事故物件
前の主人である一正様は先代の運送業を継ぎ社長をしている。
小さい会社だが従業員も三人ほどかかえて頑張っている。
現在は大手宅配の委託業務が主な仕事だが、偶に県内や近県の引っ越しも行っている。
以前は引っ越し先に霊がいると一正様は客に黙って我に退治させていたが、
ある時から急に
「このアパート事故物件みたいですが大丈夫ですか?」と
客に尋ねるようになった。
それは動画サイトを持つ人が事故物件と知って住む人が増えたためだ。
それほど悪影響がない霊ならば放っておくことにしたのだ。
―― 霊にもいろいろある。
人などを恨み呪う悪霊。
悪い行いをして地獄に行きたくないと逃げている霊。
自分が死んだことが解らないままフラフラしている霊。
現世に未練・何か思い残すことがあり、留まっている霊。
まだ生きているのに身体から出てしまう生き霊など様々。――
主人が代替わりしたことで、学校が休みの日は璃桜様も引っ越しの手伝いをする事になった。
なぜか、晴明まで付いてくるが……
いつもは着物姿だが、運送会社の制服をきている晴明がなんか面白い。
笑いを堪えていると、晴明に睨まれていた。
今日は、従業員の他にアルバイトも二名入れてある。
床を傷つけないためにマットを敷く。
その為に、璃桜様達は先に部屋へ入る。我も後に続く。
しかし、今回の部屋はなかなかやばい霊がいる。
この部屋で殺された女性の悪霊だ。
それも四・五体の霊がこの部屋にいる。
《憎い!憎い》《怖い!》《 助けて…… 》
この声は、璃桜様以外の人にはかなり雑音が混じり聞き取りにくいらしい。
幽霊の声がちゃんと聞こえる人は数少ない。
「すべて処分だな」
晴明が決定をくだす。
〔処分〕という言葉を璃桜様は嫌う。
好きで悪霊になる者はいない。
我が紅き右眼を使おうとすると、
「ちょっと待って!」
璃桜様は一人で奥まで進み、カーテンの裏にいた若い娘の魂に手を差し出す。
「『大丈夫!君はまだ家族の元に帰れる。僕とおいで!』」
その子の肩に触れると姿が消え白いオーブとなって掌に乗る。
「後はお願い!」
我と晴明にそう言うと、璃桜様はオーブを梵字の書かれた壷に入れた。
そして、肩から提げた布袋に大事そうに仕舞った。
我は紅き右眼を開く。
死んでも尚、殺された恐ろしさ・悲しさが彼女達を蝕んでいたのかと悲しい気持ちでいっぱいの璃桜様であった。
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