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「 」を会話文
( )を心の声で書いてます。
学校が休みの兄をお供に、持ち帰った荷物を返しに向かっていると、「お~い」と後から声をかけられた。振り向くとショーンが手を振りながら近づいてきた。
「二人とも、朝早くからどこ行くんだ?」
「びょういんに、にもつかえしにいくの」
「これ、フクが持って帰っちゃったんだ」
荷物を軽く持ち上げると、それを見たショーンが苦笑いで
「昨日は、ゴタゴタしてたからなぁ…オレも気づいてやれなくて悪かったな」
耳をペタンとさせ、苦笑いを浮かべながら頭を掻くので、ショーンは悪くないと伝えると、ありがとなとポンポンと頭を撫でてくれ、休みだからオレも付いていっていいか?と聞かれ、もちろんと頷き、一緒に歩いていく(さり気なく荷物を受け取るのは流石だ)。
病院の中に入るとちらほらと患者さんが待っていて、(やっぱり朝はお年寄りが多いなぁ〜)知り合いの人に挨拶しながら処置室へ進んでく途中、先生に会ったので、要件を伝えると、別室に移ったとドアの前まで案内され、先生は診察に戻って行った。
ドアをノックし、入室の許可をもらい中に入ると、入り口付近にフードを被った男が、構えて立っていたが、私達だと気づくと、構えを解きフードを外し、
「すまない、お前たちか……ところで俺達に何の用だ」
「ごめんなさい、きのうかえすのわすれてた…」
「あ、あの、フクもわざとじゃないんです。おれが言うまで気づいてなかったし、返しに行こうとしたけど、危ないから止めて…」
ガバッと勢いよく頭を下げる兄の横で私もペコリと頭を下げる。
「顔を上げてくれ…俺の方こそ昨日は済まなかったな、こうして返しに来てくれたなら問題ない」
「……ロナルド誰か来たの?」
「あぁ…昨日アリーをここまで運んでくれた者達だ、」
「まぁ!本当?こちらからお礼を言わなきゃと思ってたのに」
男が、ベッドから起き上がろうとするアリーを止め、座らせると、私達をベッドのそばに呼び寄せる。
「あなた達のおかげで、私もこの子も命拾いしたわ。本当に感謝しています。」
綻ぶような笑顔でお礼を伝えられ、その笑顔に照れながら
「げんきになってよかった。もうくるしくない?」
「えぇ!治療を受けたからもう大丈夫よ。あなたもありがとう」
「おれは違います。昨日フクが持って帰った荷物を届けに来ただけだから…」
「そうなの?」
「にいちゃん、ついてきてくれたの、アリーさんごめんなさい」
「……そうだったの…正直に話してくれてありがとう。怒ってないし、謝罪はいらないわ」
兄と顔を見合わせてよかったと息を吐き
「貴方が私をここまではこんでくれた方かしら?」
「は…はい、そうです。」
「貴方のおかげで助かったわ、感謝します」
「いえ、恐れ入ります。」
かしこまるショーンをよそに、
「お前は、私達を知っているのか」
「えぇ…故郷のオーシスの城で貴方をお見かけした事があります。ロナルド王弟様…」
「「…おうていさま」」
頭を下げるショーンを見習って、私達も慌てて頭を下げた。
「今は身分を捨てたから、かしこまらないでくれ」
「ですが…」
「むしろそのようにかしこまられる方が、迷惑なんだ」
「ロナルド落ち着いて、あなた達も頭を上げて」
恐る恐る頭を上げると、大きくため息を着いたロナルドが、
「そこにいる男の言う通り私はオーシスの王弟だったが、今はこの国に亡命に来た、ただのロナルドだ」
もともと王位に興味はなく、王位継承権を放棄し、穏やかに過ごしていたが、アリーの妊娠が発覚してから、暗殺事件が多発し、このままでは命が危ないと信頼のおける部下二人とこの国へやって来たが、
追っ手により散り散りになってしまい、アリーと命がからがら、この街にたどり着き、アリーを隠れさせ、一人で探索を終え戻って来たら、居なくなっていて、ようやく居所を掴み乗り込んたら、荷物を持っていたから刺客に見えたと。
そりゃあんな態度になるよなぁ〜うんうんと一人納得してたが、ふとアリーさん隠れてたか?むしろ赤い光で目立ってたような……?
「これからどうされるのですか?」
「アリーの体調が戻り次第、ここを経ち王都を目指さねば、刺客が来ないとも言えないからな…」
「王都まで馬車で一週間はかかりますし、ギルドで護衛任務を頼まれた方が…」
「依頼を出すにも、依頼人の身元がはっきりせねば、受けてくれないからな、金を積めば出来ない事もないが、余り手持ちもなくてな」
「なら、私に任せてくれませんか?」
「………」
「5日後に王都に向けて、うちの工房から荷の発送があるんです。乗り心地は良くないですが、隠れ蓑にはなるかと…」
「…なぜ、そこまで」
「私は貴方に恩を返したいのです。」
オーシス国はそれまで、獣人は騎士になれなかったが、王弟の政策の一環で、獣人の騎士の雇用を認められ、ショーンは夢だった騎士になれた。
怪我が元で辞めた後、こちらの国に居を変え、工房で家具職人になったが、決して叶うはずのなかった夢が叶い、ロナルド王弟は、今も尊敬し、感謝し続ける人らしい。
ショーンの熱い思いを聞いたロナルドは、アリーを見つめ頷くと、
「ショーン……すまぬが、頼む」
「危険な目に合うかもしれませんが、頼らせてください」
「はい、お任せください」
姿勢を正し、敬礼したショーンは普段着だけど、騎士の姿に見えた。
後は、大人の話し合いになったので、兄と二人別れを告げ病院を後にした。
「フクお前、凄い人助けたんだなぁ……
優しい人でよかったけど……なんか王様の暮らしも大変なんだな…」
「おうさまより、にいちゃんたちといっしょがいい」
「そうだな、おれも今の暮らしがいいや、昼ごはん食べたらこの間約束したイチゴ取りに行こうな」
手を繋ぎ我が家に帰る足取りは軽やかだ。
読んでくださり、ありがとうございます。