花火大会
打ち上げ花火のはじまりは、江戸時代、飢饉・疫病の流行により、多数の死者がでた時、その死者たちの慰霊や悪疫退散のために打ち上げ花火が上げられたときく。
打ち上げ花火が上がると、小動物や妖達が地下や森に逃げ込む。
一理あるのかもしれない。
光と音が届く所が浄化されていくようで、妖達は静寂になり逆に人は大騒ぎをする。
例年この日ばかりは璃桜様も年相応にはしゃいでいた。
しかし、いつも一緒に見るはずだった晋太郎君はもういない。
とぼとぼと歩いているともう花火が上がり始めた。
目の前には大勢の人たちが歓喜に包まれている。
「玉屋、鍵屋」の掛け声に大きな拍手に、璃桜様の足が止る。
我が東の森を見ると鵺殿が一番高い樹木の上で花火を鑑賞している。
ふと眼が合ったので目礼すると、手招きを受けた。
我は璃桜様を背に乗せ鵺殿の所まで飛んでいく。
驚いている璃桜様を乗せたまま、鵺殿の横に位置取る。
『そういえばまだ礼をしてなかったな』
そう言って鵺殿が璃桜様の左耳に息を吹きかける。
「わぁ!」
璃桜様は驚いて我から落ちそうになる。
『それは真実の耳じゃ。嘘を見破れるぞ。聞きたくない時は耳栓でもすれば良い』
璃桜様は頷き、やっと顔を上げて花火を見た。
今年の花火は璃桜様にとって鎮魂の思いが重なるものになった。
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