プロローグⅣ
ひばり様は千部本様のたった一人の孫のためとても大事に育てられている。
ひばり様は器量がとても良く、愛らしい笑顔はみんなの癒やしだ。
昼過ぎに、ひばり様の許婚という小僧が見舞いに来た。
「お元気になられて良かったです」
優しい言葉をかけられてひばり様の頬が赤くなる。
まだ、元服前の小僧だが、なかなか一角の人物に成りそうだ。
家柄も良いところの三男坊らしい。
そして、この三男坊が千部本家の家督を継ぐことがもう決まっていた。
次の日、妾の飯に毒が入っていた。鼠殺しに使われるものだ。
匂いですぐに気が付き口にはしなかったが、きっとあの嫁の仕業だろう。
初めはよほど猫が嫌いなのかと思ったが、良からぬ影が嫁のおたみから見え隠れしている。
ひばり様を病にした悪意の塊の黒い影と同一のものだ。
おたみ本人も気付いてないのか?
話を聞いていると、ひばり様の生母はすぐに亡くなっており、おたみは後添えのようだ。
息子殿(ひばり様の父)は先月から長崎へ行っているらしい。
千部本様に伝えた方がいいだろう。
『千部本様、あの嫁は懐妊しているにゃん。本人もまだ気付いてないようだが、
あの女がまた悪霊を呼び寄せひばり様に危害を加えるにゃん』
「まさかおたみが?子が出来ぬと聞いて後添えにしたのだがひばりに害を成すとは……」
千部本様は驚き、しばし考える。
『男の子が生まれれば、跡継ぎ問題になるにゃん。
無意識にひばり様を排除しようとしているにゃん』
―― 人を妬めば悪意が生まれる。
塵も積もれば山となる。
小さな悪意が大きな悪霊を呼び込み
人の心を惑わし弄ぶ。 ――
慌てた千部本様はすぐに長崎にいた息子殿を呼び戻し、嫁と生まれてくる子供の処遇に対応した。
離縁の話もでたが、息子殿が反対しおたみと共に長崎で暮らすこととなった。
気落ちしたおたみからは影が消えていた。一安心だ。
生まれたのは娘だったらしい。
ひばり様は本家に残り、祝言を挙げ婿殿が家督を継いだ。
千部本様は米寿を迎えた翌年大往生の人生を閉じた。
妾は若い二人の家族を守ると決めた。
“末代まで恩を返す”と言ったのだ。約束は守らねばなるまい。
ひばり様は二男二女をもうけたが、不思議なことに妾の言葉が解ったのは次男ただ一人であった。
ひばり様が病に冒され四十歳という若さで現世を去った。
妾は魂が裂けるほどの悲しみというものを初めて知った。
契約によるものだからか、竜見様とは比べようもなかった。
妾は三十五年も長生きした。ひばり様の後を追うように妾も現世から去った。
しかし、次は半年ほどで転生した。
時勢は幕末へと進み人々は大きな波に飲み込まれていった。
千部本家はひばり様の息子達が後を継いだ。
三度目の生を受けた妾は、ひばり様の次男に新しい名を貰った。
彼を主人とし仕え、生き抜くための情報収集を行い、彼らを新時代へと導いた。
拙い言葉の羅列ですが、読んで頂き有り難うございます。
感想等いただけると幸いです。