言霊(ことだま)の少女
「クロここに来ませんでしたか?」
聡子の病院に駆け込んできた少女が叫ぶ。
「『私の猫です。返してください』」
頭の中がフラフラする。
不思議な力を持った言葉が我を責める。
遅れて少女の母親がやって来て大騒ぎする少女を宥めようとするが
どうも様子がおかしい。
少女に逆らえない。
「君の名は?」晴明が問う。
「しおりだけど。『クロを返して!』」
抵抗しようとすると頭の中がグランと揺れる。
「《言霊》を操っているな。こんな小さな子が持つには良くないな」
晴明が困った表情をしている。
晴明の言葉を聞いた璃桜様は
「しおりちゃん。《言霊》は僕が預かるよ」
そう言い、左手で少女の頭を撫でると、少女の口から光る霊が現れた。
璃桜様はその光る霊を右の掌にのせ、静かに両の手で包んでその光の霊を吸収した。
晴明のこんな驚いた顔を初めて見た。
「私のクロ……」
少女がそう言っても、もう頭の中が揺れたりしない。
「『この猫はうちの子なんだ。うちの別の子猫をあげるから、返して欲しい。いいよね』」
璃桜様が強く言霊をのせて言うと、少女は頷いた。
驚いたことに少女から奪った《言霊》を璃桜様はもう使いこなしている。
晴明はそんな璃桜様を危ぶむ目で睨んでいた。
汐里と名乗る少女の顔が、憑きものが落ちたような優しい表情になった。
聡子が少女の母親と後の相談をしている。
産まれたばかりのスコティッシュフォールドの子猫と交換という事で落ち着いたようだ。
皆が喜んでいる中で、晴明が深いため息をしていた。
読んで頂き有り難うございます。
感想等いただけると幸いです。