魔物の言い分
「じゃあお兄さんがおじいちゃんと会話している間に僕から言わせてもらうよ。」
反論内容は単純明快。地図が完全に理解出来なくても植物達が地図の位置と彼らの拠点の位置を大体教えてくれていた。植物は勿論全員が地図を理解出来るわけがない。ただ、植物同士伝言ゲームがやりたい放題なのである。分からなければわかる植物に聞けばいい。その解釈で少女達に情報が入ってきていた。
「お兄ちゃんはここには住んでいないけど…ここは僕たちの拠点。人間が勝手に足を踏み入れたり開拓することは許されない。しかもそのルートで開拓ということは最悪おじいちゃんの木を切るとかそういう感じでしょ。許さないよそんなの。」
「とは言われてもこれが最短ルートだ。それはお前達の都合だろう?」
家臣にしてみれば、魔物の言い分などどうでも良いのである。このままではこの街は破綻してしまう。そんなことがあってはならないという責任がある。
「僕は街道を作るのは別に良いよ。人間達ともっと会話してみたいもん。」
「おい!そんなことしたらおじいちゃんが怒る!」
「知ってるー。ただ、作るなら作るで皆が納得できるようにして欲しい。そんな勝手に人間が好き勝手したら僕だって人間怖くなっちゃうし、お兄ちゃん達は人間食べちゃうよ?」
「そうだな。おじいさまから連絡が来たが、そこのルートは明らかにおじいさまを切る、或いは近傍すぎる。第一、おじいさまだけじゃない。ここら辺は俺らの兄弟も点在している。迂闊に開拓したらあいつらがお前らを食うだけだぞ?」
補足でおじいさんは人間の開拓など興味がない。こちらが先に住んでいるのに勝手に道を作るな。どうしてもなら我々にどういった利点があるか述べよという…まあ、絶対開拓させないという意志があった。
「なんだと?魔物の分際で…」
「その発言はおやめなさい。私はマイを見て来ているから分かるけど、彼らの知能は私たち並みよ。差別を許される相手じゃないわ。」
ムサビーネ夫人が家臣に向かって割って入る。今回は戦争になりなねない事象の及第点を探すというのが目的である。喧嘩するのが目的ではない。
「その発言も気に入らないなぁ。じゃあ僕ら以外の魔物は皆んな人間の足元ってこと?お兄さん。やっぱり人間はダメだよ。とっとと分からせた方が良いんじゃない?」
12歳の少女はツルを伸ばし臨戦状態になっていた。憎しみとは時と場合によっては誤った方向へ進んでいく。それがただの思い込みたとしても。人間側はビクッとする。
「やめろ。マイに言われている。手だけは出してはいけない。雌花を怒らすことはおじいさまにも禁止されている。」
少女は睨みつけるだけで止まった。流石におじいちゃんには逆らえない。ギルマスやムサビーネ夫人はマイがいなければ本当にとんでもないことになっていたのではないかと頭を悩ませているのであった。話は平行線で進んでいく。とりわけ、人間の意見に対し、おじいちゃん木と少女は何でも反対…開拓させんだった。ケリンは打開策を検討…女の子は人間との交流並びに安全を考えて道を作れば良いんじゃない?みたいな発言をしていた。伯爵達は子供が何故こんなに叡智なのか疑問に思うかもしれないが…中身は200~300歳とか1600歳とか人間なんかより圧倒的に経験が豊富だった。まあ人生経験であり、開拓知識というわけではないが。
(まいったな…埒が明かない)
ケリンはおじいさまの声を聞きながら頭を悩まさざるを得なかった。なお、現状は迂回ルートを作れば良いんじゃない?と6歳の雄花が発言している。しかし、今度は家臣が動かない。言うのは簡単である。しかし道を迂回させるとなると、やはり開拓費用が嵩んでしまう。更にどうやっても多少でも山に組み込むことになる。そこを登ったり降りたりでは荷馬車には荷が重すぎるのである。また、これは誰も気づいていないのであるが…そこまでして開拓するメリットが不十分だった。確かにこちらの街と向こうの街との距離は近くなる。とはいえ、普段は王都経由で貿易のため直接2者で、ではなく王都へものを売る方が手っ取り早いのである。実際それを実施しようとしているのではあるが、どちらの街も他の街に比べずば抜けたものがない。要は収入が足りない。だったら2つの街で…となっているものの果たしてそれだけでここまで大規模なことをやって元がとれるのか分からないのである。
「貴方、このままでは時間が過ぎていくだけです。彼女達はここから遠いところに住んでいるとのこと。何度も来るわけにもいかないでしょうし…何でも良いので結論を出した方が良いかと。」
ムサビーネ夫人は魔物達の意見をちょっとでも通そうとしていた。まあ、裏はゴマスリなのであるが…。
「そうだな。相手の街へ計画の変更を連絡する必要もある。彼らとの連絡手段も限られているから次回の打ち合わせまでには報告したい。次回までもう日がない。地図を見る限りこの魔物達の住処はこちらの開拓範囲だから向こうが何かしらするとは思えないが…万一があるとと考えると連絡は免れぬしな…。」
会議は午前から始まり、午後も2時間は実施中。全員疲労が溜まっていた。
「すまぬ。マイ。聞いているんだろう。マイも何かしらないか?俺達…というよりおじいさまが満足し、それでいて人間どもも妥協出来そうな内容だ。」
庭に植わっている植物にケリンは話しかけた。無茶振りだとは分かっている。ただ、参加しているメンバー全員がお手上げ状態だった。
私からのアドバイスですが「何故議論しているか?」の目的を考えましょう。「相手を叩き潰す」ではありません。「自分を認めさせる」ではありません。「他者貢献するため」です。互いにとってのwin-winを考える場所です。それが出来ない議論は全てこの物語みたく「泥沼化」します。この物語はあくまで「人間」VS「魔物」ですが、リアルでも相手を叩き潰すべき「魔物」であると無意識で考え行動していませんか?