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「 」を会話文
( )を心の声で書いてます。
成り行きとはいえ、仲間になってしまった以上やるしかないけど、干し肉の作り方なんて知らない。母に聞いても「たしか塩につけて乾燥させるのよ」と曖昧な答えで困った…。
ここまで考えて、わからないならもういいかなと思うけど、別れ際のニックの顔がちらついて、投げ出すのもな…。
考える事に疲れて、ベッドに横になり目を閉じると、まぶたの裏に文字が浮かんでくる。
『ジャーキーの漬け込み液』
ソミュール液
4~20%濃度の食塩水をソミュール液と称します。
ピックル液
ソミュール液に各種スパイス、香辛料を加え一度沸騰させた物をピックル液と称します。
(うわぁぁなにコレ)
目を見開き、辺りを見渡しても文字は浮かばない。
(ソミュール?ピックル?)もう一度目を閉じると、続きが浮かんでくる。
ソミュール液は、塩分濃度4~20%程度で…後は、好みの味で味付けをした液体です。
…もしやこれはスキルの『ネット検索』では?(今まで忘れてたよ)目を閉じると浮かぶの?(発動条件が微妙じゃない?)使い所をを考えないと、怪しい奴になりそうなスキルだけど、今回は結果オーライだ。
他にどんなやり方があるが、目を閉じ検索してみると、味を染み込ませた後、乾燥させる時に、燻製したり、味付けに醤油やワインを使うレシピも出てきて
美味しそう……と考えてるうちにいつの間にか寝ていた。
朝ごはんを食べ、待ち合わせの広場へ向かう。具体的な時間の待ち合わせじゃないので、早めに家を出たつもりだが、既にニックがいた。
「おぅ、おはよう!早いな」
「おはよう。ニックもはやいね」
「昨日、時間決めてなかったのに気づいてな、待たせちゃ悪ぃからな」
「……(そんな気遣いはできるのね)」
「ちょっと、早いけどあいつの所に行くか」
「あいつ?」
「干し肉作りの協力者のワットのとこだよ」
街外れにある広い庭の一軒家にニックはズカズカと入っていく。
「おーい、ちょっと早いけど、来たぞー」
「……ちょっと待て」
ドタドタと音を立てながら、こちらへやって来た男はボサボサの髪で寝間着のままで、まさに今起きましたと言わんばかりの姿だった。
「なんだ、今起きたのか?朝から行くって言ってただろ」
「…そうだけど…それにしても来るの早いよ…」
「来ちまったもんは仕方ねぇだろ、ほら着替えて来るの待ってるから、早く支度してこいよ」
「…わかったよ」
ため息をつきながら、支度をしに行くワットを見送り、
「あいつ、普段はあんなだけど、魔法の腕は確かだからさ」
「まほうつかうの?」
「おぉ、普通に作るのは時間かかるから、短縮出来る所は短縮しねーとな、今日は親父に無理言って休みもらったしな」
「そうなんだ」
「こう見えて、俺だって考えてんだぜ」
「…(見えないけどね)」
そうこうしてると、支度を終えたワットが戻って来た。
「ニックおまたせ、…所でもう一人のお仲間は?」
「「……。」」
「いや、ここにいるだろうが」
「えっ……あっ、あ、あの、ごめんね…」
「お前、もっと周り見ろよ、フク、こいつも悪気はねぇから許してやってくれ」
「……うん」
「本当にごめんね、ニックから話を聞いて、大人だと思ったんだ…」
シュンとするワットをおいてニックが、
「気を取り直して始めるか」とワットに促すと、
「あぁ、台所に準備してるから、こっちだよ」
案内された台所には、肉の他に色々な食材が置いてあった。
ニックが干し肉の作り方を一通り説明してくれて、まずはそれぞれで、作る事になった。
調べたレシピを元に材料を探していく、ニンニクやショウガを見つけ、他には…とウロウロしてると棚の中が光って見える。ワットに棚の中を見せてもらって鑑定したら、ハーブ類だったので使っていいか聞くと、驚かれた。
ハーブは主に、お茶や薬の材料として使うから、料理に使う事はめったにないらしい。
ボウルに材料を入れてると、興味を持ったのか、うしろからワットに覗きこまれ、「何を入れたの、他は?えっ、これ入れるの?……」離れない。
自分は作らなくていいのか聞いたら、私の方が気になるからいいと、ならばと、ニンニクを潰してもらったり、生姜を切ってもらったりと手伝ってもらった。(いつの間にかニックまで、覗きこんでたのにはびびった。)
漬け込み液が出来たから、肉を漬け込みワットに魔法で、肉に味を浸透して貰い、ニックが薄く切ってくれ(もうこれ共同作業やん)、半分に胡椒を振りかけ、魔法で乾燥してもらい完成した。
結局二人は途中で作業を止めたから、出来上がったのはこれだけ、二人に作らないのか聞いても、味が気になりすぎて試食が先との事。
「「いただきます」」とふたりが食べるのを見て私も食べる。塩を入れすぎたのか、少し辛いけど、ハーブやニンニクのおかげで、獣臭さは消えてる。(成功かな?)
「なんだコレ、こんな干し肉…今まで食べた事ないぞ…」
「…うまっ」
「フクお前スゲーよ、どうやったらこんなの思いつくんだよ」
「…なんとなく?」
「まじかよ…」
「……なんとなくだって?それでこの完成度、頭の中を見たい、こんなに興味深い子がいるなんて、ねぇ他に思い浮かんだ事ないの?」
「……(いきなり豹変したー)」
大人しいと思ってたワットにぐいぐい来られ、たじろいでると、
「落ち着け、フクが困ってるだろ」
「どうしてこんな事思いつくのか、ニックは気にならないのかい?」
「そりゃ気になるけど、ガキならではの先入観のなさなんじゃねーの?」
(残念、中身おばちゃんです)
「…先入観のなさか」
「それより今は干し肉作りだ、フクが何を入れたかワット見てたんだろう?」
「あぁ…それなら」
ニックが話題を変えて、干し肉作りを進めて行く、時折意見を求められ、それに答えて調整してを繰り返し、ようやくレシピが完成した。
干し肉作りで魔力を使いすぎたのか、ぐったりしたワットをベッドに寝かせ、ニックとワットの家を後にする。
「今日はありがとな、お前のおかげで良いのが出来たよ」
「ニックとワットがつくったんだよ」
「…お前がいなきゃ出来なかったよ」
「かんせいさせたのはふたりだよ」
「…そっか俺等も必要か…」
「うん」
「お前等のおかげで出来た干し肉、絶対に人気商品にするから見とけよな」
「たのしみにしてる」
「おぅ、干し肉成功させたら、次も頼むな」
「……え?」
(それは勘弁してください)
読んでくださり、ありがとうございます。