神様の岩Ⅰ
よく行く駄菓子屋の側に、象が横たわったような大岩がある。
高さは2.5mぐらいであろうか。
岩の反対側はほぼ垂直に切り立っていて、中央に小さな窪みがある。
そこに小さな祠が祀られている。
年に一回のお祭りの日には祠の前で子供神楽が奉納される。
この岩の反対側は登ることが出来き、子供達の少し危険な隠れ遊び場の一つになっている。
子供達は駄菓子屋の行き帰りに寄っては誰が一番で登れるか挑戦している。
我も上まで登って日向ぼっこするのに良いのだが、隣のアパートに住んでいるあの婆様に見つかると二階からバケツや鍋で水をかけられる。
「神様の岩に登るんじゃない!」と……
子供達は飛び降り、慌てて逃げる。
璃桜様も何度か水をかけられた。
窓が開いた瞬間、子供達は慌てて飛び降りるので少し怪我をする事もあり、迷惑婆さんと嫌われていた。
もちろん乗って遊ぶ方が悪いのであるが……
この祠には土地神様が祀られている。気さくな神様と我は仲良しなのだが……
少し怠け者の神様は自分で作った結界からほとんど出なくなった。
そして、最近では出られなくなっていった。
週に一度、お小遣いを貰った璃桜様と神様の岩の先にある駄菓子屋に行く。
いつも決まって、璃桜様は苺飴で我はイカ焼きを買ってもらう。
それなのに、今日は嫌な感じがする。
いつも祠に供えてある花が枯れている。
璃桜様が気付いて声を掛けた。
「神様どうしたの?」
祠の前をウロウロする土地神様
『大変じゃ!お千代婆様が悪霊になっちまう。助けたいがどうすれば……』
「『僕と共に行こう!』」
璃桜様が《言霊》を発し手を差し出す。
意を決した土地神様は璃桜様の手を掴む。
パラパラと音を立て結界が崩れる。
璃桜様は驚きの顔をした神様を連れて結界を飛び出る。
急いでお千代婆様のアパートの階段を上ると、ドアの前に座り込んでいる婆様が
生臭い匂いを纏っている。
これは死霊だ。きっと部屋の中でもう亡くなっているのだ。
お千代婆様に近づき璃桜様がドアノブを回すが鍵が掛かっていて開かない。
《 私はいつも一人!誰にも必要とされず、このまま朽ち果てる。
淋しい。恨めしい。私を一人にした者を恨んでやる 》
徐々に死霊の魂が邪悪化している。
我が紅き眼を使おうとすると、婆様は赤黒い邪気を纏い立ち上がった。
《 邪魔をするな! 》
婆様から恐ろしい恫喝の声がする。
「『悪霊になってはだめ!よく見て一人じゃないよ!
神様が貴方を心配している。一人じゃないよ……僕らもいる』」
璃桜様が言霊を操る。
『お千代。いつも守ってくれて、敬拝してくれて有り難かったよ。
だから、お千代誰かを恨んではいかん!』
婆様は神様を視ると、はらはらと涙を流した。
《 一人で苦しくて、このまま死んでいくのだと思うと怖くて 》
『いつも可愛い花をありがとうなぁ。お千代。貴方は綺麗なままであっちに行くのだ。さあ儂の手を掴んで……』
《 淋しかったんじゃ 》
婆様が泣きながら神様の手を掴んだ途端、赤黒い邪気は霧が晴れるように消えた。
婆様は驚き、そして深くお辞儀をし笑った。
顔を上げたお千代婆様の魂が白く光りながら消えていく。
「ありがとう。間に合ったよ」空を仰ぎながら悲しげに神様は微笑んだ。
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