番外編 ー戦争ー
【残酷な描写】事件・怪我等の描写があります。
今回のお話はちょっと昔のお話です。
主人の死を確かに感じた。
戦地に赴いてまだ半年なのに……。
なんともいえぬ喪失感が我を包む。
それと同時に、主人のお子でまだ十五歳で新しき主人となった恵子様を守っていかねばという想いが溢れてくる。
ひばり様の孫・曾孫は大成功し、江戸に大きな商店を構えるほどになった。
しかし、昭和になり戦争が始まると軍にいろんな物が徴収されていく
金物屋だった店は傾いて、主人は南方の戦争に駆り出され、あっという間に戦死した。
東京の戦火もひどくなり恵子様と母上殿は九州の別宅へと疎開する。
新型爆弾が落ちて終戦を向かえたが、親子の暮らしは苦しくなるばかりだ。
親類縁者とも連絡がつかず、恵子様は途方に暮れていた。
我は一人で食べ物を探しに闇市へ行く。
そこで懐かしい匂いに惹かれる。男の胸からひばり様の匂いが漂う。
御守りだ。
ひばり様が妹のために作った御守りをあの男が持っている。
御守りをちぎり取って恵子様の下へ急ぐ。
駆けながら男が後を追ってくるのを確認する。
玄関先にいた恵子様に御守りを託す。
『この御守りは千部本家のひばり様のものにゃ。
追ってくる男は恵子様と関係がある者のはずにゃ』
程なく男がやって来て恵子様の手にある御守りに尋ねる。
「これは俺の御守りです。返してください」
「この御守りは私の先祖がその家族に授けたものです。なぜ貴方がもっているのですか?」
「まさか!私は千義といいます。これは私の母方の祖母から出兵前に受け取ったのです。
あなたこそ何故その様なことを言うのです?」
千義という男が逆に問いただす。
「この御守りに刺してある家紋は千部本家のものだからです」
そう言って、唯一武家の名残の小さき懐剣を取り出し家紋を見せる。
家紋を見た男は驚いて祖母に会って欲しいと懇願した。
「母もいるのです」
恵子様が奥の部屋にいた母上殿の手を取ろうとすると、もうすでに冷たくなっていた。
男は千義正秀と名を名乗り、泣き崩れた恵子様の代わりに母上殿を埋葬してくれた。
千義正秀はひばり様の妹の玄孫にあたるらしい。
千部本の名前を聞くと千義正秀の祖母は恭しく頭を下げ、
「本家筋のお嬢様を迎えられて嬉しく思います」と言った。
半年ほどで二人は夫婦となった。
巡り会う運命だったのか?
恵子様の幸せを見届けて我は目を閉じる。
拙い言葉の羅列ですが、感想をいただけると幸いです。