雄花の改心
「はぁ。まあ良いでしょう。で、えっと…1時間前ぐらいに、遠征に行っていたハンターが全員帰って来ましたが、その件で大丈夫ですよね。」
「です。まあ、情報は彼らにも流しました。強いて不足していることと言えば、やられた側の意見ですかね。そこにいる女性…まあ、実際雄花なので男性なのですが…」
「え?どう見ても女性では?」
「そのツッコミはもう聞きません。私だって初見殺しでしたよ…で、まあ、被害者を連れて来たので聞きたいことあれば彼に聞いて下さい。あ、彼はケリンと言って大体1600歳ぐらいだそうです。粗相の無いようにして下さい。私と違って人間に甘く無いので変なこと言ったら殺されると思って下さい。」
「危ない方連れてこないでくれませんか?」
「喧嘩売ったのはここのハンターギルドでしょ?知ったことではありません。ちゃんと彼も人の言葉喋れるので安心して下さい。」
「う…ぐうの音も出ないですね…。わかりました。」
ミサさんは慎重にケリンに話を聞いていく。まあ、私もケリンに手だけは出すなと言っている。それにミサさんは魔物に詳しく、マイの観察日記さえ書くような変人である。逆に言えば、マイと同種の魔物の扱いにも大分慣れていた。まあ、初見だったら殺されていただろう事象は全部マイに仕掛けているから学んでいるということでもあるが…。
「そうですね…結論から纏めますと、ケリンさんの住処を開拓しようとしているのを止めろと言う事ですか。」
「そうだ。あそこは俺らの住処。調査しにくるさえも大迷惑だが…俺らの住処を奪おうと言うことはそれ相当の報いを受ける覚悟があると言う解釈で良いのだよな。」
「そうですね…私としても、ケリンさんの住処を開拓するのは反対ですね。全く何考えているんだか。」
「何?お前は人間だろ?お前も開拓しようとしているのではないのか?」
「そんなの上層部がハンターに命令しているだけですよ。まあ、何も情報がなかったと言うのがありますので調査隊が入ってしまう事故については謝罪しますが…わかった上でそれでも開拓するとか言ったら上はバカですね。私だって愛想尽かします。」
ケリンは再びキョトンとしてしまった。
「ケリンさん。魔物の中にもケリンさんのおじいさまやケリンさんの様に人間を迫害する魔物もいますが、私やここの街にいる魔物のように一緒に生活している魔物もいます。人間も同じですよ。魔物と一緒に生きたいと考えている変わり者ということです、この女性は。」
「なんかマイさんに言われると嬉しくないんですよね。」
「褒めていませんからね。」
「チッ。」
「喧嘩なら買いますよ?五首のどこが良いですか?」
「でもそれを言ったらシュウさんはどうするのですか?」
「シュウ君は私と一緒だもんねー。」
「え…うん!」
急に振られたシュウ君はびっくりしたようだが、すぐに反応してくれた。
「この2人見ているとバカップルに見えます。男の子と女の子なのに真っ黒過ぎますよ。」
「ミサさん自体が真っ黒じゃないですか。」
「はぁ…もう今日は私が疲れたので反論は無しにしましょう。」
「珍しいですね。」
「いや、ハンター達が帰還した後事情聴取とか大変だったんですよ。証言は追々来るとおっしゃっていたので今ケリンさんにお伺いはしましたが…それを除いても…第一この件貴族が関わっているんです。下手に機嫌を損なわせるわけにも行きませんし。」
と言っている本人は個人的に喧嘩を普通にふっかけていたような気がするが…まあ流すことにしよう。
「で、どうするんですか?私が何とか説得して一時的に殺し合いは止めれましたが…デレナール伯爵とかがそれでも開拓云々言い始めたら私はもう止めれませんよ。私そこまでこの街に執着ないのでシュウ君連れて出ていきます。」
「はぁ…。本当にそうなったらマイさん。私も連れて行ってくれませんか?財産持っていくので3人で静かに過ごしましょうよ。」
「あ、それ良いですね。シュウ君。私とミサさんで三人でどっかで暮らさない?」
「え?」
シュウ君はキョトンとしてしまった。理解していないのだろう。まあ、理解させる意味もないのでスルーである。
「とりあえず、ケリンさんには私が知っている限りでお話ししましょう。貴族…まあ、私たちの街のトップと言えば良いでしょう…が、あなた達の住処を開拓したいと命令しています。今、ギルマス…要はここの組織のトップですが…ギルマスがこれ以上仕掛けるとこの街全体があなた達に襲われるから開拓は止めろと報告しようと書類を作っている最中です。なので、ケリンさん方も暫くは待って頂けないでしょうか?これでも貴族どもが折れない場合…そうですね…私も殺し合いは反対なので別の手段で説得出来ないかここのギルドの一員で検討しましょう。それはお約束します。」
「わかった。今はお前達を信じよう。すまないな。」
「どうしてケリンさんが謝るのですか?今回第三者の私の目で見ても悪いのは仕掛けた人間ですよ?」
私が突っ伏しながら突っ込む。
「いや…今更ながら思ったが、人間共が俺らの住処に入って来た時に颯爽殺すのではなくマイが今やっているように話し合いをすればこんなことにはならなかったのではないかとふと思ってな。」
「ケリンさん。それは甘い考えです。私だって拠点近傍で私に気づいた魔物がいたら即刻駆除します。森の中で相手のことを考えていたら自分が殺されるだけですよ。情が移ったんですか?」
「さあな。」
ケリンは叔父に状況を伝えるからと、直ぐそこに生えている観葉植物に話しかけていた。おそらく私が普段やっているように伝言を伝えていくんだろう。ミサさんに声をかけられた。
蛇足ですが、ケリンと言う雄花はなんだかんだで話が通じる雄花と言う設定です。マイ程甘くはないですが…。