プロローグⅡ
気が付くと妾は、短尾で右眼に刀傷を纏った隻眼の三毛の子猫に生まれ変わっていた。
何かに誘われるように武家屋敷に入って行くと、老人となった千部本様が縁側に座り頭を垂れていた。
あれから数十年たったのだろうか……
庭に梅の花がさいている。
早春にしては暖かい午後であった。なのに、座敷にはまだ幼子が床に伏している。
そして、寝かせられているその子の胸の辺りに黒い影が視える。
あれは人の悪意が作り出す闇なのだ。
黒い影を食らうことが出来れば千部本様への恩返しになると思えた。
『千部本様 恩を返すにゃ』
何故かそういう言葉が勝手に出てしまった。
驚いた千部本様から出た言葉は
「コマなのか?生きていたのか?」だった。
” コマ ”
その名を聞いただけで全ての記憶が戻ってきて、尻尾の先までがビリビリと痺れてきた。
『何故妾の名を知っているのにゃ?』
「忠義の化け猫“コマ”として、今では有名な美談になった。
あの時は恐ろしい猫じゃと思うたが、あの後 殿は変わられた。
奸臣は排除され、素晴らしい藩主になられた。
そなたのおかげで藩は無事存続しておる」
『そうなのか?兎に角、その娘っ子の胸に禍々(まがまが)しい影がいるにゃ。
妾が取り除いてやるにゃ』
全身の力を込め刀傷のある右眼を開けると、その眼は血の色に染まった輝く魔眼であった。
熱く憎々しい感情を持った黒い影は全てその右眼に吸い込まれていった。
軀が熱くなり、そのまま妾は気を失った。
拙い言葉の羅列ですが、読んで頂き有り難うございます。
感想等いただけると幸いです。