プロローグ
「フクコさん元気でやってるかなぁ」
アンネはタブレットを操作しながら、ポツリとつぶやいた。
「ん?フクコってお前が最初に担当したやつだっけ?」
隣の席の同僚が聞いてくる。
「うん、さっき先輩からあの転移のその後の報告書が回ってきたから…」
「おっ、どうなってるんだ
どれどれ…」
そう言いながらタブレットを覗き込んでくる。
「……なんだかんだ巻き込まれながらも、なんとかなってるみたいだな」
苦笑いで同僚が話してくる。
「フクコさんの平穏に暮らす夢が叶ってるのか微妙だけどね」
「あの人はなんだかんだ運はあるし大丈夫だろ
そんな事より、仕事終わったら飲みにいこうぜ!」
「はいはい……
それじゃ残りの作業終わらせますか」
気合を入れなおし、残りの作業に取りかかる。
『今日も問題なく終わりますように』
フクコさんとの出会いから僕の口ぐせになった言葉。なんだかんだハプニングもあるけど、あの日以上の衝撃はないから、今のところ一応叶ってるのかな。
僕は星と星の生き物を移動する部署で働いていて、フクコさんとの出会いは、久方ぶりに地球から集団移転を実行する日だった。今回の計画の為に前回の資料を参考に何度も実験や計画を練り直し、いよいよ転移当日を迎え、現場に普段はお目にかからない上司まで出てきて、いつも以上にピリピリしていた。
当時新人の僕は先輩の下で雑用をこなしつつ、今回の集団転移を見学していた。
「先輩、今回の計画は地球の日本から42人の移転ですよね。前回より少ないみたいですが、前回もこんな感じだったんですか?」
先輩は前回の集団移転時も担当していたベテランだ。
資料を確認しながら質問すると、教えてくれた。
「いや、前回は今回ほど綿密じゃなかったかな、
最近の地球…特に日本は戸籍制度がしっかりしてるから、現地で事故に見せる為の準備に時間が掛かるし、最近の転移事故の多発で上から注意があったから今回は特に失敗は許されない雰囲気だな」
眉間のシワを揉みながら先輩が教えてくれる。
「だから上司も現場に来てるんですね」
現場の緊張感の理由が分かったが、正直新人の僕は初めての移転に浮かれていた。
今回の移転は地盤沈下を利用してのバスとバイクの落下事故。現地で死傷事故に見せる為の入れ替え物質の制作や地盤沈下の穴の大きさや深さなど、綿密に計算して、何度もシュミレーションしたのに、それでも起こるのが事故。
計算に基づいた地盤沈下の座標が、後1cmズレていたため予定になかった車1台巻き込んでの、結果43人の集団転移となってしまい、43人目の巻き込まれが僕が最初に担当する事になるフクコさんだったのだ。
阿鼻叫喚の現場の中、
「始末書で済めばいいけど……」
ポツリとつぶやく先輩を横目に僕はただ呆然としているフクコさん達を見つめる事しか出来なかった。
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