黒龍帝と呼ばれ旧文明を滅ぼした僕は、戦いに飽きたので、一万年後の平和な世界に転生し夢だった冒険者になろうとしたが、聖剣抜けない無能勇者王女と魔族に裏切られた残念魔王様に訳あってW求婚され、共に旅する。
短編掲載です。
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ピンクの衝撃。
もにゅもにゅと自在に形を変える柔らかなそれらに、僕はなす術なく飲み込まれている。
「ゼノンから離れろ無能勇者っ! ゼノンはワシのものじゃ!」
淡いハーブの香り。慎ましいがはっきりと存在感のある形のいい双丘。その間に顔を押し付けられる。
「イヤですっ! 手を離すのはあなたです残念魔王!」
引き剥がされて今度は暴力的な重厚感のある肉壁が顔に迫る。抱きつく力も相まって、呼吸ができない。
く、くそ、この痴女共。この僕を何だと思ってる!?
まるでおもちゃ扱いじゃないか。
この世界に転生してから約一時間。僕は今、出会ったばかりの魔王と勇者にWで求婚されている。
「ゼノン君! こんな裏切られ年増魔王なんて放っておいて、パーティ組もう! 魔王を倒したら、わ、私と結婚してっ」
「なに子ども相手に顔赤らめてんじゃ! このロリコン天然ボケ勇者王女が! ゼノン! ワシの配下になれ! お前の力でワシを裏切った魔王軍を根絶やしにするぞ! ほ、報酬といっては何じゃが、ワ、ワシの操をお前にくれてやるぞ?」
「はっ! ババァの操なんているわけないじゃん! てかあなたもゼノン君に色目使ってんじゃんロリコン!」
「んじゃと! 牛みたいなデカパイぶら下げたバカ王女には言われたく無いわ! 誰がお主みたいな残念勇者王女と結婚するか!」
「なにを!?」
「なんじゃ!?」
「ふざけんな! 全部いらん! 僕は自由に冒険するんだ!」
僕に抱きついたまま、二人が眉間をぶつけ合って睨み合う。
この二人、僕の話なんか聞いちゃいねぇ。
くそう。なんであの時、僕は足を止めてしまったんだ。
後悔しかない。
転生してすぐ、彼女達と出会った時を思い出して頭痛がした。
☆
「どうした勇者王女ぉ! ワシを殺すんじゃなかったのか!?」
「い、言われなくてもっ! 魔王覚悟っ! はぁあああっ!」
また始まった。当てなく歩いていた僕は、この二人の女性の下らない小芝居を見つけてからぼーっと眺めていた。
「きゃあっ!?」
勇者と呼ばれた女性が黄色い悲鳴をあげて尻餅をつく。
剣は当たるものの、魔王の身体に傷どころか服に破れ一つ見えない。
「お前、本当に勇者か? 何故ワシに傷ひとつつけれんのだ。ほれっ! もう一度じゃ!」
「ううっ。イヤです! もう無理です! だからさっきから私、勇者向いてないって言ってるじゃないですか!」
「何を言うか! 貴様はロブロイ王国の王位継承権第一位のルシア=ロブロイ=ロイヤルクローバー王女じゃろ!? ロブロイ王国の王位継承者は決まって勇者と決まっとる! お前は立派な勇者じゃ。お前の父、元王だって......」
「聖剣抜けなくてもですか?」
「えっ?」
「勇者の証である家宝の聖剣抜けない私が、立派な勇者なんですか?」
「そ、それは......」
「ぐすっ。この剣だって町の武器屋で買った手頃な普通のロングソードですし、それに王国出る時には仲間がいたんです! 勇者パーティがあったんです! それも三人もですよ! 三人! なのに全員私を捨てて王国に帰っちゃいました。あんまりです! 私、仮にも王女ですよ!?」
「......うん。仮でも無く正真正銘の王女じゃな、お主は」
「ふぇええ。魔王さーん」
「お主が泣くでない。泣きたいのはワシの方じゃ。想像つくか? 寝て起きたら、配下の魔族全員に裏切られ、おまけに魔力まで根こそぎ奪われ、命を狙われる立場になった。残ったのはこの頑丈な身体だけ。死にたくても死ねん。ははっ。笑えるじゃろ?」
「わ、笑えません。泣く子も黙る闇の覇者、恐怖の大魔王ベルベット=ノヴァク=ブラッドマリーが一晩にして雑魚にーー」
「あ?」
「ひうっ、ごごご、ごめんなさいっ!」
「いいから立てっ! そして私を殺せ! 勇者のお前ならそれが出来る!」
「は、はいっ! 行きます! 魔王覚悟ぉおおおおっ!」
「はぁ。おい雑魚共。お前らいつまでこんな事やってるわけ?」
飽きもせず何回このやり取りループすんだよ。
無視しようとしたが、流石のアホさに我慢ならず声をかけてしまった。魔王の視線が僕に刺さる。
「んじゃとクソガキャアアアッ!」
「ベルベットさんどうどう! 相手は普通の人間の子どもですよ!」
「うるさい! 人が魔族かは関係ないっ! こう言うガキは今の内に躾とかんと後で面倒になるんじゃ! それにこの大魔王様を雑魚呼ばわりは万事に値するっ! そこに直れ!」
勇者に羽交締めにされてもなお目くじらを立てた魔王が僕に向かって詰め寄ってくる。
ガキ、ねぇ。そうか転生して僕は人間の子どもになったのか。
そういえば特に転生後の姿に指定なく転生したな。
人か。どうりでお尻の辺りがムズムズするわけだ。尻尾が無くて落ち着かない。
「やっと見つけたぜぇ、ベルベット」
嫌に耳につく、低い唸り声のような男の声がした方を向く。
獣型の魔物の群れ。数は三十......いや、五十はいる。そして漏れなく全ての魔物達が重々しい甲冑に身を包み、思い思いの獲物を手にしている。
その出立ちが彼らが自然の魔物でない事を告げている。
「魔王軍!? 追いつかれたか。モタモタし過ぎた」
魔王の発言に全力肯定。追われてる身であんなバカな小芝居打ってたの?
「なあ魔王?」
「なんじゃ、クソガキ」
「お前バカだろ」
「さっきから初対面でバカバカうっせえな!?」
「魔王さん落ち着いて! てか君はこの状況で落ち着き過ぎじゃない!?」
「焦る必要がないからね」
グダグダやってる勇者と魔王を放って、獣型の魔物の群れと対峙する。
「なんだお前は? 二人の仲間か?」
「あんな連中と仲間扱いしないでくれる? バカが移る」
「あっはっはっ! そうだよな、あんなマヌケ魔王の仲間扱いなんかされたくねぇよな! 気に入った! オレ達を前にして堂々としたガキだ! オレ達に付いてこい。召使いにしてやる」
「召使い? この僕をお前如きが? 図に乗るなよ三下が」
「図に乗ってるのは貴様の方だクソガキッ! 死ねぇえええっ!」
そういえば転生すると力はどうなるんだろう。
豚みたいな魔族が振り下ろす鈍器を見つめながらふと思う。
転生すると弱体化する。
それが僕の仮説だ。
転生する前ーー前世で僕に挑んできた自称転生者が何人かいた。
大賢者とか精霊神......英雄王なんて奴もいたっけ? あんまり覚えてないけど。
結局、全員僕の身体に一つも傷をつける事なく全員死んだ。
こいつの攻撃受けてみるか。
ひょっとしたら怪我するかもしれない。
物心ついてから初めての怪我を。
「げへへっ。仕留めたぜぇ。なにっ!?」
「そんな成りしてこの程度が?」
「何だこのガキ!?」
興醒めだ。怪我どころか痛みすらない。
こめかみに叩きつけられて折れた鈍器の先端を拾う。
「おい魔王」
「な、なんだ?」
「この雑魚魔族共は殺しても問題ないのか?」
「裏切り者達だし、別に問題はないが......」
「そうか」
なら、死ね。
持っていた鈍器の先端を魔族の群れに投げつけ、肺いっぱいに空気を取り込み、取り込んだ空気と体内の魔力を練り上げる。
そして体内に感じた熱を一気に吐き出す。
ーードラゴン・ブレス。
僕らドラゴン唯一の技にして最強の技。
身体の頑丈さは相手が雑魚過ぎて測定不能だが力は、どうだ?
「ぎぃやぁあああっ!?」
地獄絵図。阿鼻叫喚。
僕の吐き出した黒炎が魔族の群れを包み込み、炎の中から獣の咆哮のような悲鳴が各所で上がる。
大分加減して打ったがこの威力か。転生したてで制御が上手く行ってないようだが、力は衰えてないみたいだ。
「すごい......あの数の魔属を一撃で......」
ん? まだいたのか。
声がした背後を振り向くと、地面に座り込んで阿呆みたいに口をポカンと開けた魔王と勇者がこちらを見ている。
「お前本当に人か? 口から黒炎? まるで神話に出てくるドラゴン、黒龍帝ではないか」
「なんだ魔王、お前黒龍帝のこと知ってるのか?」
なら話は早い。今後こいつらと連む事はないだろうが、一応名乗っておこう。
「僕の名前はゼノン・ドラゴラフィム。一万年前、黒龍帝と呼ばれたドラゴンの転生体だ」
☆
「わかったから、一旦落ち着け」
肩で息しながら同じく、肩で呼吸する今にも襲いかかってきそうな獣二匹と対峙する。
「お前ら二人の目的は現魔王の討伐。なら二人で魔王討伐の旅をすればいい」
現魔王を倒し、魔力を取り戻したい旧魔王。
人類を魔の手から救う為、現魔王を倒したい勇者。
二人の利害は一致してる。
強さはどうあれ、肩書きは魔王と勇者。魔王討伐の役者には十分だろう。
二人に背を向けた瞬間、背後から抱きつかれた。
「待って待って! 二人じゃ無理です! こんな年増魔王と私じゃ勝てません!」
「年増言うなっ! たが無理なことは同感じゃ。ゼノンも見たろ? このへっぽこ勇者の剣筋を! 見捨てないでくれぇ!」
「知るか! 離せ! 僕には関係ない!」
こういう他人に寄生する奴にロクな奴はいない。
どうしても離れんというなら地面に引きずって引き剥がしてやる。
「くっ......このままじゃ振り解かれる。魔王さん、ここは停戦協定しませんか?」
「なに?」
「現魔王を倒すまでは一旦求婚はなし。倒した後、どっちがゼノン君とくっつくか決めましょう」
「............わかった。ここでゼノンを逃すのはバツが悪い。その条件呑もう」
「おい」
僕を無視して話を進めるな。そしてあたかも自然に僕の腕に抱きつくな。
「まあまあいいじゃないか。ゼノン、お主の転生の目的は『美しい景色を見ること』じゃろ? ワシは元魔王だっただけあって、世界に詳しいぞ」
「むっ。そうなのか?」
「私だって、勇者であるのと同時に一国の王女です。私といれば身分に困る事はありません。身元不明の子どもが一人旅なんて、いくら力が合っても何かと不便ですよ? 美しい景色を見る、つまり観光するなら尚更です」
なんか、上手く言いくるめられてる気がするが、彼女らの言い分には何となく筋を感じる。
そもそも一万年後のこの世界がどんな場所で、どんな地形をしているのか、そしてどんな生物がいて誰が支配しているのか、正直わからない事だらけなのだ。
宛のなさすぎる旅。
別に時間は無限にあるが、また厄介事に巻き込まれないとは断言できない。
「......不服だが、とりあえず、仮にだけどよろしく、魔王と勇者」
「もー! ゼノン君ては他人行儀だなー! これから一緒に旅するんだから、勇者はやめてよ! 私のことはルシアって呼んで!」
「そうじゃ。ワシのこともベルベット......はちとながいのぅ。ベルと呼んでくれ!」
「.........う、ん。よろしく、セシル、ベル」
「よーし! そうと決まれば早速物見遊山じゃ! 行くぞゼノン、セシル!」
腕に抱きつくセシルが元気よく返事したのと同時に、腕にくっついているおっぱいがもにょんと形を変えた。
......この感触には、イマイチ慣れない。
☆
「ゼノンは本当に一万前、つまり旧文明を滅ぼした黒龍帝ゼノン・ドラゴラフィムその人......いや、そのドラゴンってことか?」
「まあ、二人の話からするに、そうなるな」
「ほええ、凄いです。でもそれならあの魔族を全員焼き払った黒い炎を操れるのも納得です」
星降りの湖。
目的地はここから程なく歩いた所にあるそうだ。
歩きながら話してくれる二人の話は大変興味深い。
一万年前、戦いに飽きた僕が世界を滅ぼした後、再び人と魔族が急激に人口を伸ばした。
伸ばしたが、争う事はほとんどなく、それぞれの棲家で干渉することなくお互い穏やかに過ごしていた様だ。
その関係性がベルの魔力を奪った魔物が魔王になってから激変。
人の棲家に魔王軍と名乗る魔族が侵攻、略奪を始めたのだ。
それに伴い、人々の住まう王国はセシル王女を勇者とし、魔王討伐に乗り出したそうだ。
「恐らくゼノンの話は本当だろう。話の内容に矛盾がないからな。私は趣味で旧文明について研究してたんだ。二百年ほどな」
「二百年!? ベルさん何歳ですか!?」
「約三百歳ぐらいだ」
「三百歳!? ほえー。皆さん長生きしてますね。私なんてまだ十六歳ですよ」
「............この天然クソ勇者王女は天然でこれ言ってるんだから世話ないな。旧文明の遺産はオーパーツと呼ばれ、かけらだけでも貴重とされ、強力な武器や兵器に使われたりしているんだ。お前の国聖剣とかな」
「あの忌々しい喋る家宝の聖剣ですか! あのジジイブレード、お前如きにワシは抜かせんとかほざきやがって!」
「へえ。そんなそんな面白い剣があるのか」
「ゼノン君見ます!? 家来ます!?」
目を輝かせたセシルが僕の手を取って目を輝かせる。
「いいですよゼノン君! 家に来たついでに、ゼノン君のドラゴン・ブレスで聖剣焼き払ってもオッケーですっ!」
い、いいのか? 家宝じゃなかったか?
僕の手をブンブン振り回すセシルの頭をベルが叩いて諌める。
「落ち着けバカ者。そんな事したら人類にとって大きな痛手になって、ロブロイ王国最大の愚王に認定されるぞ」
「うー、それはイヤですけど......悔しいんですっ!」
「わかったわかった。だがあの聖剣を間近で見ているお前もわかるだろ?」
「まあ、はい。あのクソジジイソードのおかげで王国に結界が張られ王国は守られてますからね」
「あれが旧文明の力だ。そしてその文明を焼き払ったのが、ここにいる、最強のドラゴン、黒龍帝ゼノン・ドラゴラフィム......くぅーっ! あのゼノンが味方に! 勝った! 新魔王に絶対勝った! やったぁああああっ!」
「なんか喜んでる所悪いけど、僕は魔王とは戦わないよ」
「「ええっ!?」」
そんなハモリながら驚いた様な顔で同時に振り返られても意見は変わらん。
「僕はもう戦うのは辞めたんだ。どうせその魔王だって大したことないないんだろ? だったらお前ら鍛えるから自分で倒しなよ」
「ま、まあ! それはおいおい話していこうではないか! ほらっ! 着いたぞこれが星降りの泉じゃ! 絶景じゃろ!」
思わず、息を呑んだ。
目に映った透き通った空と湖がさっきまでモヤモヤしていた気持ちが嘘の様に吹き飛ばす。
「綺麗だ......」
美しい青の空、そして湖の周りに連なる山の稜線
を鏡の様に映す湖。
「ふふ。ゼノン、凄いだろ? だがな、この湖は夜が本番なのじゃ。名の通り、この泉には星が降る」
「星? それってどんな......」
「それは夜になってからのお楽しみじゃ」
「見つけたぞ、元魔王ベルベット。そしてセシル勇者王女」
地鳴りの様な響く声。
声が届いたのと同時に辺りの美しかった景色の全てが赤に染まる。
「この声......不死王サバトか」
「呼び捨てとは馴れ馴れしいじゃないですか、元魔王様。どうやら私の部下を可愛がってくれたみたいですね」
ベルの表情が苦虫を噛み潰したみたいに歪む。
聞こえた声と同時に、血の様な泉から蝙蝠の羽の様なマントを羽織り、トリックハットをかぶった骸骨が現れた。
「ベルさん、あいつ誰ですか!? 見た感じ、かなりやばそうですなんですけど!」
「不死王サバト。新魔王軍の四天王の一角じゃ。名の通り不死。奴は死なない」
「死なない!? そ、そんなの反則じゃないですか!? どう倒すんですか!?」
「......わからん」
「そんなっ......」
「なにを悠長に話してるんですか? お二人共」
サバトが血の池の上で踊る。
踊ってマントが翻る度、そこから身体を腐らせた人型のゾンビが生えてくる。
「さあ、ダンスの時間だ」
サバトの声と同時にゾンビの群れが雪崩の様に押し寄せてくる。
「ぐっ!? 逃げろルシアっ!」
「ベルさん!? きゃあっ!」
「あははっ! 流石のベルベットさんも魔力が無ければなす術無しですか!」
「サバト......!」
「いい目だ。ご安心下さい。魔力がなくてもあなたは美しい。私専属の娼婦にして差し上げます」
「誰が貴様なんかの......この腐れガイコツが」
「ふふ。その態度がいつまで持ちますかね? その強気な瞳が絶望に染まる瞬間を是非見てみたいですねぇ」
「下衆が......」
「ふははっ! 幾らでもおしゃって下さい。勇者王女。あなたも私の好みです。よい身体付きですね。合格です。あなたも私のペットに加えて差し上げましょう」
骸骨が踊りながら嫌らしい高笑いを浮かべた。
ベルとルシアは大量のゾンビ達に地面に組み伏せられている。
あの雅な景色がこのクズに一瞬にして奪われた。
それにさっきからペタペタペタペタと、僕の身体に薄汚い手で触れて来やがる。
不意にベルとルシアの方法向いていた骸骨の窪んだ黒い目が僕を捕えた。
「なんだガキ、まだ生きていたのか。男はいらん。さっさと死ね」
上等だ。クソ骸骨。
堪忍袋の緒がブチギレたのと同時に身体から黒炎が迸った。転生する前からあったこの癖、直って無かったか。
まあいい。この鬱陶しいゾンビ共を葬るには都合がいい。
「なんだその禍々しい黒い炎は!?」
ゾンビを焼き払いながら声を荒げるサバトに歩み寄る。
「ゼゼゼ、ゼノン!? ワシらもおるぞ! 巻き込まれるっ!」
「安心しろベル。僕の炎だ。お前らを焼かない様、コントロール出来るに決まってるだろ」
ルシアとベルを地面に組み伏せるゾンビ共を焼き払う。
「お前らに構ってる余裕はない。巻き込まれたく無ければ下がってろ」
「「は、はいっ!」」
四つん這いで僕の後ろに逃げる二人を尻目にサバトの前に立つ。
「さて、骸骨君。君の踊りはもう終わりか? 取り巻きのゾンビは全ていなくなったみたいだが?」
「......私の部下を葬ったのは君だったようだね。おかしいと思ったんだ。無能勇者と残念魔王が倒せる魔王軍ではないからね。首謀者は君か。見誤ったよ」
シルクハットを押さえて笑うサバト。
「余裕そうだな」
「んー? 君が強いのはよーくわかった。だが僕は不死だからね。君がいくら強くても僕は殺せない」
帽子をとって優雅に僕にお辞儀するサバト。
死なない、か。
試しに黒炎でサバトを焼き払う。
「無駄ですよ」
声がしたかと思うと消炭から再び白い骨が再生し、サバトが組み上がる。丁寧にシルクハットまで再生している。
「これが不死王と呼ばれる所以です。あなたが疲れ、心が折れかけた所を仕留めさせてもらいます」
「なるほど不死か」
自分で口にして思わず口元が緩んだのがわかった。
「一万年前、貴様らが旧文明と呼ぶ時代。そんな奴らはゴロゴロいた」
「え、そうなのか?」
「旧文明恐ろしいです......」
呟く二人を放って、再びサバトを屠る。
「い、一万年前? あなたなにを戯けたことを......む、無駄ですよ。あなたが幾ら私を殺した所でーー」
「ベル、ルシア覚えておけよ。教えてやる、不死者の殺し方を」
☆
「お、お助けぇえええっ! ーーぎゃっ!?」
「これで四十一回目。まだまだ行けるか?」
「も、もう止めて......ぎゃああああっ!」
「四十二回目」
消炭からサバトが復活する度に黒炎で消炭にする。
「ひぃいいいっ......」
「鬼だ......鬼がおる」
失礼な。僕を鬼なんていう下等生物呼ばわりするとは。
二人に不快感を込めた表情を向けると「「ひっ」」と悲鳴みたいな声を上げた。
なに、その反応?
「なに怯えたような顔してるんだ二人共。これがれっきとした不死者の殺し方だ。お、四十三回目」
「ぎぃやぁああああっ!?」
不死者の殺し方。それは不死者自身が再生しない事を選択し、消滅すること。
身体は不死でも、精神は不死じゃない。殺される度に精神は擦り切れるし、痛みも伴う。
それを実践で教えてやってるのに失礼な態度だ。
なおも怯える様な表情をする二人の前に、またまた再生したサバトの首を鷲掴みして突き出す。
「いいか? 不死者を殺すには肉体ではなく、精神を殺す事。瞬殺を繰り返し、僕に勝てないとわからせた上で次はじわじわと殺す。こんな感じに」
黒炎をコントロールし、サバトの手足の指先からじわじわと焼いていく。
「や、止めっ......うぎゃあああっ! 熱い! 熱いぃいいいっ!」
一気焼失させるのではなく、じわじわ焼く。そうする事で苦しさが倍増する。
「も、もう......限界だ。止めて、くれ」
「あ? 止めてくれだと? まだ躾が足りんようだな」
「ひっ! や、止めてください! ぎゃっ!?」
サバトの言葉を聞くのと同時に全身を焼き払う。
「四十四回目......む、終わりか」
いつも焼き払っても残っていた炭化した骨の残骸が粉になって宙を霧散した。
サバトは復活する事を辞め、死を選んだようだ。
同時にサバトが現れ、変わりきってしまった赤の空間が元の景色に戻る。
辺りはすっかり暗くなってなっていた。
「もう夜か。たく、時間かけてやがって。この僕に向かってクソガキとは失礼な奴だ。思い出したらまたムカついてきた。再生魔法で復活させてまた殺すか?」
「も、もう大丈夫ですっ! 大丈夫ですからっ!」
何故か瞳に涙を蓄えたルシアに抱きつかれた。
な、なに泣いてんだこいつ?
「......お主は正真正銘、旧文明の黒龍帝、ゼノン・ドラゴラフィムじゃ」
「? だからさっきからそう言ってるだろ」
「あっ! そんな事より見て見てあれっ!」
僕に抱きついたまま、ルシアが星降りの泉の方を指差す。
「う、わぁ......」
目の前に広がる景色に、言葉が上手く出てこない。
泉から生えた木々に空から雨の様に降り注ぐ星々が絡み付き、七色の輝きを放ち煌めいている。
星が落ちた湖はまるでオーロラの鏡の様に輝きを放ち、幻想的な景色を醸し出している。
星降りの湖。
その名に恥じない奇跡の光景に、心奪われその場に固まった。
「どうじゃゼノン、こんなの序の口じゃ。この世界にはこんな景色を上回る絶景が山の様にある」
「それは......心躍るね」
僕の生きてた前世の世界。そこは争いで荒廃したこの世の終わりのような場所だった。
「さあゼノンっ! 絶景を巡るついでに魔王も倒しちゃおう!」
「そうじゃ! ゼノンがおれば怖いもんなしじゃ!」
明るい声のベルとルシアが僕の腕に抱きつく。
「さ、触るなっ! そして胸を押し付けるなっ!」
「あんなに強いゼノンもこっちには弱々じゃな」
「ほーんと。そこは見た目通りなのよね。可愛い。えいっ!」
ルシアが柔らかい二つのあれが、もにゅんと腕の中で自在に形を変える。
くそ、この感覚にいつまで経っても慣れらない。
それに新魔王を倒す気は無い。
でも、この二人とこんな景色を巡るのは悪く無い。今はそれを咎めるのは辞めておこう。
「ふ、ふんっ! そういえばベルの代わりに魔王になった者は何というか名前なのだ?」
「あー......それ聞く?」
む、何故ルシアは僕から目を逸らすのだ?
それに質問した途端、ベルの表情が厳しくなる。
「新たな魔王、そやつの名は、ゼノン・ドラゴラフィム。ゼノン、お主と同じ名前なのじゃ」
「.........は?」
これにて短編完結です。
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