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「 」を会話文
( )を心の声で書いてます。
悩む…悩む。
つい、お祝いをするかなんて口に出してしまった為に、こんなに悩む事になるなんて…。
母に聞いても、強いて言えば「おめでとう」の言葉くらいで、貰うにしても、着なくなった服のお下がりをもらったりするくらい。
…ロナルド達は貴族だからお下がりなんてとんでもない。決まりとかありそうで、余計に悩む。
ショーンなら騎士をしてたし知ってるかなと、働いている工房へ押しかける事にした。
工房が立ち並ぶ、通称『工房通り』の家具屋でショーンは働いている。中を覗くと、木を削る音や木槌で叩く音が響いている。せわしなく働いてる姿を見てたら、邪魔しちゃ悪いし、出直そうときびすを返したら、
「隠れてんのは分かってんだぞ」
ビクリと肩を揺らし、おずおず振り返ると、白髪で顎びげを蓄えた眼力の強い男が、木槌を片手に背後に立っていた。
「……」
「ここは、ちびが遊びに来る場じゃねーぞ」
威圧的な声に、言葉が出ない。
「あ、あの」
「なんだ、言いたい事は、はっきり言え」
「ショ、ショーンにあいにき…た」
「なんだ、ショーンの知り合いか、それならそうと早く言えや」
「……(いや、言える雰囲気じゃないやん)」
「おーい、ショーン!オメェに客だぞ」
「……何すか、親方」奥からショーンがやって来て、
「客だよ、客」
「俺に?ってフクじゃねえか、こんなとこまで、どうしたんだ?」
ショーンに、相談したい事があったけど、忙しそうだからまたにすると伝え、帰ろうとすると親方が「ガキが遠慮するんじゃねぇ」と工房の中に案内してくれた。
工房の中は、木材や鋸などの道具が無造作に置かれ、足元に気をつけながら歩いてると、ひょいと抱き上げられて、(ショーンが抱き上げてくれたのかな)顔を上げると親方だったので、驚いて固まると、「怪我でもされちゃ、たまっちゃもんじゃねぇからな」と物が少ない一角に運んでくれた。
「ありがと」と親方にお礼を言うと、「フンッ、さっさと用事すませな」とぶっきらぼうに作業に戻って行った。
「親方、言葉はきついけど、フクがここに来て嬉しいはずだぜ」あぁ見えて子供好きなんだと楽しそうに教えてくれた。
抱き上げる手が優しかったから、子供好きは間違ってないと思う。
「で、相談事って何だ?」
「あのね……」
周りに人はいないが、ロナルド達の事なので小声で、貴族の人には、どんな物をあげてもいいのか、失礼に当たる物はあるのか、知ってるなら教えて欲しいと、ショーンに尋ねたら、
「俺も詳しくないが、食べ物は避けたほうがいいな」
「ようふくは?」
「基本、オーダーメイドだろうな」
「はな、は?」
「花かぁ、渡してる所を見たことがあるから、大丈夫だろうが、ここで用意しても渡す時には枯れてるだろうし、現地で用意する時間はとれそうにないしなぁ」
「…そっか」
「……」
「……(いっそ渡すの辞めた方がいいのかも)」
「…やめるか」
「えっ」
「ヘタなもん渡して困らせるより、何もしない方がいいかもな…悪かったな振り回してよ…」
「……」
気落ちしたショーンにかける言葉もなく、微妙な空気のまま工房を後にする。
(あんなに落ち込んで、ロナルドさんの事、恩人だって言ってたからな……)
気もそぞろで歩いていると、扉から出て来た人とぶつかって尻もちをついた。
「ごめんなさい、大丈夫?」手に持っていた袋を道に置き、抱き起こして服のホコリを払ってくれる。
「だいじょうぶ、まえみてなくてごめんなさい」
「私こそ、怪我はないみたいでよかった」
じゃあ、気をつけてねと、袋を拾い上げ歩き出す女性を引き止める、(さっき見えた袋の中身って)
「あ、あのそのふくろのなかみ」
「あぁこれ?リボンの切れ端なの」
「それどうするの?」
「使い道がないからごみ捨て場に持っていくところよ」
「それ、もらっちゃだめ?」
「え?…捨てるだけだから構わないけど…」
不思議そうに袋をくれた女性にお礼を伝え、来た道を戻る。
工房に着くと、親方が「何しに戻って来た」とムスッと聞いて来たから、ショーンに言い忘れた事を思い出したと伝え、工房の中に入れてもらった。
落ち込んでるショーンを見つけ、歩き出す前に、親方が抱き上げ運んでくれる。
ショーンの目の前で下ろすと、無言で作業に戻って行った、
「どうした?」
「かれないはな、みつけた」
「あ??どういうことだ?」
「これでつくるの」
袋を掲げショーンに見せる。
「何だこれ、布の切れ端か?」
「りぼんのきれはしで、おはなつくるの」
「は?」
あ然とするショーンの手を引き、親方に場所とのりとショーンを貸して欲しいと頼むと、眉間にシワをよせながら、「好きにしろ、正し、他の職人の邪魔したらただじゃおかねぇぞ」と工房の一角を貸してくれた。
袋の中から、同じ幅で同系色の、6cm程度の切れ端を10枚取出し、長さを揃えたら、両端を三角に折りのりで止め、両端の角を内側に折りのりで止め、花びらの形を作る。横で見ていたショーンにも作ってもらい、出来た花びらを半分重なるようにのりで止め、くるくる巻くとバラの花が出来る。
形を整えショーンに渡すと、呆然とながめてる。
「これはだめ?」
「……すげー、枯れない花だ」
「これならわたせる?」
「あぁ…いやでも茎がないから花束はできないな…」
しょんぼりするショーンに
「はこつくって」
「箱?」
「はこにしきつめたら、くきいらない」
「それ…いいな…いいな…」
落ち込みから一転、今にも踊り出しそうな雰囲気のショーンを横目に、リボンを持ったお姉さんとぶつかって、リボンの花の作り方覚えてて、フラワーボックスを思い出せてよかったと、胸を撫で下ろす。
このまま作業を続けたいが、これ以上仕事の邪魔するのも悪いと、ショーンに伝えたら、親方に話をつけて休憩の時、場所を貸してくれる事になった。
プレゼントを渡すのを辞める方向だったのに…自分で自分の首を締めてる気がするが、まぁいいか。
読んでくださり、ありがとうございます。