紅梅様
この地区には神社・仏閣が数多く存在する。
そこには何らかの結界があるようで、妖の我は入れない場所が多くあった。
璃桜様が幼き頃、通う保育園が神社の中にあり、登園は境内の中を歩いて通る。
神社の御神殿の前には立派な梅の木があり、璃桜様はいつもその木に手を振って行く。
千年以上生きた梅の木には紅梅様という精霊が宿っている。
紅梅様は高い位を持つ神と化し、この御神殿を守っている。
璃桜様には紅梅様が視えていて、偶に楽しく話もする。
だが、口差のない大人が璃桜様を気味悪いと噂する事もあった。
桜子・璃桜様は小さい時から妖が視える事を他人に話してはいけないと教えられていた。
二人とも「どうして?」と言うことがなかった。なんとなくで理解しているようだ。
ただ璃桜様は偶に忘れてしまうことがあり、何気なく話してしまう。
ある日、璃桜様が小さな鈴を持って帰ってきた。
保育園の帰り道、紅梅様に手招きを受け
『お猫ちゃんにつけてあげて』そう言われたらしい。
黒いリボンにその鈴を付け首輪とすると、多少の違和感はあるが結界に弾かれる事が無くなった。
璃桜様も小学生となり、お迎えが我の唯一の仕事となった。
故にどこにでも入っていけるのが嬉しく、お昼は白猫のユキと特別に外出が許されていた。
神社の屋根はお昼寝に最高なのだ。
この平和な時代、我は長生き出来ると思っていた。
しかし、その日は突然に訪れた。
我は大好きなユキの身代わりになり車に轢かれてしまった。
我は霞のように消え、そこには黒いリボンが付いた鈴が残っていた。
―― ある日、足を怪我したユキが鈴を咥えて戻ってきた。
桜子様がすぐに何かあったと気付いた。
皆の意見は一ヶ月待とう、ということになったらしい。
何かあっても一月もあれば転生することを皆が知っていたからだ。
しかし、二ヵ月も経つというのに猫は戻ってはこなかった。
いや、戻れなかった。 ――
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