兄弟
立春の日に璃桜様の弟・桜珠殿が生れた。
手に青みがかった小さい珠を持って。
小さき手から取り上げた宝珠は宗家に預けられることになった。
この日は聡子と桜珠殿の退院祝いで皆が揃っていた。
珍しく一正様の弟で猫嫌いの千義正親もお祝いに駆けつけていた。
一正様の喜びに反して、正親の心の闇は深そうだ。
相談があると正親が言い出したのは夜遅くだった。
内容はあまりいい話ではなかった。
不思議な体験でもあるというので、璃桜様も同席となった。
「自分の醜聞を見せたくないようだが、璃桜はかなりの耳年増男子だ」
一正様は璃桜様の耳を塞ぎながら正親に言う。
正親が昨夜話した内容はこうだった。
――若い女性に言い寄られ大金を欺しとられた。
いわゆるデート商法でガラス玉を大金で買ったのだ。
しかし、警察に届ける前にその女性が川で遺体として発見された。
容疑者として疑われかけたことで家族にばれ、今は実家に帰っている。
そして、誰もいない家で変な音がするようになって怖くなった ――
問題解決の為、璃桜様の春休みを使って大阪に行くことに。
我は新幹線の中では猫のぬいぐるみと化している。
璃桜様も寝てしまうと、一正様が語り出した。
「スポーツ推薦で大阪の高校に行ったお前を誇りに思とった。
全然戻ってこんけん、怪我したことは後から知ったと。
専門学校に進み、自分の店まで持って偉か弟と思とったのに」
「小さい頃、父と兄さんだけが話しているのが凄く寂しかった。一人除け者だった。
母さんが早くに死んでからは特に悲しかった」
「そうか……しかし、お前が怖い思いをしないで済むようにと親心やったと。
俺だって本当は子供達に怖い思いさせたくはなかとよ」
「だから父さんが若くて死んだ時本当に驚いた。あれから兄さんに苦労させた」
「苦労はしとらん。でもあの頃、もう少しお前の話を聞くべきやったと今は思う。
寂しい思いさせてすまん」
一正様が深く頭を垂れた。
「こっちこそ、ごめん」
正親の目に涙が滲んでいた。
兄弟が和解したところで、問題解決へ大阪の自宅へと向う。