとられてると
「なぁ、なんか浮かんだか?オババの時はどうだったんだ?」
「……」
「冒険者向けに何か考えてくれよ〜、なぁ〜」
「……」
ニックの態度に腹が立って、無言で干し肉にかじりつく、
「オレが作った干し肉なんだぜ、どうだ?うまいだろ」
「……(獣くさい)」
「ん?うますぎて言葉もないか」
やっぱオレって天才かも〜なんて自画自賛しているニックを余所目に、早く帰りたい一心で考える。
肉屋といえばコロッケやメンチカツ揚げ物が思い浮かぶか、これは冒険者というより、主婦向けの商品な気がする。(食べたいけど)冒険者といえば、干し肉が思い浮かぶけど既にあるし、それにしても獣くさい、(地球のジャーキーはスパイシーでビールに最高だったよな〜)
そうよ!これよ!
バッと急に立ち上がった私に驚くニックを余所に
「ほしにく、ほかのあじは?」
「あ?」
「もっと、けものくさくないやつとか、ぴりりとするやつは」
「いや、干し肉の作り方なんてどれも同じだぜ?」
「じゃあ、あたらしくつくれば?」
「は?新しく作る…」
「ニックしかつくれないのはすごいことでしょ?」
「確かに…でもオレ一人じゃ…」
「じゃあ、いっしょにつくってくれるひとさがすの」
「いっしょに……」
考え込むニックの横で、言われた通りアイデア出したし、このまま帰ったら駄目かなと割とゲスい事を考えてると、
「よし!いっちょやってみるか!言い出しっぺのお前も仲間に入れてやるから、明日の朝ここに集合な」
「なかまちがう」
「遠慮すんなって、それにフクのアイデアだしな」
「あいであ、だせって…」
「そうだけどよ、お前の思いつきだし、最後まで付き合ってくれよな、フクこのとおり」
しばらく「やだ」、「頼む」の攻防が続いたが、ニックには勝てず、仲間入りが決定した。(どうしてこうなった)
読んでくださり、ありがとうございます。