忠犬ロン
毎日、学校の登下校中に璃桜様は近所の犬の頭を撫でる。
その犬の頭を撫でる事が出来るのは璃桜様だけ、もう飼い主でも無理なのだ。
なぜならこの犬ロンは五年も前に死んでいる。
璃桜様と飼い主の晋太郎君の目の前で交通事故に遭ったのだ。
晋太郎君は璃桜様の唯一の友人であり、サッカークラブでの優しい先輩だった。
最近、二つ年上の晋太郎君が中学生になって会う機会が減ってしまった。
しかし今日はいつもと違っていた。
ロンの横に死神がいるのだ。
『珍しいにゃ。死神!』
『おやおや、猫又さんお久しぶりです』
璃桜様が真っ黒い雪だるま型の影に話しかける。
「死神様ですか?」
『お話をさせて頂くのは初めてですね、千義璃桜様。
ところで、私の名前は死神ではありませんよ。路先告人と言います。
間違った【死】をされた方にのみに路を案内……』
「ロンのお迎えですか?」
話を遮り璃桜様は死神に問いかける。
『はい。ロン様と晋太郎様のお迎えです』
「晋太郎様って……」璃桜様が悲痛な一言を絞り出す。
『本当は五年前亡くなるのは晋太郎様だったのですが、ロン様が身代わりをされたのです。
晋太郎様は最近入院されていたのですよ。ご存じではなかったのですね』
ロンが思いっきり尻尾を振って「クーン」と啼く。
振り返るとそこに晋太郎君がいた。
『私は路先告人といいます。貴方を迎えに来ました。
実は今回少しややこしいので、説明をします。
五年前亡くなるはずだったのは貴方で、ロン様が自分の寿命を晋太郎様にあげたのです』
『ロンが僕の身代わり……今、僕は死んでる?』晋太郎君が確認する。
『はい。四十九日程過ぎると自然と皆さん常世にいらっしゃるのですが、
ロン様に問うたら、晋太郎様を待って一緒に逝きたいと』
ロンは晋太郎の周りを走り回っている。
五年間待って、やっと飼い主に撫でて貰え至高の笑顔だ。
「晋太郎君……僕は……」璃桜様は涙で言葉にならない。
『わかった。ロンありがとうね、一緒に逝こう』
『まだ時間はあります。待ちますよ』見た目気味の悪い死神が優しく話す。
『いや、悲しい顔の親を見るのはもういいからもう逝くよ。
しかし、璃桜君は本当に死んだ人と話せるんだね。
じゃ、一つお願いがあるんだけど……』
迷いない笑顔でロンと共に消えていく晋太郎君。
今日は泣いている璃桜様を乗せて空高く飛んでみることにしよう。
葬儀中、晋太郎君に頼まれた日記を本棚から拝借する。
璃桜様が最後のページに書き加え机の上にもどす。
いつか気が付くように。
―― お父さん、お母さん 心配かけてごめん
そして、ありがとう 晋太郎 ――
拙い言葉の羅列ですが、感想をいただけると幸いです。