新しい主人
我は気が付くと少女の腕の中にいた。
黒い子猫の姿だ。相変わらず短尾で隻眼……?
あぁ、転生したようだ。
捨てられていた三匹の子猫のうち、それぞれが新しい家庭に保護されたようだ。
この家が我を保護したようだ。
「『クロは可愛いね。ずっと私の側にいてね』」
少女のとても気持ちよい言葉だった。
でも、何かを忘れている?
思い出せない。
いや、このままで、幸せである。
なのに、頭の中に『九重郎』と聞こえた。幸せで全身が震えた。
再契約は成された。
主人の下に行かねばならない!
丁度少女の母が開けた窓から我は飛び出した。
『クロ!!』
呼ぶ声がする。後ろ髪ならぬ尻尾を引かれる想いだ。
主人の場所はわかる。ん?自宅ではなく、今は病院の方か?
一目散に駆けたいが、信号は赤だし、後ろから少女が追ってくる。
走る。仕方ない、空を駆ける。
聡子の病院が見えてきた。我は窓から飛び込み、主人の胸に……?
「璃桜様?」
主人は一正様ではなく、璃桜様になっていた。
「戻ってきたわね、八重郎……」と聡子が涙声で呟いた。
「八重郎ではなく、九重郎だね!」と新しい主人の璃桜様が微笑んだ。
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