妹の誕生
誰に聞いても分からないとの事なので、おばあちゃんが花を産むたびに観察していたが1つを除いて私との相違点はなかった。その一つとは花が咲いてから落ちるまでの期間である。私は1週間はくっついていた記憶があるが、他の花は風や雨、それが無かったとしても数日で落ちてしまっている。要は人間で言うところの流産なのではなかろうか。
(うーん、だけど流産だってある程度成長していればちゃんと生きれるはず!)
生まれてから100年、そんな長期において人生…植生?飽きずにやって来れたことの一つが妹を無事育てるために手を尽くすことであった。とは言え最初の数十年は全部失敗に終わっている。中々花が出来て落ちる時に丁度私が寝ていたり、ちゃんと私のような形になった時に会うことができなかったり、条件が全て揃ったとしても未熟児のため何処かへ行ってしまう。捕まえようとしても大体転んでしまったりして捕まえきれない。私自身もまだ森の奥に行ってはいけないと言う制約がある以上、そこを超えてしまうと追いかけることが出来ない。と言うよりおばあちゃんに境界側へ行くと怒られてしまう。そんな中、ツルをある程度駆使できる状態に成長した時チャンスが巡ってきた。
『511番目の子よ。良いかの。ここの草原から出てはならぬぞぇ。』
おばあちゃんの声が聞こえた。この言葉イコールちゃんとした個体が誕生したことになる。走ると碌なことにならないことは数十年もすれば嫌でも学習するのでゆっくり妹のところへ向かっていった。案の定、妹は少々呆然の上木々の方へ歩いていく。
「行かせないから!」
地面にツルを差し込み、妹の体を地面に引っ掛けた。妹は転んだが、そのままツルで固定する。
『394番目の子よ。何をしているのじゃ?』
おばあちゃんが若干怒った声で話しかけたが、
「この子を救うの!見ていて!」
と言い返し、妹の元まで歩いて行った。妹は脱出しようと暴れている。妹のツルを外しながら私は妹の手を取った。
「こっち!そっち言っちゃダメ!」
どうせ声は聞こえていないだろう。だけど、おばあちゃんと違って私は動ける。だから手振り素振りでおばあちゃんの木の方を指差しながら妹を引っ張った。
「こっち!」
妹は不思議そうな顔をしながら私と一緒についてきてくれた。
『394番目の子よ。お主は凄いのじゃ。511番目の子を救ってくれるとはのぉ。』
「えへへー。」
その油断が命取りだった。ちょっと手を離した隙に、妹はまた何処か行こうとしたのだ。
「だめ!」
とっさに走る…のではなく、右の腕からツルを伸ばし妹を捕まえた。多分これ、意図伝わってないなぁ。
「おばあちゃん。私達って日の光さえ浴びてれば生きていけるんだよね?」
『うむ?水と土も必要じゃが?』
「おばあちゃん。少し体を借りても良い?」
『借りるとはどう言うことかの?まあ傷付けなければ構わぬが。』
「ありがとう!」
妹をツルを使って強引におばあちゃんの側まで連れてきた後、日当たりが良さそうなところにお腹を縛り付けた。私と同じ構造なら足もどきは根である。要は足もどきがちゃんと地面に付いていさえすれば、後日光が当たりさえすれば動けなくても生きていける。そう思っての判断だった。
『394番目の子よ。それでは511番目の子が可哀想じゃが。』
「死ぬよりマシ!それに今は意思疎通出来なくてもそのうち出来るかもしれないんだからちゃんと待ってあげて。」
未熟児は大抵3-4日ぐらいで木から落ち…と言うよりほぼ全部の花がそれぐらいで落ちたのだが…落ちたら枯れるか行方不明である。であるならば、早く落ちてしまっても数日経てば喋れるようになるかもしれない。それが私の目論見だった。そしてその考えは的中する。更に数日後、おばあちゃんから
『394番目の子よ。ツルを解いて良いぞい。』
「え?」
『お主の言った通りじゃった。妾と511番目の子もお主同様意思疎通出来たのじゃ。木々の方には行かぬと約束したしのぉ。もう大丈夫じゃろ。』
「わかったー!」
妹を縛っていたツルを解いてあげる。妹は何かしゃべっているようだったが何も聞こえなかった。
「おばあちゃん?この子喋ってるの?」
『あ…うーむ、どうやら511番目の子はまだ妾以外意思疎通出来ないようじゃのぉ。ほれ、お主の姉じゃ。お主が喋れない時必死にお主を守ってくれたんだぞえ。』
「え?必死って…」
『妾から見れば必至そのものじゃったのぉ。』
妹はしばらくおばあちゃんの木と私を交互に見た後、私にお辞儀をした。多分お礼であろう。私もお辞儀を仕返した。そうして妹が出来たのである。それから更に数十年。私が生まれてから95年目ぐらいに事件は起きた。色々試行錯誤したが、どうしても花の転落時や人型になった直後が深夜が多く、あるいは咲いている最中に小鳥に突かれる等傷付けられ枯れてしまったりと生まれて95年経っても妹は2人しか出来なかった。だけど、誰もいないよりかは大分ましだった。ツルを使う訓練が殆どであったが、それでもおばあちゃん以外にも会話したり戯れ合ったりするだけでも楽しい。おばあちゃんが産んだ花をいかに私たちのようにするか検討するのも楽しかった。まあ結局時間が合わず終了だったのだが。。。そんなある日、
「お姉ちゃん。お姉ちゃんはいつまでこの草原にこもってるの?」
と、真ん中の子…ユイと呼んでいる…が質問してきた。
主人公の経験が今後の展開にかなり携わっております。色々細かな設定ですが、ストーリー崩壊回避のためもう少しお付き合いよろしくお願いします。