番外編 ― 闇 ―
これで一応の完結です。
有り難うございます。
まだ退院して二週間、年の暮れに璃桜様は宗家に呼び出された。
我は送迎を頼まれ、松葉杖の璃桜様を背に乗せ空を駆ける。
高く飛んで気分が良い。
桜珠様を乗せた時は落ちるのではとハラハラして低空飛行で飛んだ。
勿論普通の人には視えない。我も主人も、ただ一筋の突風でしかない。
神社の結界に入ると必ず首にかけた鈴が鳴る。
この鈴のおかげで結界に弾き飛ばされることは無いが、全身を駆け巡る悪寒のような痺れる感覚はあまり気持ちの良いものでは無い。
神社に到着し猫の姿に戻り身震いを多めにする。
璃桜様が優しく抱きしめ頭を撫でてくれる。至福の時だ。
社務所に入ると、相談人だろうか若い男性が座っている。
猫を抱いた少年が応接室に入ってきてためか、男は怪訝な表情を浮かべている。
宗家が表情を読んだのだろう。
「私の孫です。さあご相談の続きをどうぞ」
半信半疑の男が話し始める。
松田伊織。職業は自分自身で人気俳優だといっている。
アイドルの男に此処のことを聞いたらしい。
「父がこないだ事故で亡くなったのですが毎夜僕の枕元に立って何か話し掛けてくるのです。
でも何を話しているのか解らないんです。成仏出来るようお願いします」
あっ、先程結界に弾かれていたおじさんのことか?
念を璃桜様に飛ばしてみる。
届くだろうか?少し不安になる。
璃桜様は片方の口角をあげた微笑みを我に見せる。
「少し外に出てきます」
宗家も察したらしい
「待てば良いんだな?」と頷く。
鳥居の外にしょぼくれて座り込んでいるおじさんに璃桜様が話し掛ける。
「松田さんのお父さんですか?」
男性が驚き立ち上がり璃桜様を掴もうとするが通り抜けてしまう。
「お話聞けますよ」と璃桜様が力を込め男性の手を握る。
『助けてください』とハラハラと涙を流す。
――事故にあった時、車が闇に包まれて制御が出来なくなった。
気が付くと自分は死んでいてあの闇が自分の家に取り憑いている。
息子を家族を助けて欲しいと ――
璃桜様が慌てて応接室に戻り、松田とやらに
「お父さんが亡くなったのはいつですか?」と問う。
その日はがしゃ髑髏と戦った次の日だ。
闇……残党がいたのでは?
璃桜様が晴明に簡単に説明する。
松田は強い守護霊闇に護られているので大丈夫なようだ。
「家族は?」
「母が入院してます」
「病院はお任せします。僕は彼のお父さんと家の方に向います」
晴明が頷く。
無理矢理彼の父親を我の背に乗せ、璃桜様と飛び立つ。
黒い闇が彼の家を覆っている。
闇は家の中に入ろうと必死だ。
彼は本当に人気俳優なのだろう。
強い羨望や憎しみを受けている物が家の中にあるのだろう。
その中に悪意が潜んでいる。
闇はそういう物を取り入れ妖力を増やすのだ。
「『消えろ』」璃桜様の言霊で、闇がこちらに気付く。
久々のコンビ仕事だ。
我は紅き右眼を開く。
小さな闇の屑が飛び散るのが視える。
あいつらが人の闇を食べ、またがしゃ髑髏となるのだろう。
松田の父は深々と頭を垂れ、静かに大気に溶けていく。
後で聞いた話だが、受け取ったプレゼントに邪気を持った物が十数点有り、
GPSや盗撮機が付いている物もあったらしい。
全てお焚き上げの対象だ。
人の闇は尽きぬ故、悪鬼もなかなか滅びはしない。
拙い言葉の羅列ですが、読んで頂き有り難うございます。
感想等いただけると幸いです。
完結ですが、別のシリーズ「 化け猫の転生恩返し 外伝 」をゆっくり書きたいと思っています。
有り難うございました。