ジューンブライド・ブルー
あの日、私は確かに死にました。
あなたが殺しました。ぐさり、心臓を一突き。
私、結婚式はあなたの作ったドレスが着たいなあ。
眩しいくらいの笑顔で、グランプリのトロフィーを抱きしめながら、熱いフロアライトに照らされていたあの日のあなた。
確かに、そう言ったのが聞こえました。
私とあなたは、デザイナーとモデル。
でも、私が作ったあの日のドレスは、確かに肩書きをむしり取った丸裸の、あなたと私のそのものだった。
私ね、結婚するんだ。
だから、あなたの作ったドレスが着たい。
知っているのに。全部、知っているのに。
彼氏ができた、と言う度に変わっていくあなたのリップの色も、好きな服のブランドも、脇腹が弱点なことも、2年前にショートカットにして「似合わなかった」と言っていたことも、お酒はあんまり強くないことも、私とは違うベクトルで「好き」を話すことも、全部、知っているのに。
お金なら払うから、とあなたは笑いました。
お金なんていらない。私が欲しいのは、最上級の賛美でも、トロフィーでも賞状でもない。
けれど、私はあなたの一番ではないのです。
だから、私は作るのです。
あなたの、血となり肉となり骨となり得る、最期の布を。
これは、私の生命です。
あなたの肺になりたい。あなたの背骨になりたい。あなたの心臓になりたい。
たった一日、その日だけは、あなたのすべてになりたい。
だから、作るのです。
ペールブルーを身に纏ったあなた。白いチャペル。世界一美しい、場所。
この日だけは、私の血と肉と骨を纏って生きてください。
世界一美しい笑顔で、私の1番のドレスを。
この日が終わったら、全てを脱ぎさって、ここへは戻ってこないでください。
ここには、あの日のあなたと私の全てだけが残るのです。
永遠に。
ただ、私の横で、私の全てを纏って、笑って歩いて欲しかった。
それだけでよかったのに。
おめでとう。そして、さようなら。
大好きだったあなた。
私はここで、大好きだったあなたの抜け殻と朽ちゆくのです。